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Z先生に嫌われる
※劇場版ワンピース、前日譚



「先生、あんな海賊達なんて殺しても意味ないじゃないですか」

「またかユキ、てめェのぬるい説教は聞き飽きたぜ」



船内で行く手を阻むように立っているユキの横を、ゼットは通り過ぎていく

偶然遭遇した海賊を壊滅させた直後、ゼットの後を追い、ユキは踵を返した



「あの時の海賊とは、違う人間なんですよ?」

「お前は、その瞳も腕ももう戻らねえってのに、まだ憎み切れねえか」


「海は、求める者のものではないですか?」



ここに来てまたかと、ゼファーは歩みも止めずに渋面を作る

ユキは、ゼファーが海軍時代に教育していた生徒の生き残りだった

ゼファーに恨みを持つ海賊に、家族も生徒も皆殺しにされた

ユキは中でも奇跡的に生き残った生徒で、その時右目と左腕一本を無くしていた

だが悪魔の実の能力も持たない、その身ひとつでその後の戦場を生き抜いてきた強者だった



「それにこの傷は、己の弱さ故にです。他の誰のせいでもありません」


―バタン



目の前でドアが閉まる

(貴方こそ、まだこの傷の事を言うんですか)

心の中で毒づいて、眼帯に覆われた瞳に触れる

否、瞳などとうに無い、ただの空虚な窪みがそこにあるだけだった



「先生のせいでも、ないんですよ」



「先輩」

「アイン、ビンズ、先生なら中だよ」



声に振り返ると、同じく生き残りであるアインとビンズが少し難しそうな顔をして立っていた

それに少し笑って、ユキはひらりと踵を返す



「先生も歳なんだから、何処か静かな島で隠居してくれればいいのにね」


二人が頷かないと知りながら、ユキはその言葉を残してそこを後にした







「アインっ」



一瞬のことだった

その一瞬が生死を分けた



「先輩っ、ユキ先輩っ」


「アイン!駄目だっ」



海に落下しそうになったアインの身代わりに、ユキが落ちた

能力者であるが故に、アインとビンズは助けに行く事が出来ない



「先輩っ、そんなっ」



嵐の中で出くわした海賊との戦闘

この波ではまず助からないというのは分かりきった事実で、全てが終わった後にゼファーはただ黙っていた



「申し訳ありませんっ、先生、わたし、」



泣きじゃくるアインを部屋で休ませ、甲板から水平線を見つめる


そう言えばユキが決まって死を話題にするのは、この水平線を見つめる時だった

空と海が繋がる場所だとそう言って、笑って

人はいつか必ず死ぬんだとそう言って、受け入れて


それを思い出して、舌打ちする



「お前は自分の死も、そう言うんだろうよ」



だから運命論者は嫌いなんだ


そう言ったゼファーの声は海に飲み込まれた




2014.6.1.

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あきゅろす。
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