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そこにあるは

桜の樹の下には死体が埋まっている







何とも物騒な話しだろうか







月明かりに浮かぶ桜を見ながら、クラトスはその根元へと腰を下ろす。

「この時期ミズホでは桜がキレイなんだ」と、しいなの言葉に興味を示した一行は休息も兼ねてミズホの里へとやってきた。
しばらくはみんな、風と花弁が作り出すピンクの羽衣に見惚れていた。
しかしそれも空腹と共にジーニアスとリーガルの作った弁当へと意識がいく。もちろん一番に開口したのはロイドだ。

「あんたは本当に花より団子だねぇ」

「ダンゴより肉の方が好きだけどな」

そんな事を言ってのけて、教師と父親の頭を痛めさせた。
結局その後はドンチャン騒ぎになって、休息になったかどうか怪しかったが。

それでも良い息抜きにはなっただろう、とクラトスは桜の樹に背中を預ける。
どうも昼間のような雰囲気に慣れず、こうして一人いるのがひどく落ち着いた。
今頃は皆夢の中だろう。そう思っていた。

「…ロイドか」

背後から近づくわかりやすい気配にクラトスは苦笑する。

「ちぇっ、何でわかっちまうんだよ」

驚かそうと思ったのに。そう言いながらロイドはクラトスの隣に腰を下ろした。

「きれーだよなー」

シルヴァラントには無かった植物にロイドは目を細める。

「桜は…」

「うん?」

「桜は、人の血を養分とするらしい」

「…へ?」

いきなりこの父親は何を言い始めるのか。ロイドはどう返答していいのかわからず、ぽかん、と口を開けたまま呆けている。
そんな息子の様子を気にもとめず、クラトスは舞い散る花びらを見ながら言葉を続ける。

「桜は人の血を吸って生きている。だから他にはない、薄ピンクの美しい花弁を散らせる」

その散り際の美しさも人の死を美化したようだ、とクラトスはどうでもいいことを考えた。そもそも桜が人の血を吸っているなんてこと、いくら里の者に聞いた話であってもクラトスの頭の中では「ありえない」と結論付けられている。それがもし本当だとしたら、毎年どれだけの人間が桜の為に犠牲になり、その下にはどれだけの人間の死体が埋まっていることになるのか。
なんて無駄で不毛な時間を使ってしまった。
今迄自分が思いもしなかった思考にとらわれて、クラトスは自嘲の笑みを浮かべていた。

「そんな訳ねーじゃん、クラトス」

ロイドもそんな事はあり得ないと思ったのだろうと、クラトスはそうだなと返す。しかしロイドの口から出たのは、それこそクラトスが予想もしなかった言葉だった。

「きっと埋まってんのは愛だ」

「……は?」

この子は何を言っているのだろう。
思わずクラトスはロイドの顔を凝視してしまう。
ロイドは柔らかな微笑みを浮かべている。

「だってこんなにキレイなんだぜ」

あったかくてふわふわな気持ちにさせてくれる。愛だから成せる事だろ?
上機嫌、かつ自信満々に言ってのける息子にクラトスはめまいを覚える。
それは決して不快な物ではなく、ふわふわと心地良く…

(あぁ…そうか…)

「クラトス?」

何も言わないクラトスの顔を覗き込みながらロイドは首を傾げる。
またもや襲うふわふわとしためまい。
思わずクラトスはロイドを抱きしめた。

「そうか…愛か…」

自分で言ったくせに、ロイドは今更ながら照れていた。頬を桜色に染めている。

「なら…」

「うん?」

「なら、私の中にはお前への愛が埋まっている」

まさかそんな事を言われるとは思わなかったロイドはこれ以上無いくらいに顔を真っ赤にさせた。

ふわふわふわふわ。

お互いその感覚に酔いしれる。

「…俺の中にだって…」

あんたへの愛が埋まってるぜ?



決して枯れ果てることのないアナタへの愛が…






END





誰が一番恥ずかしいって、これ書いてる自分(そうだね)




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