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熱効率を上げろ!




追え!



逃がすな!






追っている人物の消えた路地の先に、行止まりを見つける



しめた




トオルは抜刀しながら奥へ走る

思えば何故入る前に仲間に知らせなかったのか


いや

ついて来られなかったアイツらが悪い

そして手柄は全部俺のものだ




そう思い直すと真っ直ぐに前を見据える


だが自分の体調の悪さも理解していた





朝から降り続ける雨に打たれ続けた身体


風邪気味だった体調は最悪だった








─ガキィィィンッ




踏込んだ瞬間に交わった刃

耳を裂く金属音に、少しくらりとする

だが次の斬撃にトオルは身体を捻り、それを躱した



「はっ!てめぇ、女か」



いつの間にかやんだ雨に月明かり

距離を取れば互いの姿がハッキリ見えた

隊服を着込んでいるトオルは、邪魔だからと胸を押さえ込んでいる

同じ理由で短い髪

中性的な外見を持ち、男に間違えられるほうが多いトオルは、女と言い切った男に少なからず驚かされた



「そんなこと、関係あるか?」

「ククッ‥‥いや、関係あるめーよ」



喉の奥で笑った男は刀を握りなおす



「阻む奴ぁ、蹴散らすだけだ」



瞬間

再び走る刃


交われば今度は、片方が片方の刃の上を滑った


雨に濡れた地面をも滑るように、二人は足を前に踏み出す



「‥‥‥(熱い!)」



熱い


身体が?

心が?

この、胸が



風邪のせいで熱が上がっているのだろう

熱いという感覚だけが、トオルのその身体を走る



「まったく、ありがたいぜ」



トオルは小さく呟いた


この身体の熱が、その感覚が

この男との対峙に触発されるはずの恐怖を希薄にさせていた

もし普通の状態だったならば、数分ともたなかっただろう


だから、ありがたい



この男
高杉晋介との対峙に、自分にとってこれ以上の好機はない





―ドクンッ




自分の鼓動が大きく鳴ったことに、トオルは一瞬気付かなかった

しかしそのせいで崩れた体勢に、高杉の一閃がトオルの脇腹を横薙ぎにする

隊服どころか晒まで切り裂かれ、赤い線が一本腹に走った



再び互いに距離があき、トオルは腹に手を伸ばす




「‥ハァ‥‥ハァ‥切れた」



手に着いた血が雨で流れる

だが致命傷じゃない‥‥ハズ

薄皮一枚‥‥とは強がれないが、今すぐ戦えなくなるほどではない



「ククッ‥‥切れたな」

「‥‥あぁ、もう長くは戦えない」



切られたせいではない

熱だ

風邪が悪化し過ぎた


それが自覚できる



「風邪なんだ」



何を言ってるのか自分で分からなかった

風邪を申告してどうする?


ただ、熱のおかげで雨も足下も気にならない



─ザッ



ほとんど無意識に動いた身体が高杉と交差した

ただ勢いに乗った身体は止まれずに、そのまま地面に突っ込んだ



あぁ
ダメだ

意識が飛んだ






─バシャァァンッ



派手にすっ転んだ音に高杉が振り返る

刀を握ったまま、トオルは倒れていた





「‥‥‥‥」




キリッと痛む肩に手をやれば、血が伝う



「ちっ」




─ヒュッ

―ザシュッ



地面に突き刺された刀

そうして暫くトオルを見下ろしていた高杉は、おもむろに肩に抱え上げた



「‥‥う‥」



苦しそうに呻く声はするが、目覚めることはない

そしてそのまま、高杉は夜の闇に消えた






その日、真選組は高杉晋介を捕らえることはできなかった

トオルが高杉に連れて行かれたことにすら、誰も気付かなかった




2008.9.16.


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あきゅろす。
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