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トラファルガー・ローに指先が届かない
※ワンピース




「キャプテン」



そう呼んで伸ばした手は、キャプテンには届かない

酷い嘘を吐いた

自分でも呆れる

こんな事になるなら、もっと早くバレてしまえば良かったのに

こんなにキャプテンを想うようになる前に



「どうした?命は助けてやる、ドフラミンゴの所へ帰れ」

「若には命を救われた恩があるけど、私はキャプテンを裏切ったりしないよ」



ユキはこの世界の住人ではなかった

突然に別の世界から此方に放り出され、路頭に迷い、ドフラミンゴに拾われたのだ

そしてドフラミンゴの命によりローの船でローを監視していた



「‥‥もう話す事はねェ」

「キャプテ‥」



近寄ろうとすれば、視線で制された

覇気が漏れる、全身で拒絶している

そのまま背を向けられて、ユキはただ其処に立ち尽くした


ああ、



「‥‥っ‥」



消えていく

指先が色と形を失い、薄く向こうの景色を映す

なんだ、こんなに簡単な事だったのだ

必要とされたい人に、必要とされない事

それがきっと、世界を渡る条件

じわりと視界が歪んで、それが涙のせいなのか消えていくせいなのか分からない

ただユキは走り出した


消えたくない

まだ此処に居たい


でも本当は知っていたんだ

叶わない夢がある事も、報われない努力がある事も、だけどそれでも、諦めきれないことがある事も



「キャプテンっ」



伸ばした指先はキャプテンには届かなかった


どうせ届かないなら、ちゃんと殺してくれれば良かったのに

呼んだ声はきっと届かなくて

伸ばした指先は掠りもしない



久しぶりに嗅ぐ自分の部屋の匂いとか、お気に入りのカーテンの色だとか

もうどうでも良くなっている自分が悲しかった


ただ悲しくて泣いた




2015.3.4.
(ああ、畜生、悲しいな)

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あきゅろす。
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