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小さな子守歌

突然だがクラトスが小さくなった。それはもう人形のような可愛らしいサイズに。
原因はリフィルが作った料理。
少し味見してくれないかしら?と無理やりクラトスの口に料理を突っ込んだのだ。
瞬間、何故かちんまりとしたサイズに変貌していたという訳だ。

「リフィル様…一体何入れたの…?」

「ちょっと珍しい薬草があったから入れてみただけなのだけど…」

「明らかにそれが原因じゃん!」

リフィルとしてはマナを解放したクラトスの体を気遣って栄養のあるものを、ということだったらしいが。
正に小さな親切、大きなお世話だ。
とりあえず元に戻そうとリフィルは(渋々)リカバーをかける。が、戻らない。
じゃぁ、とパナシーアボトルを使う。が、やはり戻らない。

「…どういう事だ?」

クラトスだけではなく全員の視線がリフィルに突き刺さる。

「もしかしたら、特定の薬品でしか解毒出来ないのかしら?実に興味深い…」

目の色が変わったリフィルを見て、ロイドは慌ててクラトスを隠す。

「く、クラトスを実験台になんて絶対ダメだからな!」

わかっていてよ、と言いながらもその表情は明らかに残念そうだ。
とりあえずリフィルとジーニアスは料理に入れた薬草の成分解析と解毒薬の生成。しいなとコレットとゼロスはその手伝い。リーガルとプレセアはアイテムや食材の買い出しに担当が割り振られた。

「ではロイド、クラトスを頼んだわよ」

いつもなら逆なのだが、クラトスがこのサイズでは致し方ないだろう。仲間達を見送り二人は部屋に戻った。

「何かいるもんとかあるか?」

備え付けの机にクラトスを下ろしてロイドは聞く。はっきり言って今のクラトスに宿内を彷徨かせるのは危険だ。ある程度の事はオレがやってやらないと、と妙な使命感に燃えていた。

「できれば水かコーヒーを…口直しがしたい…」

先ほどのリフィルの殺人的料理が口に残っているらしい。

「じゃあコーヒー貰ってくるな」

ちゃんと待ってろよ、とロイドは食堂へと降りていった。そしてコーヒーを注文しようとして、ふと気がついた。

(どうやって飲むんだ?)

流石にあのサイズのカップなどあるはずがない。
ロイドは周りに怪訝な目で見られつつも、しばらくカウンターの前でウンウンと唸った。



(そうだ、スプーンで飲ませればいいんだ)

そこに至るまでに時間はかかったが、ロイドは「名案」と満足げにコーヒーを持って部屋へと戻る。
そしてドアを開けようとノブに手をかけた。ところで動きが止まる。
部屋の中からかすかに歌声が聞こえる。今部屋にいるのはクラトスだけ。ロイドははやる気持ちを抑えつつ、そっとドアを開けた。

〜…♪

やはり歌っているのはクラトスだった。
珍しい光景にロイドはしばし呆然とする。

「遅かったな」

歌が止み、声をかけられてロイドは我に返った。

「あ、あぁ…どうやって飲ませようかと思ってさ」

ロイドはカップを机に置き、スプーンでコーヒーをすくってクラトスに差し出す。
すまない、と鳥のヒナよろしく、クラトスは差し出されたスプーンからコーヒーを飲んだ。
うっかり可愛いと思ったのはロイドだけの秘密だ。

「この姿だと不便でならないな…」

お前にも迷惑をかける、と申し訳なさそうにクラトスは言う。ヒマ潰しに本も読めん、と付け加えて。むしろそっちが本音かもしれない。
そういえば、とロイドはクラトスに視線を合わせる。

「さっき何か歌ってなかったか?」

珍しいよな、と言うロイドの瞳は期待で輝いている。どうやらクラトスにもう一度歌って欲しいようだ。
クラトスは少し頬を染めて、あまり上手くはないぞ、と断りをいれる。
そしてゆっくりと口を開いた。

…〜♪

紡がれるメロディーにロイドは耳を傾ける。
どこがあまり上手くないと言うのか。
心地よい歌声にロイドはうっとりと目を細めた。

(なんか…気持ちいい…)

それに懐かしい感じもする。

「ロイド、寝るのならベッドに行きなさい」

「ん…ごめん…」

何か気持ちよくて、とロイドはクラトスを手に乗せてベッドへと向かう。そして枕元にクラトスを座らせてゴロンと横になった。

「もっかい…歌ってくれよ…」

クラトスは小さな手でロイドの頭を撫でながら、歌を続けた。

ロイドは知っている。
昔、幼い頃、こうやって父と母が寝かしつけてくれた事。
毎晩交代で子守歌を歌ってくれた事。

かすかな懐かしい思い出と共に、ロイドはゆっくりと眠りに落ちた。






「クラトス、一緒に寝ていいか?」

「もちろんだ。ほら」

「へへっ…あの、さ…また、歌ってくれよ…」

「もちろんだ。お前が寝付くまで何度でも」

優しい優しい子守歌。
明日も幸せな1日であるようにと願いを込めて。

おやすみ…――



END



某幸せ計画企画に間に合わなかった代物でし、た…orz



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