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甘い香りに包まれて…

街中の店という店が、赤やピンクの装飾で彩られている。店頭には様々な形や味のチョコレート。中には手作り用のキットや、「チョコレートと一緒に贈り物を」という名目で小物を並べている店もある。
皆、迫るバレンタインに向けて必死のようだ。
だが、この光景は繁栄世界テセアラであるからこそ見られる物である。衰退世界であるシルヴァラントで育った者にとっては、驚きと物珍しさでいっぱいだ。

「すごい…!」

「うわぁ〜…可愛いチョコレートがいっぱいだよ、ロイド」

「こんなの、腹にはいっちまえば一緒だろ?」

「ロイド君、それで女の子の心象マイナス200点だぜ…?」

はしゃぐジーニアスとコレットとは正反対に、ロイドは至って冷静だった。食べてしまえば形なんて、と思うロイドには理解し難いようだ。そんなものなのか?と首を傾げている。
確かに、可愛らしいハートや花の形をしたもの、デコレーションされたチョコは見ていて心踊るものはある。だが、それはあくまで「創造物」としてであり、食物としては今ひとつ食指がわかない。むしろ、ディスプレイ用に飾られている巨大板チョコの方が、ロイドの食欲を刺激する。

「あのなぁ…こういうのは気持ちなんだよ、気・持・ち!」

これだからお子様は、とゼロスの呆れを含んで言う。

「いいか?ロイド君。愛しのハニー達があれでもないこれでもないとバレンタインの日に向けて用意してくれるんだぜ?それをだな―――」

「それよりチョコなんか見てたら腹減ったー」

「そうね。お昼も近いし、ついでに宿も取ってしまいましょう」

リフィルの提案に賛成した一行は、宿の方へと歩いていく。

「ちょっ!俺様を無視すんなぁぁぁっ!」

ゼロスの喋りは、当然の事ながらスルーされたのだった。








夜、あてがわれた部屋でロイドは剣の手入れをしていた。同室はいつもと同じ、クラトスだ。
クラトスは既に剣の手入れを終え、書物に目を落としている。
その様子をロイドは落ち着きなく、チラッ…チラッ…と盗み見する。

「…さっきから何だ」

「えっ?!い、いや…別に…」

クラトスがソレに気が付かないハズが無いのはわかっているのに、いざ突っ込まれると、ロイドは変に誤魔化す事しか出来ない。
そんな息子に溜め息をつきつつ、集中しないと怪我をするぞ、と言って、クラトスは再び本へと意識を向けた。

「なぁ、クラトス…」

しばらくして、ロイドは剣を仕舞いながらクラトスに声を掛けた。クラトスは読みかけの書物から視線をロイドに移す。

「なんだ?」

「んー…何て言うか、さ…クラトスもチョコ貰ったら嬉しいか?」

おそらくバレンタインの事だろうと、クラトスは昼間の事を思い出す。ああは言っていたが、時間が経ってから気になりだしたのだろう。

「好意を持った相手からならば、な」

言外に「ロイドからならば嬉しいが、他の者からのは何も思わない」という意味も含めて、クラトスは返答する。
その意味に気付いたロイドは、そっか、と頬を染める。そして、クラトスの隣に座り、ぎゅっと抱きつく。

「ロイド?」

どうしたのだ、とクラトスはロイドの頭を撫でる。

「やっぱ、さ…ハート型とかの方が…いいか?」

どうやらロイドは、クラトスの為にチョコを用意しようと思ったらしい。しかし、男の自分がハート型のチョコ、ましてやバレンタイン用に買うのは恥ずかしいのだろう。現に、クラトスの胸に伏せられた顔ばかりでなく、耳まで真っ赤になっている。
そんないじらしく、可愛い息子にクラトスの頬も緩む。そして、優しくロイドを抱き締めた。

「神子の言葉を借りるようで少々不本意だが、形など関係ない。大切なのは気持ち、であろう?」

自分を想って用意してくれるものならば、どんな物でも構わない。それは間違いなくクラトスの本心だ。今、こうやってロイドが告げてくれただけでも十分過ぎる程だった。

「だから、お前が私のために悩み、考えてくれたものであれば、例えどんなものでも構わない」

むしろ、こうして抱き締め合って、至近距離で話して、想いをつむぎ合って…こんなゆったりと流れる時間を二人で過ごす事こそ、最高のプレゼントだ。
そう言うと、ロイドは甘く微笑み、「それって、いつもと同じじゃん」と、嬉しそうに言ったのだった。






「クラトス…はいっ!」

バレンタイン当日、ロイドは小さな箱に入ったトリュフをクラトスに渡した。
クラトスはそれを嬉しそうに受け取る。

「ありがとう、ロイド」

ロイドの想いが詰まったそのトリュフは、どんな料理よりも美味しかったという。





END



ロイド君がドライだったり乙女だったり^ρ^
父さんは例えチロルチョコ一個でも嬉しいに違いない。



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