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Evidence
芽生える希望
あたしはそれから任務も無理言って断って、修行に明け暮れた。

珍しくサソリも、
「ゆっくり力をつけろ」
と言って修行をするあたしを見守ってくれていた。

なんだか近頃、サソリが優しい。
それをなぜかと尋ねれば、彼は
「オレもいい大人だからな。」と、答えにならない答えが返ってきた。


まぁ優しくしてくれるのは助かるけど。

最近、新たな力も手に入り、規則正しい生活で夜も眠れるようになったり、とても充実していた。


「いい天気だなぁ。」

休憩中に空を見上げれば、入道雲と水色が広がる。

まるで絵に描いたような空だった。

『空を見上げりゃいい。すべてがどうでもいいって思っちまうだろ?』

ふとシカマルの言葉が頭をよぎった。

今となってはシカマルのそばにいるのと暁にいるのも大差ない。
それだけ暁という空間は、あたしにとって居心地がいい空間になっていた。

「なんか、眠いなぁ〜」

ぼーっと空を見上げていると、白い鳥が視界に入ってきた。

その白い鳥は見覚えがあった。

「デイダラ?」

そう呟くと白い鳥は段々近づいて来てあたしの1メートル先に着地した。
やはりデイダラの粘土の鳥で、デイダラが顔をひょいと出す。「よっ!」
彼は鳥から飛び降りる。

あたしが疑問を口に出す前にデイダラから話し出した。
「どうだ?順調か?うん」

そう言われたのでサッと印を組むと、草花がザザッと出てきてデイダラの鳥を縛り上げた。

修行の成果で、あたしは新たな力を自由自在に使えるようになっていた。

「どう?」
あたしが得意げに言えば
「やるじゃねぇか・・・うん」
彼は驚いた顔で言った。

「まぁ筋がいいからね」

「調子乗んな」

あたしはフフッと笑みをこぼす。

相変わらず彼はあたしの修行をたまに付き合ってくれる。
それはすごく助かる。

デイダラのおかげであたしは日に日に力をつけていた。

「お前も明日から任務再開できるな!うん!」

「そうだね。そろそろ実践で自分の力を試したい。」

デイダラは笑顔で言った。
「お前がいると任務も楽しみになるなぁ!うん!」

そんなこと言われたら、嬉しくないわけがない。
あたしも自然に笑顔になれた。

それにしてもデイダラの笑顔って癒される。
いつの間にか彼の存在があたしの中で大きくなっていることに薄々自分でも気付きはじめていた。




夕食には、サソリとデイダラとイタチと鬼鮫がいた。

別にみんな仲がいいわけではないので、これだけ揃っても静かな夕食になってしまう。

まぁ賑やかなところより、静かなところの方が好きなあたしにとっては好都合だけど。


そんな中、気を使ってか知らないけど鬼鮫があたしに話しかけてきた。
「美里さんどうやら新しい術を身につけたそうですね。」

口の中に食べ物が入っているので黙ってコクリと頷く。

「おめでとうございます。」
鬼鮫は優しく笑った。(失礼だけどちょっと不気味)

するとデイダラが思いついたように口を開く。
「そういや旦那!美里の術は、もうすでに完璧だったぜ!戦闘にも十分使えそうだ!うん!」
サソリはちらっとあたしを見て、
「そうか、良かったな。よく頑張ったな。」
と言った。

サソリがそう言った途端、みんな一斉にサソリを見る。

それぞれ、ありえないと言った表情でサソリを見つめた。

確かにありえない。いつもだったら憎まれ口叩くはずなんだ。
やっぱりサソリに何かあったんだろうか。



こういうのは直接聞いた方が早い。
だから久しぶりの任務の朝、本人に聞いてみた。
「サソリはいつから優しいキャラになったの?」

サソリは鬱陶しそうな目で、
「オレはもとから優しい。」
と言った。

それを聞いてたデイダラも、
「確かに、いつもの旦那じゃねぇよなぁ。」
と言う。

デイダラがそんなことを言えば、
「お前らオレにそんなに厳しく躾てほしいのか?」
とサソリはあたし達を睨んだ。
すかさずあたし達は猛烈に首を振った。


でもやっぱり気になる。


「オイラが思うに旦那が優しくなったのは美里が新たな力を手に入れてからだ。」

今回もやはり宿は二部屋しかなく、デイダラと相部屋になり、サソリの謎を語りあっていた。
「確かに。聞いてもないのに術のアドバイスをしてくれたりしてた。」

サソリのお陰で術が完成したといっても過言ではないくらい、彼のアドバイスは的確だった。

『ただ使えるようになれば、ものすごい能力になる。』

サソリはいかにも知っているかのように語っていたのを思い出す。

「デイダラはあたしの新術をどこかで見たことある?」

デイダラはうーんと考えこみ
「ないな・・・お前のアレはある意味、神業だよ・・・うん。」
と言った。

「多分、血系限界じゃねぇか?」

「え・・・まさか」

「きっとそうだ、間違いねぇ、うん」

だとすれば、サソリはあたしの血筋の人と会ったことがあるということだ。

もしそうだとしたら、会ったことのない父や母のことが少し分かるかもしれない。

「だけど、どうせ死んじゃってるんだもんな・・・」
あたしが独り言のようにポツリと呟けば、
デイダラは不思議そうな顔をした。
だから、なんでもない、と首を振る。

今まであまり気にしていなかった父と母。
あたしを生んでくれたのにこんなに今まで無関心だった。

それはもう会えないと分かっていたからだけど、やっぱりどんな顔でどんな人だったかは気になるところだ。


翌日、さりげなくサソリに聞いてみた。

「もしかしてあたしの新術、他にもだれか使っている人が居たの?」

クグツに入っているためサソリの表情の変化は分からない。

「あぁ。知ってる。」

「それはもしかしたら・・・」
「お前によく似てたな。」

あたしの言葉に被せてサソリは言葉を発した。

「オレはお前の母親に会ったことがある。」

サソリの発言にあたしは言葉を失った。

今日はただ移動するだけで任務ではなく、ひたすら歩く日だった。

あたしは驚きのあまり足を止め、呆然と立ちつくしてしまった。

「美里?」

一緒になって歩いていたデイダラも心配そうに振り向いた。彼はあたしとサソリより少し前を歩いていたため、話を聞いていない。

サソリはというと、何事もなかったかのようにズルズルと歩いている。

気を取り直し、走ってサソリに追いつく。
「その話、くわしく聞かせてよ!」
あたしは叫んだ。

「ククッ。必死だな」
不気味に笑うサソリ。

そして彼は静かに話し出した。
「まぁデイダラも居なかった遠い昔。暁にお前の母親のサトコがいた。サトコはどっかから逃げてきてボロボロだった。聞けばそいつは敵に追われていた。
だから、オレが拾ってやったんだ。」


「拾った?」

「お前がデイダラに拾われたのと同じだ。」

ちらっとデイダラに目をやれば彼も驚いた表情であたしを見た。

「まさかサトコに子供までいたなんてなぁ。」
サソリは上を向いて思い出すように呟く。


「それでその後どうなったの!?」
あたしは急かすように尋ねる。

「今は知らねーな。生きてるかどうかも分かんねぇ。あいつは急に消えたからな。」

「どうしていなくなっちゃったの!?」

「・・・」

サソリはあたしの問いには答えなかった。

言いたくないのだろうか。

あたしはしつこく問い詰めたりはしなかった。


多分母はなんらかの技を使って義父から逃げ出した。
そしてサソリに拾われた。

もしかしたらまだ生きている。


「会いたいんだろ?」

泊まる宿の広いとも狭いとも言えない空間にデイダラと2人でいた。

またしても必然的にそうなってしまったのだが。
もはや任務のときに彼と相部屋なのは定着している。

そして彼は今、あたしの目の前に座って真剣な眼差しを向けていた。

彼は今日のサソリの話を一緒に聞いていた。
だから「会いたいんだろ?」と主語がない言葉でもそれが誰かは理解できる。

「分からない。」
あたしはデイダラから目線をそらした。
彼の瞳はあたしの心を揺るがすから。

デイダラはあたしの肩をつかむ。
「お前の顔見りゃ分かるんだよ・・・うん。」

近距離で彼に見つめられて、少しドキドキしながらも、あたしは表情を固くしながらデイダラの折り曲げられた膝を見ていた。

ホントに分からない。
どんな人なのか興味はある。
だけどもし死んでたら、探すのなんて無駄な労力だ。

それに、生きているとうっかり芽生えた希望も死んだと分かったとたん失望に変わる。

探さない方がいいんだ。

あたしは大きく首を振り、一言彼に呟いた。
「やっぱり会いたくない。」


その一言で彼の水色の瞳は揺らぐ。

いきなりデイダラにドン!と押されたかと思えば、畳の上に押し倒されていた。

彼の顔は怒りと哀れを混ぜたような表情だった。

「ちゃんとオイラの顔を見て言え。会いたいのか会いたくないのか?」

もう彼から目をそらせなかった。

彼はあたしの気持ちに気づいてる。
彼はあたしがどんなに臆病かも知っている。


あたしは一粒涙を零した。

「会いたい・・・」



素直に言ったら優しい目をして笑ってくれた。

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あきゅろす。
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