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旭さんがかわいい



「あれ、旭だ」

「本当だ。おーい旭!」


「あっスガに大地!あのさーどっちか辞書持ってない……?」

「辞書?それなら……おい、旭?」


辞書ならロッカーにある、と伝えようとしていたら、旭がある箇所を見て固まっていることに気づく。その視線を追ってみると俺の隣の席で携帯を弄っている女子、みょうじなまえに向かっていた。彼女は3年になるクラス替えで初めて同じクラスになったけれど、確かに周りの男子の中でも彼女と同じクラスになって喜んでいるやつが結構いるし、現に俺も可愛いと思う。けれど旭のこの動揺の仕方は余りにも異常というか、むしろ恋をしていると考えたら正常というべきか。一瞬で合点がいった俺は、仲間の恋愛に手を貸してやろうとする気持ちと、からかってやろうという気持ち半分半分という少し薄情かもしれない思いで彼女に声を掛けた。



「みょうじさん、」

「え?なに?」

「辞書持ってる?友達が借りに来たんだけど生憎忘れちゃってて。良かったらみょうじさんの貸してやれないかな」

「!?、ええええ、だだだ大地……!?」


スガは横で流れを見守ってるし、旭は俺の言葉にありえない程動揺している。みょうじさんといえば、なんでわたしに借りるのだろうという顔をしていたけれど、ロッカーにあるよ、と綺麗な声で答えて席を立った。そのままロッカーへと向かう彼女を呆然と見ている旭の膝裏辺りを軽く蹴飛ばして、着いていけと目を向ける。困惑を隠せないようだったし緊張からか目が泳ぎまくっていたがなんとか足を動かしていたので良しとしよう。


「もしかして旭……」

「多分な。あとで問いただすべ」







彼女に借りた辞書を返すに返せなくて教室の前をうろついているのを発見したのは放課後俺らが部活に行こうとしていたときだった。なんとか辞書を無事持ち主のもとに返させてから部室に向かう。


「……で?」

「!!え、えっと……?」

ビクッ、と聞こえてきそうな程肩を跳ねさせる旭。本当に見た目と中身の差がこれ程あるやつはみたことがない。

「好きなんだろ」

「いいいいや、お、俺がみょうじさんのこと好きだなんてそんなの……」

「誰もみょうじなんて言ってないけど。ふーん、好きなんだ」

「あっ!!」


田中や西谷を顔に出やすい馬鹿だと思っていたけれど、どうやらこいつも同類だったようだ。簡単なカマをかけてみたけれど案の定引っかかってしまうコイツにため息を一つ吐いた。すると今度はスガが旭に質問をかける。


「いつから好きなの?」

「えっ、いやほんと好きとかじゃなくて……ただ、その、廊下で見かけて、可愛いなって、思っ……てました……」

「……いつから」

「い、一年の終わり、くらいかな」



スガと顔を見合わせ、同時にため息をついた。え、え、と俺らの顔色を伺う旭。小心者にしたって、1年以上も気になっている相手にアクションの一つも起こせないのは男子高校生にあるまじき姿勢ではないだろうか。


「……とりあえずさ、俺らに会いにくる振りして話しかけろよ。今なら席も近いし」

「えっ、む、無理……」
「やるよな??」


「……はい」


そんなこんなで俺とスガの恋のキューピット作戦が決行されたわけだった。少し声を掛けにくかったみょうじも人見知りだったらしく、意外と俺らを含めてみょうじと旭も仲良く話せる程度には発展したのであった。問題はここからだった。ここまできて旭は、話せるだけで嬉しい、告白して気まずくなるのは嫌だからこのままで良いと言い出したのだった。わからくもない。けれどもはたから見てもみょうじは旭を嫌っていないし、むしろ好意すら持っていそうな気もする。それが友情としての好意であったとしてもそれはそれで、異性として意識させるためにも告白するのが良いと思った。最近は2人を見ているとお似合いなんじゃないかと思えるようになったこともその考えを大きく後押ししている。(一部で囁かれている、美女と野獣、というフレーズを否定出来ないのも確かだけれど。)
だから俺が4人でいるときに次のような発言をしたとしても、決して2人の友情を割こうとしたわけではなく純粋に応援した結果だと理解して欲しい。




「なあ、みょうじはどんなやつが好みなの?あ、彼氏とかいる?」

「え?」

「!!ちょ、だ、大地……!?」

「いやー実はこのへなちょこが一丁前に好きな人いるんだけどイマイチ進展しないらしくてさー。みょうじから見た付き合いたい男子とかアドバイスない?」

「えー?わたし別にアドバイスとか出来ないと思うけど……彼氏とかいないし。」

「へーかわいいのにな。理想高いとか?」

「ははっ、何?口説いてるの?理想かー。難しいね」

「付き合うならどんなやつ?」

「えーっとねー、優しくて、あと浮気しないとか……?」

「(おっ……)」
「(これは……)」


「あ、あと可愛い感じの人が好きだなー」





沈黙。


「……か、可愛い感じ……?」
「えっと……スガみたいな?」

「んー菅原くんはどっちかっていうと美人って感じかなー!」


「そ、そっか……」


「「(どんまい旭……)」」





その後予鈴が鳴って、とぼとぼと教室に帰っていく旭の後ろ姿には哀愁が漂っていた。脈ありかと思っていたんだが……すまんな旭。と心の中で合掌する。スガも横で苦笑いをしていた。



「……ねえ」


同じように旭の後ろ姿を見つめていたみょうじがくるっと振り向いて話しかけてきた。


「なんだ?」

「東峰くんは好きな子と上手くいきそうなの?」

「……どうかな。相手はその気ないみたいだから」

「へー、見る目ないんだねその子。東峰くんみたいな人に好かれてるのに」

「……ほんとだよな」

「ねえ澤村くん。もしかしたら相手の子、本当は東峰くんのことすきなのかも知れないよ?」


ここまで横で会話のキャッチボールを伺っていたスガが、小さくえっ、と声をあげた。





「東峰くんってかわいいよね」



にっこり、含みのある笑みを見せたみょうじを見て、俺は旭に心の中でまた合掌をした。旭、お前はとんでもないやつを好きになったみたいだ。



その後、3組に通い詰めて旭をたじたじにさせているみょうじが目撃されるようになったとか。
















隣人Aの微笑み












20131114




あきゅろす。
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