[携帯モード] [URL送信]

Evidence
現実
「じゃ、行って来る。」

「うん。」

着替えを済ませたデイダラは部屋のドアを開ける。

見送るあたしの顔は自分では分からないけど多分引きつっていたのだろう。
デイダラは少し苦笑いしてあたしを抱き締めた。

デイダラの温もりに包まれると、不思議と安心する。

「デイダラ、あたしも愛してるから…」

デイダラは抱き締めながら、うんと言うかわりに頭を振った。



――そして彼は行ってしまった。



どうかデイダラが無事帰ってこれますようにと、必死に祈っていた。


だけど、ゼツからの情報は聞きたくもない事実だった。

「ちょっといいか。」

デイダラが死んだ夜、あたしの部屋にイタチが訪ねてきた。

あたしは、デイダラが死んだことなんて認めていないから泣いてなんかいない。

平然とした表情でイタチを招き入れた。

イタチはあたしの様子を見て、不思議に思ったのか必要以上にあたしの顔をチラチラ見ていた。


「泣いてないよ。まだデイダラは生きてるから。」

あたしは無表情でお茶を入れる。

「……。」
イタチは何も言わずにソファーに座った。

イタチの前にお茶を置く。

あたしは自分のベッドに腰掛けた。

「で、急にどうしたの?」
あたしはイタチに声をかける。

イタチは赤い瞳をあたしに向けた。
デイダラとは真逆の色。


「オレもそろそろサスケと決着をつけるときが来た。」


―ただのイタチの決意表明だ。

でも今のあたしにはイタチは遠回しに“デイダラはサスケに負けた”と言っているようにも聞こえる。

少し心が騒ついたけど、必死にそれを押さえて
「そっか。」
と言った。


「オレももう時間がない。オレが居なくなったら、サスケを頼む。」
イタチはサスケのことになると柄にもなく頭を平気で下げる。

いい兄弟愛だ。

そんな弟想いのイタチを手伝ってあげようと言う気がしないでもないが、あたしは首を横に振った。

「頼む。」
イタチは再度懇願する。

しかしあたしはきっぱりと断った。
「無理だよ。あたしにはそんな余裕なんかない。ごめん。」


イタチは「そうか」と言ってため息をつく。


そしてイタチは違う話題を切り出した。

「お前はこれからどうするんだ?」

「どうって?」

「お前はもう暁にいる目的はない。」

「………。」

「犯罪者組織に向いてないお前が、デイダラも死んで、まだこの組織にいるつもりか。」

イタチが今話してるのは最も今あたしが考えたくないこと。

自然にイラついてくる。
あたしは声を尖らせた。
「デイダラは死んでないよ。だからデイダラの帰りを待つことがここにいる意味でしょ?」


イタチはバカにしたように
「死んだのにか?お前は死ぬまで死人を待ち続けるのか?」
と言った。

そんな風に言われたら、短気なあたしはすぐに火が点いてしまう。「だから!死んでないって言ってるじゃない!!デイダラは帰ってくる!!」


でも怒鳴りながらホントは分かっていた。


「帰ってくるよ…絶対……っ!

―気付いたらあたしは涙を流していた。

あたしはそれを隠すようにベッドにうずくまる。

「もうやだ……デイダラもサソリも死んじゃって…あたしを置いてって…」

イタチの顔は見えない。
もしかしたらいないかもしれない。
それでも必死に繋がっていた糸が切れてしまったから、もう止まらなかった。


「デイダラぁ…1人は嫌だよ…寂しいよ…どうしていいか分かんない……」
泣きながら声を絞りだすように言った。

涙が止まらなくてベッドのシーツがだんだん濡れていく。

すると、ふわりと体温が頭に乗った気がした。

デイダラより少し細くて大きい手のひら。

多分イタチのだと思う。

イタチが静かに低い声で言った。
「もし、お前が暁を抜け出したいなら木の葉に戻れ。」

あたしは思わず顔を上げる。

イタチの顔が涙でぼやける。

自分の顔が涙でぐちゃぐちゃなのを思い出してすぐ顔を背けた。

「てゆうか、木の葉になんか戻れるわけないよ…あたしは犯罪者でしょ?」

「いや、きっとお前の情報は漏れてないはずだ。」

「そんなわけないんじゃ…」

「オレだって木の葉の情報は仕入れている。確かだ。」

イタチが確信めいたような声で言うので、本当なんだと思う。

だけど今更、木の葉に戻る気にもなれない。


イタチは立ち上がる。
「それだけだ。」

彼が戻ろうと踵を返す。
あたしはイタチに言った。

「イタチも行っちゃうんだね。」
イタチは何も言わずにあたしの部屋を出て行った。

彼はきっと帰ってこない。







あたしはまたベッドに横になって目を閉じた。




[*前へ]

4/4ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!