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物語【永久編】
白い闇で揺れる花 V


邪眼を開くのを躊躇った理由は、よく分かっている―
只、信じられなかったのだ。
蔵馬が簡単に誰かの手中に落ちる事等。

妖狐との兼ね合いが簡単では無い事も。
人間としての生活を大事にしながらも毎日の様に鍛錬する厳しさも。
そして確実に力を上げている蔵馬を。
一番…恐らく蔵馬よりも、飛影は理解していた。

言玉で指定された白霧の森まで、後半刻程度。
移動の際に飛影が伝う枝々が大きく揺れる。
それは、とても稀な事だ。


「…クソ!」


飛影は悔しさを吐き捨てた。
犬歯で下唇を噛み締めて、少量の血が顎まで伝う。
拭った親指に鈍く光る紅い血。
それをちらりと見て、飛影は邪眼に映った蔵馬の姿を思い浮かべた。

血は流していない。
怪我もしていない。
只、足首を鎖で繋がれ、蔵馬は意識も無く横たわっていた。

その横には、見覚えの無い二匹の妖怪。
普通は相手のレベルを知る為に細かく確認しても良さそうなものだが、飛影にその考えは無かった様で、蔵馬の状態だけを確認するに留めていた。
お陰で飛影は既に二匹の妖怪の顔を忘れている。

強い風は、まるで飛影を邪魔する様に吹き荒れていた。
苛立ちを隠せない飛影は、ますます瞳を細めて目の前を睨む。
その先に見るのは、覚えの無い敵よりも、蔵馬だ―


先程から絶え間なく木々が揺れている。
その飛影の起こす振動に耐えられずに落ちゆく葉。
真っ直ぐ前を睨み付けている飛影の視界で、葉の合間に二匹の妖怪が突然姿を見せた。
それは邪眼で視た先の、蔵馬の側に居た飛影が既に覚えていない者達ではなくて、別の妖怪だった。

飛影の目の前に立ちはだかり口を開き掛けた二匹の妖怪は、一瞬でそれぞれ真っ二つになった。
その血飛沫は一気に舞い上がった風に浮く葉に模様を刻んで、そのまま地へ落ちてゆく。


「…邪魔だ!」


飛影の姿は既に其処に無く、低い怒号だけが響く。
そしてそれを掻き消す様に、やっと四つの塊が地に落ちた音がした。


徐々に、視界が悪くなっている。
それは白霧の森に近付いている事を示していた。

―もう少しだ…

飛影のスピードで、ぼやけた空気がどんどん白へと変わる。
一太刀浴びせたお陰か、飛影の伝う枝は揺れなくなっていた。



―――――――――――
――――――――――――――
―――――――



自分一人ならば、無茶をしたっていい…
寧ろそれが、飛影の闘い方だった。

―だが。

気配を絶ったまま近付いて斬り掛かりたい衝動を、飛影は堪えていた。
蔵馬が何の傷も負わずに、意識も無く奴等の手中に在る事―
蔵馬の策なのかも知れない。
…けれど。
飛影は引っ掛かりを覚え、蔵馬の状態を確認する前に暴れるのは賢くないと…そう感じていた。

飛影らしくない、選択だった。
それでも、蔵馬を想っているから、飛影はどんな道でも択ぶ事が出来る。
蔵馬との関係がもたらした、飛影の変化だった。


「…どうやら彼奴等に案内役は無理だった様だな。」


飛影が姿を見せる前に掛けられた声。
次いで飛影がゆっくりと、掛けられた声に向って歩を進めた。

白い霧が、其処には埋め尽くされている。
声を掛けて来た者と、幾分離れて横たわる蔵馬、その直ぐ横に立つ大柄な者。
飛影の紅い双眼でぼんやりとそれが確認出来る程度だ。


“案内役”と言われ、そう言えば真っ二つにした奴等が居たな…と飛影は既に薄い記憶を辿る。
蔵馬に手を出した目の前の連中の仲間かどうか、そんな事を考える前に邪魔な障害物を排除した…
飛影にとってはそれだけの事だった。


「…何の目的だ。」


飛影は静かに問うた。

本当は。
それですらどうでも良かった。
蔵馬が己の手の中に戻ってくれば、それだけで。

一刻も早く、取り戻す―

その思いに駆られながらも、やはり暴れるのは得策じゃないと飛影は堪えている。
蔵馬の意識が無い事は厄介だった。
大柄な男の持つ刃先が鋭利な斧が、蔵馬の首に当てられている。
妙な動きをすれば、その斧が容赦無く蔵馬の首と胴を切り離す事を示していた。


「移動要塞、百足…。我はあれが欲しい…」


よく見れば、そう言ったのは女だった。
そして飛影は、その女の声を甲高い、気持ち悪い声だと思った。


「躯…彼奴を潰すのにお前が邪魔なのだ、百足の筆頭戦士、飛影。」


私怨、か―
やはり、と飛影は思った。
言玉で“百足の筆頭戦士”と呼ばれた事に、飛影は少しの違和感を覚えていた。

―躯め、分かっていて休暇を寄越したんじゃあるまいな…


「…チッ」


問題は、蔵馬がどうやってすんなりこいつ等に掴まったか、だ。
また妖気を封じて修行していた処に運悪くこいつ等と出くわしたとしても。
傷一つ負う事無く、すんなり蔵馬が掴まるだろうか―

蔵馬には、得意のうっかり癖が有る。
だが、飛影は知っていた。
それは、飛影の居る場所でしか見せないモノだと。
独りで行動する時は、緻密に注意深く神経を尖らせている事を。
それを唯一楽に出来るのが己だけだと…飛影は自負していたから。


まるで雪國の様に、辺りは白い。

横たわる蔵馬の顔が、蒼白く見えるのは。
この白い霧の所為だと…
そう言い聞かせながら、飛影は只、目の前の敵を静かに睨む。



(Wへ続く…)



★あとがき★
やっとこさ、到着だよん、飛影クン(笑)←イヤ、笑うトコじゃない
すっすっ進まねぇ〜っ(`◇´;)←ハイ、あたしの所為だす。。。
飛影の冷静と情熱の間(笑)が伝われば嬉しいです
敵のオナゴですが、何故かイメージは冥界編の魔舎裏…w
どうやら彼だけは死亡シーンが描かれてないので生存している、らしい!(ウィキった!)
そしてそう言えば、瞬く間に飛影に真っ二つにされた二匹の妖怪のイメージは…またまた冥界編の瑞輪兄弟!
何故だ!何故冥界編がこんな処で…!(いや、あくまでもアホ管理人のイメージ)
そしてこのあとがきを書く為だけに、冥界編引っ張り出したよねっ
名前…覚えてないんだもの…
でもあくまでイメージですよ?(要は新キャラを生み出せる引き出しは管理人持ってませんよ、ってコト♪)
誰だろね〜、こいつらは!(名前付ける気一切無しw)

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あきゅろす。
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