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YGO短編
乙女の作戦 planC※
※ジャッカリ・遊アキ要素アリ注意



「クロウ…!!」

暗い視界の中でも、いつもと違う雰囲気でも、彼だと自信をもって言える。

「怪我してねぇか?」

そういってすっと自身の後ろに私を引き寄せた。
いつもより背中が大きく見えるのは彼がスーツを身に纏っているせいだろうか。
彼の匂いに安心する…。

「うん、ありがと…。」

「けっ!今更しゃしゃり出てくんじゃねぇよ!邪魔しやがって…。」

そういって男はきょろきょろと辺りを見回すと、少し離れたカーリーに目標を移した。
男はずんずんと酔っ払いとは思えないほどはっきりとした足取りで、彼女の元まで近づいていく。

「カーリー!あぶな…っ!」

咄嗟に出た私の言葉だったがそれは杞憂に終わる。

「嫌がる女を無理やり連れまわすなど、断じて見過ごすわけにはいかんな。」

カーリーの背後から現れた男、ジャック・アトラスは彼女の前に立ちはだかった。
有名な男だ、男も彼の存在は知っていたのだろう。
苦々しい顔をしている。

「ジャック・アトラス…くそっ!覚えてやがれ!」

そう捨て台詞を吐くと同時に、男は手に持っていた缶を思い切り投げた。

「おわっ!」

「クロウ!」

「ざまぁみろ!!」

そういって男は足早に去っていった。

*****************

「あんのやろ〜…。折角の一張羅を…。」

男の投げた缶は酒が残っていたらしく、びっしょりと彼のスーツを汚した。

「体冷えちゃう…どこかで着替えなきゃ…。」

「いいって。これぐらい平気だし…酒くせーけど…。」

「ほんとに…?」

「ああ…。」

微妙な沈黙になんとなく気まずい空気が流れる。
ジャックとカーリーがいればおそらくにぎやかなままだっただろう。
せっかくカーリーの望み通りジャックが来たのだから、と二人には先に会場に行ってもらった。
なのでこの場にいるのは私とクロウのみということになる。
なんとなく気まずいのはお互いいつもと違っているからかもしれない。

せめてハンカチだけでもと、フォーマルバッグから取り出す。
…普段ならこんな事絶対自分からはしないけれど、今はすこしだけ積極的になれた。

「…拭いていい?」

「…わりぃな。」

ジャケットにハンカチを押し当てていく。
静かな空気が余計にドキドキさせた。
なんとかこの緊張を緩和させたくて言葉を紡ぐ。

「あの、ありがとう。助けてくれて…。」

「いや、待たせちまってたのは俺たちだからな。こっちこそ悪かった…。なんつーか、その…。」

歯切れの悪くなっていく言葉に聞き返すと、彼は視線を少しずらした。

「まさか…そんな恰好してくるとは思わなかった…。」

あまり意識しないようにしていたところに注目されていたと知り、顔に血がのぼる。
アキやカーリーが思い人のエースモンスターと同じ色のドレスを身に纏ったように、私もクロウのモンスターの色に合わせたのだ。
普段着ないような黒のレースをあしらったドレスは上品さを残しつつ体のラインが出るような作りになっている。
要するにかなり大人っぽい恰好なわけだが、試着の時点で彼女たちに太鼓判を貰わなければ違うドレスにしていただろう。

「へ、変かな…!?」

「変じゃねぇよ…っ。なんつーか、その…、すげー色っぽいっつーか…。」

「そ、そう?あ、ありがと…。」

「……おう。」

良かった、と内心胸をなでおろす。

「クロウこそ、雰囲気変わったね。」

「頭か?さすがにスーツには合わねぇからな、外してきた。」

普段ヘアバンドによって上げられている髪だが、今日はおろした状態のため雰囲気がガラッと変わっている。
そっと髪に触れればさらりと揺れた。
どっちもいいな、なんて思ってしまうぐらいにはこの想いは重症だ。

「かっこいい…。」

「!そう、かよ…。」

「うん…。」

重なっていた視線を彼は照れくさそうにそらす。
けれど私はせっかくの彼のスーツ姿を目に焼き付けたいがために、その視線は彼から外さなかった。
少しの間無言の時間が流れたはずなのに、気まずいとかそういったものが不思議と感じられない。
時間が止まればいいのに、なんて珍しくロマンチックなことを考えてしまう。
しばらくすると泳いでいた彼の目は戸惑いながらもこちらを見据えた。

「リリー…俺今すげぇ舞い上がってる…もっと惚れちまった…。頭冷やさねぇと勘違いしそうだ…。」

「…!ク、ロウ…。」

「好きなんだよ、止まんねぇぐらい。」

「…勘違いじゃ、ない…です。」

「!!」

「クロウ、大好き。」




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