後悔なんてしないよ、ボス
キアロは街の中心に位置する屋敷を前にしていた
特に門番は居ない
それをいいことに鉄格子の門を蹴破って中に入った
さすがに大きな音がしたので屋敷の中から人が出てくる
キアロの姿を見たその男達は、すぐに銃を抜き去った
―パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ
五発の銃声
正確にキアロの急所を狙った射撃
だが、それは全てキアロのナイフに落とされていた
「っっ、っ、化け物め」
「ボスが通るから、道を開けて」
言って走り出す
男は逡巡するが、すぐに銃を構え直して再び発砲
キアロはそれをかわして男の喉を切り裂いた
血の雨が降る
XANXUSは気ままに、任務にキアロを連れ出すようになった
キアロはその度XANXUSの為に血の雨を降らせ、血の海を作るを繰り返す
そうすればボスがこれを側に置いてくれる
そうして出来上がった関係はひどく曖昧であり不誠実な要素を含んではいたが、キアロは一向に構いはしなかったし、XANXUSもXANXUSで深くは考えないようだった
(キアロを側に置く理由になる)
無自覚にそう考えていたとしても、今はもう忠実に自分の命令だけをこなしていくキアロに征服欲を満たされているだけだった
今日も
殺して
殺して
殺して
三日眠らずに任務を果たした日もあった
以前の飼い主と居た時の三倍は殺していたが、仕事がそれなのだから文句を言う者は居ない
「‥‥‥此処で寝るな」
「ん」
─ちゃぷん
ぬるめのお湯の中でキアロは瞳を開ける
背中側にXANXUS
広すぎる風呂場の広すぎる湯船で、キアロはXANXUSにくっついていた
もちろんお互い一糸纏わぬ裸体ではあるが、二人の間にそんな艶美な空気はない
浴びた血を洗い流す、それだけの行為だった
「さきにあがるね、ボス」
XANXUS専用である此処は隣りがXANXUSの寝室である
体を拭いて、パンツとタンクトップだけ着てキアロはXANXUSのベッドに潜り込む
これらの事をスクアーロは随分と気にして色々言っていたが、キアロがXANXUSが飼い主だと言った時からあまり触れなくなった
飼い主と飼い犬
その関係に納得したのだとキアロは思う
やっと慣れた、柔らかなベッドの上で微睡みながら、ふとキアロは一週間程前にXANXUSが囁いた言葉を思い出した
いや、あれはもしかして夢だったのかも知れない
『後悔するな』
ボスの飼い犬になったこと?
それなら絶対ない、後悔しない
ベッドの左側が沈んで、XANXUSが来たのだとわかる
「ボス」
寝てなかったのかと、XANXUSがこちらを向いたのが分かった
分かったが、キアロは瞳を開けることなく微かに呟いた
「後悔なんて、しないよ?」
これはボスのそばに居る
ボスが追い出さない限り、ずっとずっとずっと
だから要らなくなったらこれを殺して
存在を、掻き消して欲しい
ああ、そうしてようやく
ボスとひとつになれるのだ
2010.2.19.
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