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YGO短編
激しく巡る(2)

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「はぁー…、なんとかしなきゃ…。」

ソファーに横になり腫れて赤くなった目元をタオルで押さえてみたが、まだ少し腫れたままだ。
明日も腫れたままだと誰かに会ったときに心配をかけてしまうかもしれない。それは避けたかった。とくにクロウには。

「早く、謝りたいな…。」

正直な気持ちだ。でも本人を目の前にしても変わらずにいられる自信は皆無だ。彼を目の前にすると条件反射の様に顔に血が昇り、赤面した顔なんて見られたくなくてつい避けてしまう。
“好き”なのだと実感すればするほど冷静ではいられない。
なので『彼に会いたいけど、会いたくない』という結論がリリーの中で出来上がっていた。

もどかしい気持ちを抱え、そろそろタオルの交換をしようかと起き上がったときだった。静かな室内に少し高いチャイム音が響く。


「あっ、はーい。」


誰だろう。今日は宅配便が来る予定はなかったはず、などと考えながら玄関のドアについている魚眼レンズを覗き込んだ。


「リリー、俺だ。クロウだ。」


思わずうそ、と口から溢れた。
ドア越しに自分の好きな人が来ている。体から力が抜けてズルズルとドアを背にして座り込んでしまう。
思いもよらない訪問者だった。というのも、彼がこの家に来たことは無かったからだ。
ここに越してきたのも数週間ほど前でドタバタしていたせいか、ほとんどの人には伝えるのが後回しになっていた。
それと同時にクロウとの距離ができた…できてしまった。
それにしてもどういう用事なのだろう。いや、頭の中ではわかっているが心が追い付いていないのだ。さっきから帰って来たとき同様、すごい心拍数だし心の準備など出来ていないものだから、どう対応すればいいのか混乱している。タイミングも最悪だ。ただでさえ顔を合わせれば赤面してしまうのに、こんな腫れた目で会うのは無理だ。

「な、なに?どうしたのクロウ。」

顔を見られたくなくて座り込んだまま声をかける。
私がドアを開けないことを察したのか呆れたような声が返ってきた。


「あのなぁ…。」

「ご、ごめん。…さっきメイク落としたから顔見せられないの。」

自分で言うのもなんだが、咄嗟についた嘘にしてはなかなか上手いんじゃないかと思った。
心の中で自分に親指を立てていると、扉の向こうから少し呆れたようなため息が聞こえた。

「素っぴんなんて今更だろ、小さい頃から一緒なんだからよ。」

「それは、そうなんだけど…。」

しまった。折角の嘘も説得させられてしまった。
なんとか乗り切る方法を、と考えあぐねているとポツリとドアの向こう側から声が聞こえてきた。

「そんなに…俺と話すのが嫌なのかよ…。」

「!ご、ごめん。そうじゃなくて…っ!」

クロウがいってしまう…!
このままでは話すどころか会うことすら無くなってしまうと思った。
私達はいつも約束をしていた訳ではなく、仲間がいたらそこに自然と集まっていたのだ。
年を取るにつれそれは顕著になり、私が住居を移したことでそれはより一層増していた。
遠ざかる足音に焦りを感じつつも、ここで扉を開けたとしてもいつもの二の舞になることは明らかだった。
それだけは嫌だった。どうにかしなきゃと辺りを見渡す。

「…っ!」

ふと、下駄箱の上にあったものに目がとまった。
急いでそれを手に取る。子どもたちの思い出が詰まったそれを持って扉を開けた。



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