Trick Trick Trick 「あ、クラトスおかえりー」 「ただい、ま…」 買出しから宿に戻ってきたクラトスは、最愛の息子に出迎えられて頬を緩めそうになった。それを踏みとどまらせたのは、ロイドの格好である。 頭には獣耳・首にはオレンジと紫のストライプのマフラー・腰の辺りには犬のような尻尾・服もいつもの赤い服ではなく黒の長袖のシャツを着用している。 「どうしたのだ?その格好は…」 両手に抱えた荷物をテーブルに置きながら、クラトスは息子の格好について聞いた。 「ほら、明日ハロウィンのお祭りだろ?」 だからその予行練習だと、ロイドはニコニコしながら答えた。 確かに翌日はこの街を挙げてのハロウィンパーティーだと、クラトスも街中に貼られたポスターで確認しているし、どこもかしこもハロウィンの飾り付けでいっぱいだった。 「なるほど。それでお前は…犬、か?」 「オオカミだって!」 さっきコレットにも言われたんだよなぁ、とロイドは溜め息をこぼした。なかなかの力作だと思っていたので、犬発言にはちょっと傷付いたようだ。 そんな風に落ち込む息子を見て、慌てないクラトスではない。何とか機嫌を浮上させようと、「とても良く出来ている」「犬に見えたのはお前があまりにも可愛いからだ」「良く似合っているぞ」と、ロイドの手を取って褒め称える。 狼狽え、必死になっているクラトスを見て、ロイドは苦笑しながら抱きついた。 「もういいよ、父さん」 「すまない…」 確かに犬だと言われたのはショックだが、あんなに慌てるクラトスが見られるとは思わなかった。それだけでもロイドには大収穫だ。 その時、部屋のドアがノックされ、部屋主の返事も待たずドアが開けられた。 「ロイド、ちゃんと着れた?」 「おーおー、いいんじゃね?そのい――狼…」 部屋に入ってきたジーニアスとゼロスが好き勝手に感想を言い合っている。ちなみに、ジーニアスは黒い化け猫(尻尾が二股になっている)、ゼロスはミイラ男のようだった。 そのミイラ男が先程、ロイドの格好を犬だと言いかけたため、クラトスはその首を落とす勢いで睨みつけてやったのだが。喉元過ぎればなんとやら。後は全く気にもせず話に花をさかせている。 そんな様子を見て、クラトスはおや?と思う。 「神子は何故ミイラなのだ?」 ゼロスならば、ドラキュラやファントム辺りを選ぶと思ったからだ。 クラトスの疑問に、3人はニヤーっと笑う。決していい笑みではない表情に、クラトスの背中に悪寒が走る。 そんなクラトスをよそに、3人はせーの、と声を合わせた。 「「「Trick or Treat!」」」 「……は?」 突然の事にクラトスは目を丸くする。 「は?じゃなくて、天使様、お・菓・子♪」 「くれないとイタズラしちゃうんだから♪」 「そう、言われてもな…」 何せ今日は荷物がいっぱいで菓子を買う余裕はなかった。祭りは明日だから、明日の午前中にでも用意すればいいと思った。だからクラトスは手持ちに菓子は無い。 「すまないが、今は…」 「じゃあイタズラだな!♪」 明日でいいか?と聞く前にロイドに宣言され、クラトスはその声を合図としたゼロスに羽交い締めにされた。 「神子?!」 何をする、と言う間もなく、クラトスはロイドとジーニアスに服をひんむかれていく。 「なっ…ななな…?!」 流石のクラトスも、状況が全く掴めず混乱状態だ。 そして下着以外を全て脱がされたクラトスは、ロイドから新しい服を手渡された。ゼロスとジーニアスはいつの間にか、他の着替えと一緒に先程クラトスが着ていた服を持ち出している。 「じゃロイド、頑張ってね」 「天使様、たまにはハニーと一緒に楽しんでやんな」 そう言って、ジーニアスとゼロスは部屋を出て行ってしまった。 「一体、どういう事なのだ?」 にこにこと笑っているロイドに、クラトスは至極当然の質問を投げ掛ける。しかしロイドはそれには答えず、「とりあえずそれに着替えろよ」と言う。 確かに何時までもこんな姿でいる訳にもいかない。 クラトスは押し付けられた服に着替える事にした。 「これは…」 「クラトス、すげー似合ってる!」 息子に似合っている言われ、クラトスは少し頬を染めたが、何故この服なのかは理解出来ない。 クラトスが着替えた服、それは、ハロウィン用のドラキュラの衣装だった。 「どういう事だ?私は明日の祭りには参加しないと言ったはずだが?」 クラトスは賑やかな場所はあまり好きではないし、元々祭りを楽しむような性格でもない。それはロイドもよくわかっているし、不参加であることも伝えてあった。 そんなクラトスの言葉に、ロイドはしゅん、と俯いてしまう。 そう言われる事はわかりきっていたが、実際に言われると結構キツい。 「ごめん、なさい…」 その声は明らかに涙を含んでいる。 あまりの落ち込み様に、クラトスは慌てた。まさかこんなに傷付くとは思わなかったのだ。 「ロイド…その…」 「でもっ…オレ、どうしてもクラトスと祭り行きたくて…それで…」 ジーニアスとゼロスに協力してもらって、今回の"イタズラ"を考えたのだった。 「クラトス…そんなに行きたくなかったなんて…ごめんなさい…」 「もういい…」 溜め息と共に出された言葉に、ロイドは体を震わせた。 怒らせてしまった。呆れられてしまった。もしかしたらあまりのしつこさに嫌われてしまったかもしれない。 ロイドが更に謝罪の言葉を発しようとした時、クラトスの方が先に行動に出た。 優しく、でもしっかりと、ロイドを抱き締める。 「クラトス…?」 「すまない…泣かせたい訳ではないのだ…」 「……へ?」 クラトスに言われて、ロイドは初めて自分が泣いている事に気がついた。 「カッコ悪い」と目を擦る手を止めさせ、クラトスはロイドの目元にキスを落とす。 「私と一緒がいいのだな?」 「うん…」 一緒に行きたい、とロイドは抱きしめ返した。 「わかった」 「えっ?!」 いいの?とロイドが顔を上げると、そこには優しく微笑むクラトスの顔。 「言ったであろう?お前を泣かせたい訳ではないのだ」 それに人混みが苦手な以外に、クラトスは、自分が居ない方が、他のメンバーと一緒の方がロイドは楽しめると思ったからこそ、祭りには行かないと言ったのだ。 だがロイドは一緒に行きたいと言っている。涙まで見せて。 クラトスが行かない理由など、一瞬で吹き飛んだ。 「本当…?」 「あぁ、本当だ」 いまだに信じられなさそうにしている息子の頬を、クラトスは優しく撫でる。 すると、ロイドは表情をほころばせ、クラトスに思い切り抱きついた。 「ありがと、父さん!」 嬉しくて嬉しくて、ロイドは抱き締めている腕に力を込める。 「こら、ロイド…苦しいであろう?」 抗議をするが、そんなクラトスの声も優しげだ。 「早く明日にならないかな♪」 楽しみを抑えきれないロイドをクラトスがたしなめながら、祭り前日の夜は更けていくのだった。 翌日、ジーニアスとゼロスには、クラトスから特大のお菓子詰め合わせセットが贈られたとか。 END HAPPY Halloween! 色々拾い忘れてますが、もうあきらめ…orz 戻る |