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記念日

風呂からあがり、窓を打つ雨を見ながらロイドはふと、思い出す。
クラトスと式を挙げる前日の事を。






「あ…雨降ってきた…」

ロイドは窓に駆け寄って空を見上げた。
どんよりとした鉛色の雲がこれ以上は許容出来ませんというように雫を落としている。
同時にロイドの心も曇っていく。
なんせ明日は結婚式なのだ。自分とクラトスの。
母親にも見てもらいたいから、母の墓前で式をする予定だった。しかし雨ではそれは難しい。

「雨、やむよな…?」

ちゃんと母さんに見てもらいたいのに、とロイドは俯いてしまう。男同士、しかも親子で結婚なんて許しませんよ、と自然ではない行為に自然が怒っているのだろうか。

(でも、好きなんだからしょうがねぇじゃん…)

ロイドはそっと掛けられたウエディングドレスに触れる。明日はコレを着るのだ。
その隣にはクラトスが着る白いタキシードが並んでいる。最初クラトスは4000年前に所属していた騎士団の軍服を着ると言っていたが「そんなのダメです!」とコレットに押し切られ、結局ロイドと一緒にタキシードを仕立ててもらう事になった。
困ったようにしていたクラトスには悪いが、ロイドは嬉しかった。なんとなくお揃いっぽいデザインも起因しているが、やはり自分はウエディングドレスを着るのにクラトスは軍服というのはやっぱり寂しい。
ロイドはもう一度窓の外を見る。雨足はさっきと変わらない。思わず溜め息が出てしまう。

「どうしたのだ?」

「っ…クラトス…」

いつの間にか風呂からあがったクラトスが近くにいた。

「雨、朝には止むかな?」

「雨?」

あぁ、降ってきたのか、とクラトスはのん気に答える。
それが気に食わなかったのかロイドは頬を膨らませて唇をとがらせた。

「なんだよ、雨降ってたら母さんに見せらんないじゃんか」

クラトスはそれでもいいのかよ、と拗ねた口調になってしまう。
するとクラトスは心外だというようにロイドの頭を少し乱暴に撫でる。

「そんな事はあるまい。だが、天気の心配は無用だ」

「へ?」

何で?今すっげー雨降ってんじゃん。下手したら明日も雨かもしんねーじゃん。何でそんな自信満々なんだ?
ロイドは全ての疑問を目でクラトスに訴える。
そしてクラトスから出た言葉はクラトスとは思えない(少なくとも今までの)ものだった。

「私達の晴れ舞台だ。雨など逃げ出す」

この幸せは天まで届くからな。とてもいい笑顔で。さらっと言ってのけた。

「あ、あんた…ハズかしすぎ…!」

顔を真っ赤に染めながらもロイドはさっきまでの心の雲が霧散していくのを感じた。
あぁ、やっぱりこの人には敵わない。たった一言で自分の不安なんかかき消してしまう。
うん、そうだな、とロイドはクラトスの胸元に顔を埋めたのだった。






あれから1年。
相変わらずロイドはクラトスに敵わない。全面的に。
オレって成長ねぇかも、とあの日と同じように降る雨を見ながらぼんやりと思う。

「どうしたのだ?」

今夜は冷える、湯冷めをするぞ、と相変わらず保護者のようにクラトスは言う。
結婚したのに。いや、確かに根本的な部分は親子なのだが。
おもむろにロイドは振り向いてにっこりと微笑んだ。

「なぁ、今日は何の日?」

本当ならば「明日は何の日?」と言うのが正しいのだろうが、ロイドはあえてそう聞いてみた。
クラトスはどう答えるだろう?間違って結婚記念日とか言ったら殴ってやろうと思いながら。
流石に虚を衝かれたのか、クラトスは何度か目を瞬かせる。しかし直ぐに気がついたのか優しい笑みを浮かべた。
そしてロイドの首にかけられた鎖を取る。
そこにはロイドの婚約指輪と結婚指輪が下がっている。
両手で剣を扱うロイドは指輪が当たり、戦闘に支障が出てしまう為日中はペンダントのように鎖に通して首から下げていた。
その指輪を愛おしそうにロイドの左薬指にはめてクラトスは微笑む。

「今日は、」

お前との"恋人最後の記念日"だ。

「〜っ!」

違ったか?とクラトスは首を傾げる。
否、違わない。結婚記念日は明日だから確かにそうだ。そうなのだが…

「あんた恥ずかし過ぎだっ!」

やっぱりちっとも敵わない。
1年前と何一つ変わらないやり取りに嬉しく思いつつも、自分の成長のなさにロイドは少しだけ溜め息をついた。
来年までに少しでもクラトスに勝てる部分があればいいなぁ、と思いながら…



END



碧の鈴:真夜様への相互記念小説です。
真夜様がウチのつたない拍手を見てとっても素敵な小説を下さいました!
なのでそれに更に便乗してみまし、た…が…本当残念な感じで申し訳ないです(土下座)
よろしければお納めください…!
返品は随時受け付けております。はい。




あきゅろす。
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