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ドフラミンゴの名前を呼び、名前を呼ばれる
※ワンピース
続・『ドフラミンゴが迎えに来る』




世界を渡り、ユキはドフラミンゴの事を僅かに思い出していた

以前此処に居たことも、ドフラミンゴを好いた事も、今や朧気な記憶として確かにユキの頭の中にあった


そしてああ、そういう仕組みかと、ユキは思った

全てを失うと思っていたユキには、前の世界の記憶が残っていたのだが、しかし、ドフラミンゴの事を思い出す度にその記憶がひどく曖昧になっていく事に気が付いていた



「ユキ」



不意に呼ばれ振り返ると、ドフラミンゴがすぐ隣りに座った

事ある毎にユキに触れるこの男もまた、少しずつユキを思い出し始めていた

そしてこの城に住む者達も



「どうした?」

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ」


「フッフッフッ、何だ?」



だいぶ機嫌が宜しいらしいドフラミンゴは、挨拶代わりにユキの頭を撫でまわす

乱れた髪に抗議しようと見上げれば、サングラスを外している所で困ってしまった

裸眼のドフラミンゴは心臓に悪いのだ



「どうした?」

「いいえ、何でも」



いつものサングラス越しの視線とは違う

二人きりの時に見せる瞳が、ユキはまだ苦手だ


今はまだ、何故ドフラミンゴを好きになって、何故ドフラミンゴに好かれたのか分からないから

だからまだ、少し怖い



「ユキ」

「?」


「‥‥‥ユキ」



呼ばれて見上げるが、ドフラミンゴはただ名前を繰り返すだけで、何だかくすぐったい

でも名前を呼ばれると胸の真ん中がポカポカして、思わず微笑んでしまうから本当に不思議なんだ

それは、それはドフラミンゴも同じなのだろうか?



「‥‥‥‥ドフラミンゴ」

「ん?」



やはり微笑んだドフラミンゴに、胸が締め付けられた

また失われていく記憶を見送って、あの時願った全てを叶えようと手を伸ばす



「‥‥ドフィ‥」

「!」



突然呼ばれた愛称に、ドフラミンゴが息を飲んだ

世界が震える


そうだ、あの時も、ユキが微笑むと世界が震えた



「あと、一秒、ドフィ」

「アァ」


「あと一秒、貴方に、触れて、いたい」




頬に手を伸ばして、そしてその手を受け入れてくれる彼が好きだ

あの日にそう感じたように、今もそう感じていて、生まれた世界を全てなくした


ああこれで良かったのだと手放しには喜べないけれど、生まれた世界に負い目はあるけれど

だけど

これ以上愛しいものは他にはないという事も、ちゃんと分かっているよ



「ただいま」

「‥‥‥」



何も言わずに抱き締めてくれる

やっぱり貴方が好きだ




2015.1.9.

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あきゅろす。
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