家族と写真とペンダント ふと、ロイドは首から下げたペンダントに触れる。 それは愛する人に貰ったもの。 救いの塔で自分の命を守ってくれたもの。 表面に傷が付いてしまったものの、中の写真は無事だった。大切な大切な宝物。 クラトスも肌身離さず大事にしていたんだと思うと嬉しくなる反面、本当に自分が持っていていいのかとも思ってしまう。 やっぱりクラトスも家族と一緒にいたいんじゃないか…? そう思ったロイドは部屋で細工に取り掛かった。 夕飯の時間になっても部屋から出てこない息子にクラトスは首を傾げる。いつもなら出来上がる頃には「腹へった〜」と言いながら下りてくるというのに…… もしかしたら体調を崩したのかとクラトスは心配になり部屋へと向かった。 「ロイド、夕飯が出来たぞ」 そう言ってドアをノックするが返事はない。もしかして本当に具合が悪いのか、とクラトスはドアを開ける。 しかしクラトスの目に飛び込んできたのは机に向かって真剣に彫り物をしている息子の姿だった。 一緒に旅をしている最中もそういった作業をしている所を何度か見ていたが、ここまで真剣な表情を見たのは初めてだった。 親の欲目だと言われてもいい。その時クラトスの目に映った息子はカッコ良く美しかった。 このまま作業を見守っていようかとも思ったが、如何せん夕飯が冷めてしまう。ロイドは冷めてしまった食事と一人で食べる食事は殊更嫌った。 「ロイド、夕食だ」 「ひぁぁっ?!」 全く気付く事のないロイドの耳元でクラトスが優しく囁くと、ロイドは悲鳴を上げて工具を落とした。 「なっななな何すんだ!あっぶねーだろ?!」 真っ赤になりながら抗議の声を上げる。そんな息子の姿もクラトスには可愛いとしか映らないのだが… 「夕飯の時間になっても下りてこないし、呼んでも部屋に入っても気付かなかったのはお前だろう?」 「えっ…もうそんな時間なのか?」 ごめん、と謝ればクラトスはそれだけ集中していたのだろう、と頭を撫でた。 夕飯を食べながらクラトスはそう言えば、とロイドに問う。 「一体何を作っているのだ?」 「えっ?そ、その…秘密っ!」 作っているものを聞いただけなのにロイドは顔を真っ赤にして勢いよく夕飯をかきこんでいく。そして早々にごちそうさまをしたと思えば、俺がいいって言うまで絶対部屋に入ってくんなよ!とまくし立てて猛スピードで部屋に戻って行った。 それにはクラトスも、ああ、としか言えなかった。 (一体何なんだ…?) クラトスは洗い物をしながらおかしすぎる息子の行動に首を傾げる。よっぽど自分が見てはいけないものだったのだろうか?そう考えると少し溜め息が出た。 自分たちは親子で恋人同士。なのに何の理由もなく作っているものを教えてもらえなかったり、あまつさえ許可がなければ部屋に入ることも許されない。 少し悲しい気持ちになりながらコーヒーをいれる。"もしかしたらロイドは私に飽きてしまったのか…?"と言う不穏な考えを追い払うように一気にコーヒーを飲み干した。 次にロイドが現在の時間を把握したのはもうすぐで日にちが変わるか変わらないかという頃だった。 「げっ…結構かかっちまったな…」 しかしロイドは完成したソレを見て満足げに目を細めた。 もしかしたら風呂に入れって呼ばれていたかもしれない。そう思いロイドはリビングへと下りて行った。 まさかソファでクラトスが寝ているとは思わなかったロイドはリビングに入った途端奇妙な声を出して心臓をバクつかせた。 その声で目を覚ましたのか、クラトスは終わったのか?といいながら気だるそうに体を起こす。 「あ、あんた、寝るんならベッドで寝ろよな!あー…びっくりした…」 「その部屋に入ってくるなと言ったのはお前だ」 そうだった…とロイドは夕飯後自分が言った言葉を思い返した。 一緒に住むようになってから一緒の部屋、もっと言えば一緒のベッドで寝ている。部屋に入れなければベッドで寝ることも出来ない。 「ご、ごめん…なさい…」 「それで?もう入ってもいいのか?」 「あ、うん…あっ、ちょっと待って!」 まだ何かあるのかロイドは大慌てで部屋に戻って行った。かと思ったらさらにバタバタと戻って来る。 もっと落ち着きがもてないものかとクラトスは少しこめかみを押さえた。 戻ってきたロイドは少し頬を赤らめて後ろ手に何やらもじもじしていた。初な少女でもあるまいにと思ったがその可愛らしさはそんなクラトスの思考をも吹っ飛ばす。 「あの、さ…これ、やる!」 そう言ってロイドが渡したのは澄んだ青色のペンダントだった。丁寧に彫られた模様が美しい。どうやら先程まで彫っていたのはコレらしい。 「いいのか?」 「だってクラトスの貰っちゃったし…」 それもロケットだからさ、好きな写真入れろよな。そう言うな否や、クラトスはロイドを抱き締める。 「クラトス…?」 「ありがとう」 まさか自分の為だなんて思わなくて。しかもわざわざロケットにして。嬉しくて愛おしくて、クラトスは抱き締める腕に力を込めた。 「クラトス…苦しい…」 そう言いながらもロイドの声は柔らかく楽しげだ。クラトスが喜んでくれているのが体中に染み渡っていく。 たくさんの大好きとありがとうを込めて二人はしばらくの間抱き締めあった。 後日――― 「…こんなに写真、撮ったっけ?」 テーブルには大量のアルバムの数。ロイドの記憶が正しければ写真なんてほとんど撮った覚えがない。なのにこの大量に積まれたアルバムは一体何なのだろか。1冊を手に取って見れば、そこにはリフィルに蹴られている自分や風呂上がり、はたまた寝ている写真まである。明らかに隠し撮りだ。思わずロイドはクラトスに非難と抗議の目を向けるが、当の本人は素知らぬ顔で写真選びを続けている。 「言っておくが、それはテセアラの神子が撮ったものだぞ」 あいつもグルか!てかそれ買ったのか?"それは"ってことはあんたも隠し撮りしてたんだなetc...色々文句の言葉が頭を巡ったが、すんでのところで口から出すのは止まった。 クラトスがあまりにも優しく嬉しそうに写真を見ているから。 少し気になって横から覗くと、それはまだロイドが幼い頃のものだった。 ロイドに気が付いたのかクラトスはぽつりぽつりと思い出を語る。初めて肩車をした時は高いのが怖かったのかお漏らしをして大変だったとか、歩き始めた頃はじっとしていなくてノイシュにくわえられて戻ってきたことがあるとか、ロイドにしてみれば恥ずかしい事この上ない話ばかりだ。 「もーっそんなことばっか覚えてんな!忘れろー!」 ロイドは真っ赤になってクラトスを黙らせようと襲いかかる。クラトスはそれに応戦し、いつの間にか子猫のじゃれあいのようになっていた。 お互い、胸元のペンダントが揺れる。 写真の中の妻が、母が、やさしく微笑んだような気がした。 END 戻る |