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修 羅





血と、硝煙と

幾度となく繰り返される戦にもとうに飽いた


時々、もう今となっては本当に時々

自分は何故生き続けるのかと未だに思う時がある


幾千、幾万もの年月をただ独りで過ごした

ユキは死ねない女だった

見た目だけなら二十歳ほどの、だが実年齢は千とも万とも言える女だった



「だ、誰だテメーッ!?」

「‥‥‥迷い込んだか」



今はもう殆ど人と関わりを持たないユキの住まう山奥にも、時々人が迷い込んだ

近くで戦があったから、そちらから来たのだろう



「こんな山奥に人が居るなんてな。しかもアンタ、女か?」

「勘だけは良いようだ」



勘はいい

言ったように、ユキは男の恰好をしていたし見た目も長い山暮らしで男のようだった


下卑た笑いに嫌気がさして、帰り道を教えるのを止めて刀をとる

そして切り殺した



「テメー‥‥」



今日は客が多い

声のした方向に、ユキはゆるりと振り返った

返り血すら浴びないユキを見据えて、男は刀を抜く



「焦るな。このまま行くなら構いはしない」

「‥‥‥んだとぉ、人の獲物を狩っておいて随分な言い草じゃねえか」



やはり戦の残党だったか

これは余計なことをしてしまったようだ



「去れ。お前にこの男に感じたような不快はない」

「不快だから殺したってのか?餓鬼みてえな奴だな」


「私は人の理には嵌らない。いいから去れ、鬼よ」

「ハッ、鬼たぁまた随分だな」



言って斬り掛かられる

速い

ピリピリと空気が痺れて、紫電が走る



「雷神か」

「竜に仕える、な」



途端にユキは身を翻し己も刀を構え直す

どうやらこの男、ヤる気らしい



「やめろ。意味がない」

「こんな所でこれだけ腕の立つ男に会ったんだ。見逃せる筈がねえっ」



ならば死ね、耳元で囁いて刃を向ける

だがその瞬間、男の刃もユキの腹を貫いていた

雷が伝って内臓を焼く



「ああ、久しぶりで、鈍って、いた、か」

「!」



男の刀を掴み、より深く腹に突き刺す

あたたかい、だから、死ねるかも知れない

そう思って、ユキは男に抱きつくように身を寄せた



「なっ、テメッ」

「殺してくれ、鬼」



崩れ落ちる体から刀を引き抜いて、男はユキを見下ろした

そして驚愕する

ゆっくりと塞がっていく傷口

だが体が痺れているのか起きる気配はない



陸奥の山奥に住まうという修羅とは、コイツのことなのか?




2009.11.9.


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