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その名が継ぐもの

小さな町医者の診察室。
待合室とを遮る扉の前。
落ち着きなく扉を見つめる男性。

そして


――…ァ、フギャァァッ!


「っ!」

「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」








「アンナ!」

「クラトス…」

アンナと呼ばれた女性は疲れた表情をしているものの、横たわったベッドの上で幸せそうに微笑んだ。
その傍らには、今、まさに産まれたばかりの赤ん坊。

「クラトス…私達の子どもよ…」

アンナは優しくその子どもの頭を撫でる。赤ん坊はスヤスヤと寝息をたてて眠っていた。
クラトスはその様子を見つめるだけで、微動だに出来ないでいた。

この小さな赤ん坊が
この小さな命が
自分の血をひいている事が
まだ信じられなくて

そんなクラトスを見て、アンナはゆっくりと体を起こし、赤ん坊を抱き上げる。そして、クラトスに向かって微笑んだ。

「抱っこ、してあげて?お父さん」

「っ!」

一気にクラトスの体に緊張が走る。
今まで子ども、ましてや赤ん坊など抱いた事などなかったからだ。
戸惑うクラトスに微笑みかけながら、アンナは大丈夫だからと、赤ん坊をクラトスの腕におさめる。

小さくて
でもしっかりと重みがあって
やわらかくて

「あたたかい…」

赤ん坊特有の体温とは別に、心の底から広がっていく温もりに、クラトスの緊張はほぐれていく。

「私の…私達の子どもなのだな…」

「えぇ…私とあなたとの赤ちゃん」

温もりと幸福感に時間を忘れそうな位、二人は赤ん坊を見詰めていた。



「ねぇ、クラトス…」

ふと、何かを思い付いたようなトーンで、アンナはクラトスに声をかけた。
クラトスは、何だ、とアンナに視線を向ける。

「この子の名前、あなたが付けてあげて?」

アンナの言葉に、クラトスは目を見開いた。赤ん坊が出来たとわかった時から、名前は産まれてから二人で決めようと言っていたからだ。
鳩が豆鉄砲をくらったかのようなクラトスの表情に、アンナはクスクスと肩を震わせて笑っている。まさに、してやったり、という感じだ。

「アンナ…」

「ご、ごめんなさい…だって、あなたのそんな顔、初めてで…ふふっ…」

渋い表情に変わったクラトスとは対照的に、アンナはまだ笑っている。

「あなたにね、付けて欲しいの」

父親として最初のお仕事よと、そう言ったアンナの目は、いつの間にか優しく真剣なものに変わっていた。

「ね?」

そう言われて、クラトスは我が子の顔を見ながら頷いた。










「それでそれで?」

とある宿の一室。同じベッドの上で、クラトスとロイドは向かい合って座っていた。
この日は、ロイドが産まれた時の事を聞きたいと言ったので、クラトスはその話をしている。

「どんな名前がいいか、一晩悩んだ」

本当に一晩中悩みっぱなしだったと言う。
あーでもない、こーでもない、と悩んでいるクラトスの姿を想像して、ロイドは思わず吹き出した。

「ロイド…」

「ご、ごめ…悩みまくってるアンタの顔想像したら…ははっ」

こういった所はアンナそっくりだと、クラトスは苦笑しながらそうこぼした。

「わりぃわりぃ…で、何で"ロイド"って名前にしたんだ?」

なんとか笑いをこらえて、ロイドはクラトスに尋ねる。これで拗ねられては後が面倒だ(意外とこの父親は子どもっぽいところがある)。

「国花の話は前にしたな?」

「あー…確か、昔はその国を町長する花があったんだっけ?」

「町長ではなく象徴だ…」

あ、そうだった、とロイドは照れくさそうに頬を掻く。
しかし、その話と自分の名前と、一体何の関係があるのだろうか。
ロイドはクラトスの説明を待った。

「その花には"希望・勇気・正しき心"といった花言葉もあった」

「それで?」

「その花の名前が"ロイド"だ」

えっ、とロイドは目を丸くした。
クラトスは優しく微笑みながら更に語りかける。

「お前は私達の"希望"で、どんな困難にも立ち向かえる"勇気"を持ち、周りを見て判断を下せる"正しき心"を持って欲しいと…そう思って"ロイド"と名付けたのだ」

自分の名前にそんな想いが込められていたと全く知らなかったロイドは、盛大に顔を真っ赤にしてクラトスから目を逸らした。
恥ずかしいやら誇らしいやら、何とも言えないむずがゆさがある。
それと同時に不安も生まれる。

「オレ…そんな風になれねぇよ…」

せっかく期待を込めて付けて貰った名前なのに、それを裏切ってしまうようで、ロイドは心苦しくなった。
そんなロイドをクラトスは優しく抱きしめ、その柔らかな髪を梳きながら、そんな事はない、と幼子にするようにあやす。

「お前は、私達が込めた想い以上に育ってくれた」

「…本当か?」

「嘘などついてどうする」

自分にはもったいない位、自慢の息子だと、クラトスは抱きしめる腕に力を込めた。
ロイドは頬を染めながら、クラトスを抱きしめ返す。

「あの、さ…クラトス…」

「何だ?」

いつもはあまり言えない事を今くらいは…

「ありがと…オレに"ロイド"って名前、つけてくれて…父さん」









「ロイド…うん、素敵ね」

アンナはクラトスが考えた名前を気に入ったようだった。

「ロイド…今日からあなたはロイドよ」

ロイドと名付けられた赤ん坊は、アンナの腕の中でまどろんでいる。

「…私達の"希望"」

「この先、襲わぬとも限らない事態に立ち向かえる"勇気"」

「そして、一つの事にとらわれない"素直で正しき心"」


ロイド それが あなたの名前




END



色々捏造すみませっ(今更)
ロイドの名前はどっちが考えたのかなぁとか、由来とかあるのかなぁとか、考えたらこんなん出ました←
国花辺りは、以前に書いた「それは褪せる事なく」「Flower-君を飾る花-」とつながってたりします。
もちろん単品でも支障はありませんが、ちょっと繋がりを感じていただければな、と思います^^;


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あきゅろす。
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