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ダイスケ・アウローラに拾われる
※ヒートガイJ


昔々、と言ってもそんなに大昔ではないけれど昔、世界は戦争で滅びかけました

それはまずいって言うんで、人々は一部の人間に技術の推移を託して、七つの都市に引きこもりました

そして現在、18年のサイクルでそれぞれの都市を巡って人々を生かす天上人(テンジョウビト)と、都市に暮らす人々、そして大陸に住むサヴァービアの民などで世界は構成されています


この街の概要みたいなものにはそんな感じの事が書いてあり、ユキはやっと見つけた公園で街を見つめた

一体どうしたものか、見知らぬ土地に行く事は嫌いではないが、それは自分の世界での事である

はっきり言おう



「トリップしちまったぜぃ」



そんな馬鹿みたいなユキの呟きは誰に聞かれる事もなく空に吸い込まれた

公園の片隅に東屋を見つけて座ってはみるが、これから何をどうしていいか分からない

見知らぬどころか時空越えちゃってるよコレ、という自分ではどうしようもない事態に陥った場合どうすればいいのだろう?

取り敢えずお金がないから下手に動けないし、だが動かなければ野垂れ死に決定だ

どうしてこの世界なのかは知らないが、来てしまったからにはどうにかする、死ぬのはごめんだ



「あのさ」

「?」



己の思考に深く落ちていたユキは突然掛けられた声に反応出来なかった

ただ、ふと上げた顔の先には金髪の青年が居て、その緑の瞳にドキリとする

緑はヨーロッパ系だっけ?



「何してんの?」

「‥‥‥‥えーっと」



途方に暮れているんだが、この場合そのまま言っていいのだろうか

ユキが瞳を泳がせていると、青年はにっこり笑って言った



「アンタ、流民だろ?」

「リュウミン?」



聞き慣れない言葉に聞き返すが、青年が口を開く前にユキの背後から声が落ちてきた



「流民とは政府の許可を得ていない不法滞在者のことだ」



何だか渋い、漢と書いてオトコみたいな声だ

振り返れば2m以上ありそうなガッチリした体に黒いコートを纏った男



「もう追いついて来たのかよ、ジェイ」

「ダイスケの居場所はいつもテレメートしている、雑作もない」


「いや、俺が言いたいのはそういう事じゃなくてさ‥‥」



その大男、ジェイにダイスケと呼ばれたその青年は呆れたように言い返している

呆けたように二人をユキが見上げていると、それに気付いたジェイが質問を投げかけてきた



「彼女は流民なのか、ダイスケ」

「この辺じゃ見かけた事ないと思っただけだよ、データはお前が参照すりゃいいだろ?」


「‥‥彼女は流民だ」



ダイスケの言葉に一瞬動きを止めたジェイはユキを流民と断定した

何も適当に言った訳ではなく、マシーンと呼ばれるアンドロイドである彼は頭の中のコンピュータからこの都市・ジュドのデータベースにアクセスしたのだ

しかし二人に揃って見下ろされ、居心地が悪いことこの上ない



「あの〜、流民?だと何かマズいですか?」

「‥‥‥あーっと、この街で仕事は?」

「無いです」

「住む場所は?」

「無い、です」


「流民だとそういうモノが手に入りにくいわけ、何しろ政府に断りなく滞在してるわけだから信用ゼロって事」

「‥‥‥‥」



これは、思ってたよりもマズい状況であるらしい

どうしよう、否、どうしようもない

生死に関わるような案件にぶつかる前に帰らなければ、とそう思うがどうやって帰ればいいのだろう?

ユキが再び途方に暮れていると、見かねたダイスケは自己紹介を始めた



「‥‥‥俺はダイスケ・アウローラ、こっちは相棒のジェイ」

「えっと、ユキ・アカツキです」



曖昧に返事をするが、ダイスケに真っすぐに視線を向けられて背筋を正した



「じゃあユキ、俺んとこ来いよ」

「‥‥‥?‥え‥?」

「ダイスケ‥‥」



多少咎めるような声音のジェイにダイスケは何やら慌て始める



「何だよジェイ!‥‥‥だったら、特務課来いよ」



何やら色々と凄い言葉が飛び出したのは、気のせいだろうか?

そして"特務課"って何だろうか?



「ダイスケ、それは一晩泊めるということか?それとも特務課で雇うということか?」

「両方だよ」



言い切ったダイスケに、余り表情の変わらない顔でジェイは言った



「ダイスケ、男は女の弱みに付け込むものではない」

「何だよ付け込むって!?俺が騙すように見えんのかよ!」


「白々しいぞ、ダイスケ」

「なに言ってんだよ!白々しくねェよ!」



何だこれ?コント?

目の前で展開される言葉の応酬に、ユキは呆然と見守るしかない

ああでも、この人達はいい人達なんだなぁと、そう感じずにはいられない

気が付けばユキは笑っていた

それを見た二人も、優しく微笑む



「キュートだ、エンジェル」

「またかよジェイ、それ誰にでも言ってるだろ?」



エンジェル?

は、初めて言われた



「そんな事はない。ユキ、特務課に案内しよう」

「あ、でも」

「いいんじゃない?困った時はお互い様って言うだろ」



ああ、なんだ

ことわざ的なものは世界共通なんだ

差し出された手に、ユキは今度こそ素直に手を重ねた




2015.1.10.

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