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YGO短編
激しく巡る(4)

子どもたちが帰ってすぐお風呂にはいれるように準備をしておく。
クロウがいない日は私が子どもたちと一緒に入るのだが、今日はクロウが一緒に入ってくれるだろうから先に風呂に入るつもりでもあった。

「もう花火上がってるのかな…。」

何気なく口からでた言葉は風呂場に少し響いたものの、すぐに静まり返る。
いつも子どもたちに囲まれて生活しているせいか、音のない環境が落ち着かなくなっていた。

「一緒に、付いていきたかったな…。」

遊星もいってくれることになったから、私より安心できるだろうなとわかっていてもつい考えてしまう。
きっと私が女だから、いざというとき頼りないからだとはわかっていても。
行きたい、と思ってしまう。
マーサの言う通りだと思った。私はとんでもないお転婆な女のようだ。

急いで風呂場から出て、動き回れるような格好に着替える。
マーサには申し訳ないと思わないわけではないが、自分の心が突き進めと炎のように燃えている。
玄関の扉に手をかけるとき、心の中でごめん、と誰にも届かない謝罪をした。

扉を開けて走って、走って、走った。
体中に流れる汗が不快感を伴っていたが、気に留める余裕はなかった。
昔の記憶を頼りに、暗い道を突き進んでいく。
自分だってできるんだと、女なんて関係ないんだと伝えたかった。


*****************


サテライト特有の建物の合間を潜り抜け、セキュリティがいない抜け道を通ってシティで行われる花火大会へと向かう。
目的地はもう見えていた。眩しいほどの灯りと沢山の人々が集まっており、花火大会の規模が大きいものなんだと考えさせられる。
本当ならばたくさんの人が集まっている場所、そのあたりが一番よく見えるのだが、生憎ここにいる人間は富裕層と呼ばれる者がほとんどで私達のような貧困層は陰に隠れるように花火を見ることしかできないのだ。
同じ人とはいえど、身に纏っているものがあまりにも違いすぎてサテライトから来た人間だとすぐにばれてしまうからである。
以前クロウと来たときもそうだったなと頭に当時のイメージが湧いてくる。私達貧困層はそうまでしないと見れない花火を、富裕層の人間はそんな不安なんて一切なく楽しめることがうらやましかった。

クロウ達がこの人ごみの中をどうやって掻い潜っていったのかはわからないが、とにかく距離をとる必要があった。
万一ばれてしまうようなことがあれば、即セキュリティにつかまってしまう。それだけは絶対に避けなければいけないし、マーサが首を縦に動かすのが慎重だった理由もこのためだった。
私がここに来た理由は難しことではなく、単純に子どもたちの笑顔が見たかったからだ。それ以上の理由なんて、ないはずだ。
それだけの理由で来たといったら彼は怒るだろうか。

「あれっ君ひとりー?こんなとこでなーにしてんのっ?」

ふと聞こえてきた声に遠ざかっていた意識が現実に戻ってくる。
声の元に首を動かせば、見知った子のおびえた様子と明らかに不純な理由で近づいたであろう男二人(一方は坊主頭、もう一方は金髪の長髪)がニヤニヤとにじりよっていた。
私と奴らの間に遮蔽物があったせいか、こちらの気配には気づいていない様子だが、このままじっとしているわけにもいかなかった。
なんとかして助けないとあの子の身が危ない!
そう思った時にはもう、体が勝手に動いていた。

「そ、そこのロリコン!私の家族に手出さないで!」

早口で捲し立てながら、男たちと彼女の間に体を入れる。
この女の子は(名前はナギという)うちの子どもだ。絶対に手出しはさせない。
本当ならばこのまま勢いよくこの子の手を引っ張って逃げ出したかった。しかし、彼女はまだ8歳になったばかりで私と体格の差が随分とある。
ただでさえ奴らのほうが速い可能性があるのに、手を引いて逃げ出そうものなら彼女がこけてしまうこともあると思うと最良な手はこれしか思い浮かばなかった。
男たちの視線は舐めるように私の体を見た。そのねっとりした視線に嫌悪感がさらに増す。震える己の足を叱り続けた。

「ふぅーん…。じゃ、おじょーちゃんが俺らの相手してくれんの?」

先ほどより鋭い視線を向けられ、思わず喉を震わせる。
どうやってこいつらから逃げる?冷や汗をかくばかりで全く策が思い浮かばない。こんな時、彼ならきっと上手くできるのにと頭の片隅で考えてしまう。

「な、なんでアンタたちの相手しなきゃ、いけないのよ。」

「だって俺らそこの女の子とあそぼーとしてたのにさぁ、おじょーちゃんが邪魔してくんだもん。ま、別にいいけどね俺ら“ロリコン”だし?」

あえて強調させるような言い方をされ、啖呵を切るのはまずかったかと内心委縮してしまう。
それでも後ろにいるナギだけでも逃げさせないとという気持ちだけが自分を奮い立たせた。

「じ、じゃあ私がアンタたちの相手する…。…それでいいでしょ。」

自分が逃げるのはこの子を逃がしてからでも遅くはないはずだ。
現に今目の前の男たちの興味は少なからず彼女から私に移行しているのだから、失敗には終わっていないと信じたい。
男たちは何を思ったのか口笛を吹いて感心したように笑い、互いにニヤリと怪しく笑った。

「おじょーちゃんさぁ、“こっち側”の人じゃないよね?」

「…!!」

思わず歪んだ顔にしまった、と後悔するも遅く男の一人はは確信の笑みを浮かべ、私に顔を近づけるとポツリと言った。

「なーんでサテライトの人間がシティにいるんだろうな?セキュリティに通報しちゃおっかな〜?」

男のねっとりとした言葉に鳥肌がざわざわとたつ。
コイツの言わんとしていることはすぐにわかった。“自分たちに従わなければセキュリティに通報する”彼らは私にそう言っているのだ。
チャラチャラとした印象が先走ってわからなかったが、よく見れば男二人の恰好は随分と質のよさそうな服を身に纏っているのに気づいた。
リリーはふつふつとこみ上げてくる気持ちを歯をくいしばって耐える。
今ここで取り乱してすべてがパアになるよりかは我慢したほうがましだ、と必死に自分に言い聞かせた。

「リリーおねーちゃん…。」

後ろにいたナギが不安そうな視線を向けてくる。眼にいっぱい涙を浮かべて、リリーの服の袖をつかんだ。
私は視線だけを後ろに寄越して早く逃げるように促す。
ナギはしばらくの間躊躇うように目を泳がせていたが、そのうち意を決したように暗闇へと走っていった。
それを確認した私は目の前の問題に目を向けた。

「じゃあ、約束。まもってもらおっかなー。」

にやりと笑う男たちの真意をこの時の私はまだ十分に理解していなかった。



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あきゅろす。
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