[携帯モード] [URL送信]
霧散して消える女とドフラミンゴ
※ワンピース




気が付いた

彼はきっと、彼の事を何も知らない私だから愛してくれたのだ

この世界の、何もかもを知り得ない

ドレスローザも、ドンキホーテの名も、天竜人さえも何も知らなかった

言わば彼のモノサシでは計りようのない生き物だったし、この世界のモノサシにも当てはまらなかった

そして彼を自分のモノサシで見る私を、何故か好きになってくれた


微かな光に包まれながら、ユキはやっと、それだけの答えを導き出した



「ユキっ」



切羽詰まったような呼び声に、ユキはドフラミンゴを振り返った

焦ったように隣りに降り立つ、ピンク色の鳥

ピンクなんて甘い色は好きじゃなかったのに、今じゃ一番好きな色だ



「ユキ」

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ」



出会った頃呼んだように、フルネームで呼んで

しゃがみ込んで近くなった頬に手を伸ばす

そしてその手を受け入れてくれる、彼が好きだ



「何で光ってる」

「消える、のかも」



「分からねェのかよ?」

「ううん」



ああ、消えてしまう

この奇跡のような世界から私は消える

彼の前から消えるのか、彼が私の前から消えるのか



「俺が行くなと言ってもか?」

「自分じゃあ、どうにもならないみたいだ」



こんな日が来なければと願い、来るなら早くとも願った

愛おしいとドフラミンゴの頬を撫でながら、ユキは微笑んだ

ドフラミンゴは対照的に笑えなかったし、ユキの肩を掴んだ腕が僅かに震えた


どうしても手に入らないものなど、忘れてしまえばいい

やがて消えるものに意味が無いなら、ユキの存在だって無意味な筈だ

だがそれは違うという事は、本当は分かっていた

消えると知り得てなお微笑むユキを、これ以上愛おしいものはないのだとドフラミンゴは悟っていた


頬に触れていたユキの指先が震えて、その先から消えていくのが分かる

二人は一度動揺し、しかし次の瞬間には抱き締め合っていた



「ドフィ、あと一秒‥‥」

「なんだ?」



「あと一秒、貴方に触れていたい」



そう思えることが幸せなんだと、ユキの瞳は語っていた

例え次の瞬間に消え失せていても、その手に触れる温もりが無いものになっても


ただ其処には風があって

まるで今までもずっとそうで在ったかのように、もうドフラミンゴは何も覚えていなかった

眩しいものを見るように細められた自分の瞳

何かを捉えていた筈の自分の腕

微かに自分の頬に残る何か


それがもう、いったい何であったのか分からない



「‥‥‥‥‥」



空虚とも呼べるその感覚に、ドフラミンゴはただ苛立った




(ある日のお別れ)
2014.10.13.

[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!