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YGO短編
乙女の作戦 planB※
※ジャッカリ・遊アキ要素アリ注意



あっという間に二日が経った。
日はすでに沈み始めており、少し大きな噴水広場で煌びやかな衣装を身に纏った三人がいた。
計画当初は浮足立っていたカーリーと何だかんだ楽しみにしていたリリーのテンションは低い。それに気が付いたアキは私達のそばに歩み寄ってきた。

「リリー…カーリー…大丈夫?」

「大丈夫よ、ありがとうアキ。私達のことはいいから遊星と楽しんでおいでよ。」

気遣ってくれた彼女に申し訳なくて、できるだけ明るく努める。
となりで項垂れた様子のカーリーが心配ではあるが、私達の中で唯一好感触を得られたアキまで巻き込んでしまうのは申し訳なかった。
少しでも明るい話に持っていこうと、彼女のドレスに目をやる。白をベースに胸元にある花紫色の刺繍が映えるようなデザインになっている。しかし強調しすぎていないため彼女の髪色とマッチしていると感じる。
素直に感想を伝えれば彼女は照れくさそうに笑った。
私達がドレスを買う際に意識した点は彼女のドレスの配色からもわかるように、それぞれ想い人のエースモンスターの色だ。
いつも着ないような色にしよう、ということでなかなか落ち着かない気もするが私もカーリーもそれぞれ違う色のドレスを身に纏っている。
いつの間にかカーリーも少し調子を取り戻したようで、アキのドレス姿をカメラに収め始めていた。
そうこうしていると、アキの待ち人が姿を見せた。

「遊星!」

「待たせたな、アキ。」

アキは彼の下に駆け寄って嬉しそうに話している。
遊星も群青色のスーツを身に纏っており、それだけで新鮮味がある。アキに至っては頬を染めて、見ているこちらが照れてしまいそうだ。
まるで二人の間だけ空間が切り取られたかのように別の空気が出来ているのは気のせいだろうか。

「そのドレス似合ってるな。」

「あ、ありがとう…。遊星も似合ってるわ、とても…。」

ああ、あのときめきにあふれた空間にあやかりたい…と拝んでいるとアキから声がかかった。

「じゃあ一足先に会場にいるから、また後で会いましょう。」

そういって彼女は数十メートル先にある建物の中に入っていく。
二人の背中を見送りながら、羨ましく思う。
それはカーリーも同じらしく再び撃沈していた。
もともと今回の件について不安がなかったわけではない。
好きな人が幼馴染であるから言い切れることかもしれないが、彼の性格からしてあまりこういう場には来たがらないだろうということは予想はできていた。
今回の話を彼にしたときも反応は芳しくなかった。とはいっても「考えておく」という返答を貰っただけまだましかもしれない。

隣にいるカーリーにちらりと視線を送る。
ガーネット色を基調として輪郭をダークネイビー色が囲むように配色されており、そこにいるだけで映えるような折角のドレスも彼女のトーンダウンした姿勢には煌びやかな雰囲気を醸し出せていない。
彼女のドレスは言わずもがな、ジャックのエースモンスターである“レッド・デーモンズ・ドラゴン”をイメージしてチョイスされたドレスである。
どうして彼女がこんなに落胆しているのかと言えば、曰くいつもの喫茶店で意気揚々に誘ってみたのだが「なぜ俺がよく知りもしないパーティに出向かねばならん」と弾かれてしまったという。
微塵も可能性を感じさせない彼の言葉にさすがの私もフォローできなかった。
けれどこのままの状態ではさすがに居たたまれないので、どうにかして彼女に元気になってもらおうと考えた。

「ね、ねぇカーリー?」

「なにぃ…?」

「折角綺麗なドレス買ったんだもの、どうせなら前向きに胸張って待ちましょ。ね?」

「でもジャックは来ないって…。」

「大丈夫。いざって時には私に考えがあるから。」

そういって微笑んだら、彼女は考え?と首をかしげながらも少なからず元気は取り戻した。
別に私は彼女に嘘をついているわけではない。ただできるだけなら使いたくない手だが、どうしてもという時には幼少期からジャックのことを知っている私には“不動のジャックを動かせる”手を持っている。
正直強制的に動かすようなものなので、あまり使いたくはない手ではあるが友のカーリーのためだ。
本当はジャック自身の意思で来て欲しいけれど。

外の薄暗さに慣れた目にはキツイ光が飛び込んでくる。
目を細めながらも携帯をチラリと確認すると時刻は18時50分。
あと少しでパーティが始まろうとしていた。
諦めてしまえば済む話ではある。しかし折角普段はしない恰好をしているのに誰の目にも留まることなく終わってしまうのは悲しい。好きな人なら尚更に。
ひんやりとした空気に体が震えた。

ふと、あまり嗅ぎなれない臭いが漂った。
不快感を感じさせるそれは一瞬何かわからなかったものの、振り返った先の男の様子が理解させた。

「お嬢ちゃんたち〜そのカッコど〜したの??」

ヘラヘラと機嫌よさそうに笑う男だが、どこか目は虚ろだ。
仕事帰りなのだろうか、折角のスーツもよれよれで台無しになっている。
そして嗅覚に訴えてくる不快感からも、この男が飲んだ帰りなのだろうということは容易に想像できた。

「えっと…ちょっと人と待ち合わせしてまして…。」

酔っ払いとはいえ当たり障りのない返答を心がける。いや、むしろ酔っ払いだからこそと言ったほうが正しいかもしれない。
それとなくカーリーに後ろに下がるように手を引いて促す。
少し戸惑っている様子の彼女だが、彼女も刺激しないようにできるだけ自然に努めてくれた。

さてどうやって目の前の男から離れるべきか…。

「いやぁ〜綺麗なカッコしてるねぇ〜待ってるのは男かい?」

「えぇ、まぁ…。」

「でもお嬢ちゃんたち、けっこー待ってるよねぇ。俺ずっと見てたからわかるけどさ、こんだけ待っても来ないならすっぽかされてんだよ〜。」

「あはは…。」

思わず乾いた笑いを浮かべる。
「ずっと」っていつからだ、と嫌な予感がちらついた。

繋いでいた手に力が込められたのを感じて思わず後ろを確認した。
それまで黙って聞いていたカーリーは、聞き捨てならんといわんばかりにわなわなと体を震わせていた。
制止は間に合わなかった。

「ちょっと!なんで見ず知らずのアンタにそこまで言われなきゃいけないの!?」

「あぁ〜?」

「ちょ、カーリー…っ!」

「確かに待ち合わせの時間より遅れてるけど!ジャックは絶対、来てくれるんだからー!」

彼女の必死の訴えも、男の前では効果がなかったようで鼻で笑われてしまう。

「そんなんだからいいように振り回されんだよ。そっちの嬢ちゃんならわかんだろぉ?」

そういって私の方をちらりと見た。
思わず肩に力が入る。
腰に添えられた手のねっとりとした動きに嫌悪感を感じずにはいられなかった。

「嬢ちゃん、一緒に来いよ。待っても来ねぇ男なんかよりずっといい思いさせてやらぁ。」

脳裏に浮かんだ彼の名を心の中で必死に叫ぶ。

男の腕力には敵わず強く引っ張られていく。
恐怖はより増していく。
この男には勝てない、と。

カーリーの声が遠く響く。

体に力が入らない。


しかしそれもつかの間だった。
恐怖を断ち切るような轟音が男を立ち止まらせた。
瞬時に視界に入る強烈な光。

「だ、だれだお前は!?」

それらの知覚的情報は全ての恐怖を取り除いてくれる。
メットを取らずとも誰かわかってしまうくらいには聞きなれた音だ。

「わりぃ、待たせちまったな…リリー。」




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