キス〜適量で〜
"寡黙で博識でクールで剣の腕は一流らしい"
街に入ると、そんな風にクラトスの噂は流れていく。その容姿も相まってその広がりは早い。
確かに間違ってはいない。だが、街の人達はそんな表面的なクラトスしか知らないのだ。
別に本質を知ろうが知らぬまいが問題は無い。
しかし、深い部分まで知ってしまっている仲間達は、噂と本質とのギャップに深い溜め息をつくのだった。
――AM7:30
「おはよー」
「おはよーさん」
朝食の為、宿の食堂にメンバーが次々と集まってくる。手分けしてテーブルに食事を並べながら、ジーニアスはあの親子がまだ来てない事に気が付いた。
「クラトス、ロイド起こすのに手間取っているのかな?」
僕ちょっと見てくるねと、ジーニアスは二人の部屋へと駆けて行った。
「クラトス、ロイド起きた?」
ノックしてドアを開ける。
その目に飛び込んできたのは、ベッドで寝ているロイドと、その頭を幸せそうに撫でているクラトスの姿だった。
「もう朝食の時間か?」
「ぁ…う、うん…」
「わざわざすまぬな…ほら、ロイド、起きなさい」
撫でていた手を止め、クラトスはロイドの体を揺さぶる。
「…んぁ……?」
「起きなさい、ジーニアスが朝食だと呼びに来てくれたぞ」
未だ寝ぼけているロイドに、クラトスは、まるで目覚めのキスだと言うように軽く口付けた。
流石にジーニアスは居たたまれなくなり、僕先に行ってるから!と、バタバタと階段を駆け下りて行った。
――AM10:00
「では、3人ともお願いね。ほら、あなたたち!早く準備なさい」
この日はクラトス・リーガル・しいなが買い出し当番、他のメンバーはリフィル指導による勉強だ。
ジーニアス・コレット・プレセアがいい返事をするのに対して、ロイドとゼロスは嫌々準備をする。
「何で俺様まで…」
「テストの点数でロイドをからかったりするからだよ」
「でも、みんなでお勉強楽しいよ」
「コレットちゃぁ〜ん♪俺様もコレットちゃんと一緒なら〜」
「ゼロース!」
ニコニコと笑うコレットにゼロスは抱き着こうとし、しいなの拳に沈む事になるのは、もはやお約束の光景だ。
そんなドタバタを横目に、ロイドはため息をつく。
「どうしたのだ?」
しゅん、と落ち込んだ様子の息子に、クラトスは首を傾げる。
「オレもクラトスと買い出しがよかった…」
そうしたらもっと長く一緒にいられるのに、とロイドは俯いた。
「終わったらすぐに戻る。お前の勉強が終わったら、後はずっと一緒にいよう」
「本当か?!」
本当だと、クラトスはロイドの頭を撫でる。それに気を良くしたのか、ロイドは満面の笑顔をこぼした。
「では行ってくる」
「いってらっしゃい!」
気をつけての意味も込めて、ロイドは「いってらっしゃいのキス」をしたのだった。
もちろん、仲間は見て見ぬ振りを決め込んだ。
――PM2:00
キンッ―と、剣の打ち合う音が宿の裏手で響く。
クラトスが手数の多いロイドの攻撃を防ぎ、ロイドが素早くも重い一撃のクラトスの攻撃を避け、お互いに一進一退、譲らない攻防を繰り広げていた。
だが、長引けば長引く程、必然的に体力の無い方が不利になる。
わずかな隙を突いたクラトスがロイドの剣を弾き飛ばし、ロイドが体勢を崩したところで手合わせは終了となった。
「くっそー!今日はイケると思ったのに!」
「まだ無駄な動きが多い。それで体力を消耗していては元も子もないぞ」
わかってるんだけどさー、とロイドは木にもたれながら水筒から水を飲んだ。
クラトスにも、と水筒を渡そうとして、ロイドはちょっとした悪戯を思いつく。そして水を口に含むと、クラトスのマントを引っ張った。
「どうした?っ…!」
クラトスが振り向いたと同時に、ロイドはクラトスに口付ける。そのまま少し唇を開き、含んでいた水をクラトスの口へと流し込む。
こくり、とクラトスが水を飲んだのを確認してから、ようやくロイドは唇を離した。
「ロイド…」
「へへ…油断しただろー」
悪戯大成功!と言わんばかりの笑顔に、クラトスは何も言えなくなる。可愛すぎて仕方が無い。
クラトスはお返しだと言わんばかりに、ロイドを抱き寄せて深く口付けたのであった。
――PM9:00
「気持ちよかったー!」
「ロイド、ちゃんと髪を拭きなさい」
風呂から上がったロイドは、髪から滴が落ちるのも気にせず部屋に戻った。
しかし、それを許すクラトスではない。やれ床が水浸しになる、やれ布団やソファーが濡れてる、やれ風邪をひいたらどうすると、お説教をしながらロイドの髪を丁寧に拭いていく。
実はロイドが、こんな時間や、やりとりが気に入っている事は内緒だ。出来ればお説教は勘弁だが、頭を拭いてくれるクラトスの手は好きだし、ロイドなりの甘えでもあった。
「ほら、いいぞ」
「サンキュ」
拭いて貰ったお礼だと、ロイドは振り向いてクラトスに軽く口付けた。その瞬間、ロイドの頭はクラトスの手によって押さえられ、更に深い口付けを求められる。
「礼だと言うのなら、このくらいは貰わぬとな」
顔を赤くしながら必死に酸素を取り入れているロイドに対して、クラトスは余裕にも、そう言ってのける。
「くっそー…いつかあんたをキスでぎゃふんって言わせてやるからな!」
「楽しみにしていよう」
くくくっと笑うクラトスが癪に触ったのか、今に見てろよ!と、ロイドは意趣返しのつもりか、その鼻をぱくりっと食む。
流石のクラトスもこれには目を丸くさせるしかない。
そして鼻から口を離したロイドは、堂々と宣言したのだったのだ。
「いつかあんたの口もこうしてやる!」
結局はバカップル親子の微笑ましくも鬱陶しい、キス攻防戦の幕が切って落とされただけであった。
黙っていれば、立っているだけならば、ただ黙々と剣を振るっているだけならば、街中に飛び交うクラトスの噂はウソではない。
しかしそこに息子のロイドが入ると、そんな「クラトス像」など、粉々の砂の如く打ち砕かれる事が目に見えている。だからいい、みな、知る必要など無いのだ。クラトスの深い部分など。
「クラトス、おやすみのちゅーは?」
と、ロイドが聞けば
「おやすみ、ロイド」
と、何の躊躇いもなくキスをし
「おやすみ、クラトス」
と、ロイドがお返しのキスをする。
そしてこれに慣れきった仲間達は、もはや突っ込むことすら放棄した。
さぁ、起きたらあの二人の「おはようのキス」が待っているぞと、みんなは諦め半分・慣れ半分で、それぞれの床についたのだった。
END
ひたすらちゅっちゅいちゃいちゃさせたかっただけですが何か?←
親子が幸せ一杯になって暴走すると、仲間達に被害がいきます。いちゃいちゃも程々に。
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