泣いた桃鳥
※ワンピース
続・『月が綺麗ですね、若』
戦争をしないと世界に誓った国、そこから来たのだとユキは言った
馬鹿な国だと罵ってやったのに、ユキはそれでいいのだと笑っていた
戦いを強要して、争いの中に落として、それでもその理想を語れたなら信じてやると
そう言った
「月が綺麗ですね、若」
最後にそう言った
そう言って、ユキは意識を手放した
見捨てる事も出来た筈だ
あの時の答えを知ろうが知るまいが、どうでもいい筈だ
理想なんてものは簡単に形を変え、消え去り、やがてゴミ屑みたいに足下に転がる
夢の罪の重さを知らねえ若造が撒き散らす病原菌みたいなもんだ
叶う夢なんざ、ほんの一握り
「ユキ」
ベッドに横たわり、長い管を体に巻き付けたこの末路こそが、叶わぬ夢の最たるものだ
「ユキ」
「‥‥‥はい、若」
死に損ないのこれが一体何の意味を持つのか、ドフラミンゴには分からなかった
これの声が己の耳に響き、これの目が己を映す意味も知らない
己の内に渦巻くこの感情も、薄い膜に包まれたような柔らかい場所も知らなかった
「月が、綺麗だな‥‥ユキ」
ただ、あの日の彼女と同じ言葉が零れた
2014.5.20.
(小説家・夏目漱石が英語教師をしていたとき、生徒が"I love you"を「我君を愛す」と訳したのを聞き、「日本人はそんなことを言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と言ったとされる逸話から。)
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