[携帯モード] [URL送信]
幻影





「白蘭様、その者は」

「ラビだよ。知ってるでしょ?」



その男は幻騎士と言った

隙のない男で、時折向けられる殺気にすら騎士の名に相応しい覇気を感じた



「記憶はないけど、秘書やって貰うことにしたから覚えておいてよ」

「‥‥はい」



何だろう?

向けられる視線は普通だと思うのに、その奥に、疑いをかけるような心が見えた気がする


それは、私が前回の任務で怪我を負ったから?

それとも記憶が戻っていないからだろうか?



「失礼します」



言った幻騎士の後を追い、お茶を淹れる為に部屋を出る

すると急に幻騎士が霧に包まれたようにぼやけた

次いで現れた茶色い髪の青年



「‥‥‥誰?」

「僕が分からないの?ラビ」



綺麗なオレンジ色の瞳


あったかい

懐かしい?



「分からない、誰?」



あなた、誰

あなたは私のなに?

知らないのにどうして、涙が出るの?



「あなた誰?」

「‥‥‥‥‥‥」



その青年は霧散するように消えて、後にはラビだけが残された







やわらかな

暖かい手を思い出す


あれは白蘭様?


わからない、わからない、私、わからないの

不安で押し潰されそうになる

宛てもない旅路にコンパスさえ無い、太陽さえも登らない



不安で、不安で、

ラビは震える身体を抱き締めた




2010.7.20.

[*前へ]

3/3ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!