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物語【永久編】
struggle[中編]


「…馬鹿な真似って…結構考えてるんですよ…?」


言葉を紡ぐ蔵馬は、心底眠そうだった。
それを無視して、飛影は直ぐに返す。


「その足は。」

「妖気が戻ったら治します…から…」


“少し寝かせて…”
続けた蔵馬の言葉は、途切れ途切れだった。
咎める様な口調の飛影を思いやる事が出来ない程、睡魔に呑まれていった様だった。
それでも自分の行為を“馬鹿な事では無い”と、否定だけはしておきたかった様だが。

飛影は溜め息を吐きながら、素早く体勢を変えた。
自分が木に寄り掛かり、足の間に蔵馬を座らせる。
蔵馬の負担にならない素早い動き、体勢。
蔵馬が少しの間眠る事を許した、飛影の行動だった。


「昔…こんな風に…寝た事も……あったね―」


“あの時は、緊張して眠れなかったけれど”
意識を全部眠らす直前に、蔵馬は心の中で呟いた。


腕の中で重みが増した蔵馬を、飛影は後ろから見詰めた。
蔵馬がこんな風に眠るのは珍しい事。
普段、蔵馬は寝付きが悪い。
元々の性分なのか、飛影が帰る時間を気にしての事なのか―
尤も、気絶させなければ、の話だが。


余程眠りが深いのか…蔵馬は全く動かない。
それに甘える様に、飛影は躊躇う事無く蔵馬の髪を梳いた。
蔵馬は身じろぎもせずに、飛影に体重を預けていた。

蔵馬の髪も、素直に飛影の指に従う。
ボサボサだった紅い髪が、さらさらと流れる程に―…


たった二十分後、蔵馬は全く微動だにしなかった身体を僅かに揺らした。
余りに僅かな振動でも、蔵馬を腕の中に閉じ込めている飛影には蔵馬の目覚めを知らせるものとなった。


「…ん………」


吐息の様な蔵馬の掠れた声。
腕の中の普段より幾分高い体温。
うっすらとだけ開けた瞳で、当たり前の様に飛影に身体を擦り寄せる―

煽られていると誰もが取りそうな蔵馬の行動を、敢えて涼しそうな顔で飛影は流す。
蔵馬の髪を指先で流す、その行為を続けながら。


「…どれ位…?」

「半刻も経ってない。」


眠っていた時間を確認する会話。
飛影の所為で蔵馬が意識を飛ばした際の、様な。
少し笑いそうになったが、それも留めた飛影だった。

飛影の答えを聞いて、半覚醒状態であっても、蔵馬は安心した様だった。
飛影の腕の中、と言うこの上無く安心出来る場所だからと言って、何時間も眠りこけて居たんじゃ、…情けない。

そう思いながら、蔵馬は地上を見た。
自分が倒した連中が気になった故だった。
全員絶命させた覚えは無い。
だからと言って、半刻やそこらで自由に動ける程生易しくした覚えも無いが…


「―!!」


―居ない…?

まさか。

蔵馬は顔面を蒼白させた。
そこまで自分の力が及んでいないのか…


「―っ」


そう考えて、反射的に蔵馬は大木を飛び降りた。
地上まで、五十メートル以上。
蔵馬が倒した筈の妖怪が一人も居ない地へと向って、蔵馬は空中を降りてゆく。


目を見開き顔面蒼白になった蔵馬がするりと飛影の腕を抜けたのを、怪訝な表情で飛影は見ていた。
そんな様子は無かったものの…夢でも見て影響されているか、稀に出る寝惚けだろうと。
地へと向って急降下する蔵馬を見ながら、そう納得しかけて…


「チッ…」


舌打ちと共に、素早く飛影は地上を目指し枝を蹴った。
蔵馬に追い付く為、風を切りながら木の枝々を蹴りその反動を利用する。


「わっ…」


地に降り立つ筈だった蔵馬の身体が浮いた。
蔵馬の代わりに、少しの衝撃も無く飛影の足が地に降り立つ。
腰を飛影の両手で掴まれ持ち上げられた蔵馬は、まるであやされている赤ん坊の様で。


「…何…?」


恐る恐る、蔵馬が尋ねた。
飛影の足が地に着いていても、蔵馬は未だ赤ん坊の様に持ち上げられたまま。
けれどその事よりも、下から不機嫌そうに睨み付けて来る紅い瞳の方が、蔵馬にとっては気掛かりだった。



(後編へ続く…)



★あとがき★
「昔…こんな風に…寝た事も……あったね―」
↑REQUEST “非日常風景”をご覧下さい(´m`)←思い切りCM
前編後編で終わる筈が…まさかの中編。。。
ゆる〜い感じですが、お付き合い下さいませ〜
しっかし…ウチの蔵馬、飛影に抱えられるの好きね…
あ、違うか。
しっかし…ウチの飛影、蔵馬を抱えるの好きね…
あ…違う。
しっかし…あたし、このパターン好きね…(笑)

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あきゅろす。
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