かなわない人 (これなら勝てるかもしれない…!) ロイドはバタバタとクラトスのいる部屋へと駆けていく。 その後ろ姿をゼロスは笑いを噛み締めて見送っていた。ロイドの姿が見えなくなった途端に腹を抱えて笑い転げたが。 「クラトス!」 ばんっ!と勢いよくロイドは部屋のドアを開けた。 同時に溜め息が聞こえる。 「もう少し静かにしなさい」 他の宿泊客に迷惑だろう、とクラトスは読んでいた本から目線をロイドに合わせて言う。 「ぅ…ごめん…」 さすがにバツが悪くロイドは素直に謝る。ドアは静かに閉めて。 「それで、どうしたのだ?」 あれだけ慌てて入ってきたのだから何かあったのだろうと、クラトスはロイドに問いかけた。 するとロイドは目を輝かせてクラトスの隣に座る。その手にはお菓子の箱が握られていた。 「あのさ、ポッキーゲームしようぜ!」 「…ポッキー…ゲーム?」 聞き慣れない言葉にクラトスは首を傾げる。 オレもさっきゼロスに教えてもらったんだけどさ、とロイドはポッキーゲームの内容を説明し始めた。 説明を聞いたクラトスは頭を抱えたくなった。なんともくだらない遊びか。しかも息子はやりたそうに、輝いた瞳で自分を見ている。 「なー、クラトスー」 しよ? そんな可愛く言われてしまっては、クラトスが断れる訳はなかった。 一度だけだぞ、と了承した父にロイドは満面の笑みで頷いた。 嬉々としてポッキーを取り出し、口に加えて、ん、と顔をクラトスの方に向ける。 ようは自分から口を離さなければ勝ちなのだ。負ける気がしない。 クラトスが加えたのを確認して、ロイドはポリポリ食べ進めていく。 クラトスも同様に。 そこでロイドはふと、気づいた。 もし、二人とも口を離さなかったら? このままお互いに食べ進めていったら? 瞬間、ロイドの顔が赤く染まり、食べるのも止まってしまう。 とんでもない事に気づいてしまった。 しかしその間にもクラトスはどんどん食べ進めていく。 近づいてくる顔にロイドは思わず目を瞑る。 そして、くす、という笑いが聞こえたかと思うと、ロイドの唇にクラトスの唇が触れた。 だけではなく、クラトスの舌がロイドの口腔へと入っていく。 舌を絡め合い、チョコレートをなすりつけ合って、ようやくロイドの唇からクラトスの唇が離れた。 ロイドは足りなくなった酸素を思い切り肺へと流し込む。何度もしているハズなのに、キスの間鼻で息をするという事がロイドにはまだ不慣れであった。 クラトスはさらに軽くキスをして、ごちそうさま、と微笑んだ。 「っ〜!あんたっ!こうなるってわかってて…!」 「さて、どうだかな」 このタヌキ!とロイドは顔を真っ赤にして叫んだ。 静かにしなさい、とクラトスはもう一度ロイドの唇を塞ぐ。 まだ甘いチョコの味がした。 軽くついばむと、ロイドも観念したかのように大人しくなる。 「ところで…」 「…何…?」 「さっきのはどちらが勝ちになるのだ?」 二人とも口を離さなかったから。 えーっと、とロイドは首を傾げる。ゼロスには口を離した方が負けとしか聞いていなかった。 「…引き分け?」 かもどうか怪しいが、とりあえずそう言ってみる。 ならば、とクラトスはポッキーを1本取り出してロイドに加えさせた。 「もう一勝負いこうか?」 にっこりと。とてもいい笑みで。 ロイドはまたもや顔を真っ赤にさせ、口にしたポッキーを急いで食べて叫ぶ。 「こんなの勝負になんねーだろっ!」 また美味しく頂かれてしまうのが丸わかりだ。唇だけではなく、体も一緒に(別にイヤではないが)。 「では先程のも無効だな」 そう言って、クラトスはロイドの口の周りについたチョコを拭ってやる。 「うん…クラトスとは…普通にキスしたい…」 頷いたと思えば予想もしなかった発言に、クラトスは目眩を覚える。 何故この子はこんな可愛い事を言ってのけるのか。 息子が、やっぱり父さんにはかなわないなぁ、と思ったのと同時に、父も、この息子にはかなわない、と思ったのだった。 後日、ロイドの秘奥義を食らって、ゼロスが川に浮かんでいたのが発見されたとかないとか。 END ポッキー以上に二人の空間は甘い。 戻る |