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それは褪せる事なく

クラトスは何やらいつもより親子連れの多い街中に首を傾げる。

(今日は何かあっただろうか…)

それは店に貼られたポスターで判明した。






「なぁ、クラトスしらねぇ?」

部屋にいると思った父親がおらず、ロイドは食堂の端で何やら難しい本を読んでいる幼馴染に声をかけた。

「クラトスさんならさっき出て行くの見たよ」

「マジ?どこいったんだろ…」

いつもなら出かける時には自分に声をかけて行くのに、とロイドはいぶかしむ。かつおもしろくない。
ちょっと行ってくる、とロイドは宿屋を飛び出した。
後ろから「べったりなんだから…」とあきれた声が聞こえたが全力でスルーした。

人がごった返す商店街を見回しながら、ロイドはクラトスの姿を探す。椅子にいつものマントが掛けられていたから今は騎士団の服を着ているのだろう。ソレを目印に探す事にする。
すると丁度人ごみがマシになってきた辺りでロイドは目的の人物を発見する事が出来た。
だが声を掛けられなかった。
クラトスは大きな花束を買っていた。着ている服に合わせたような真っ白な花束を。

何、それ…
あんた普段花なんか買わねぇじゃん
そんなデカいの誰にあげるんだよ
オレの事いらなくなったのか?
別のヒト、好きになったのか?
だからオレには何も言わないで…

ロイドの心の中はどんどんと不穏な憶測で埋まっていく。
その間にもクラトスは花束を手にしてロイドから遠ざかっていく。
ロイドはたまらずその背中を追いかけた。

後ろから覚えのある気配を感じてクラトスは振り向いた。「ロイド」と言おうとして息を詰める。
ロイドがクラトスにタックルを決めてきたのだ。(正しくは思い切り抱き付いてクラトスを押し倒した、だが)

「ロイド…」

痛いだろう。しかもこんな往来で。他の人にぶつかったらどうする。
流石に呆れたクラトスはロイドに注意をする。が、どうもロイドの様子がおかしい。背中に回された腕にも力が入っていて、正直苦しい。
ロイド?と声を掛けると、ロイドは震える声で言葉を紡いだ。

「オレの事…キライになったのか?」

クラトスは固まった。何故そんな事になったのか全くわからない。
何も言わないクラトスに痺れを切らしたのか、ロイドは堰を切ったように先ほど思った事を口にしていく。
それを聞いてクラトスは少々のめまいを感じた。しかし黙って出なければロイドもこんな思考に陥らずにすんだのではないかと思うと、自分にも非がある。
クラトスはロイドの頭を撫でて立ち上がらせる。流石にこのままでは通行人の邪魔だ。そして「一緒に来なさい」と言うと、ロイドの手を引いて街の外へと出た。

更にレアバードに乗って、着いた場所は木々の生い茂る森だった。
こんな所で人に会うのか?とロイドはクラトスを見る。

「行くぞ」

クラトスは何も答えずにロイドを抱き寄せると森の中へと足を踏み入れた。
しばらく無言で二人は森の中を進む。
沈黙に耐え切れなくなってロイドが口をひらいた瞬間、クラトスは立ち止まった。
そこには誰もいないし何も無い。あるのは自分達を取り囲む木々ばかりだ。
ロイドが首を傾げているとクラトスは一本の木の根元に花束を置いた。

「クラトス?」

近づいてきたロイドの頭を撫でてクラトスは優しく微笑む。

「ここは、元々私が住んでいた王都があった場所だ」

言わばクラトスの故郷のあった場所。
ロイドは目を丸くして辺りを見渡した。

「もう影も形も無いがな」

そこでロイドは気がついた。

「だから、その服…?」

聡い子だ、とクラトスはロイドの頭を撫でる。
共に過ごした両親、友、忠誠を誓った主君。その人達への敬意。そして白い花は弔いの意を込めて。
短い黙祷を二人は奉げた。






「でもさ、何で急に…」

辺りを散策しながらロイドは訊ねる。前々からここに来るつもりならば、クラトスは前もって言うハズだと思ったからだ。
それにクラトスはあぁ、と言いながら答える。

「街で"父の日"とか言うポスターを見かけてな」

それで急に思い立ったというわけだった。
そしてロイドは当初の目的を思い出す。そう、今日は"父の日"なのだ。

「そうだよ!オレ、クラトスが…父さんが喜んでくれる事したくて…探してたのに…」

段々声が小さくなって、しゅんとロイドは俯いてしまう。
あぁ、悪いことをしてしまったとクラトスは今更ながら後悔した。
でも今からでも遅くないよな!とロイドは瞳を輝かせる。何して欲しい?と期待を込めて。
正直クラトスとしてはこうして側にいてくれるだけで十分なのだが、それではロイドが納得しない。

「では、夕飯にトマトが出たらお前に食べてもらおうか」

「無理っ!それ絶対無理っ!!」

もちろん冗談だ。
そう言えばロイドはムカツクー!と背中をポカポカと叩いた。
結局、帰りのレアバードの運転と風呂で背中を流すという事に落ち着いた。

森を出てレアバードに乗ろうとした時、ロイドは森の方を見てちょっと待って、ともう一度森の方へと向かった。そして森に入る手前で叫ぶ。

「じーちゃん!ばーちゃん!また来るからな!」

思わぬ事にクラトスの視界がぼんやりとゆがむ。それは一瞬の事だったけれども。

笑顔で戻ってくる息子を視界に映しながら、クラトスは改めて両親を思い返す。
声も、顔も、もう思い出せない。それ程永く生き過ぎた。
それでも思い出は心の中に鮮明にある。

今夜くらいはそんな話をしてもいいかもしれない。
クラトスは戻ってきた息子を抱きしめて、そんな風に思った。



END



…父の日ネタかなぁ…←



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