.
●ベアバト
●18禁







 この魔女は、派手な魔法をつかい、派手な殺しをして、派手な演出で彩り、派手な死体工作を好きとしていたくせに、その途中の過程である拷問には、比較的地味なものを良しとする傾向があったりする。
 
 身動きが一切とれない戦人はその空中を緩やかに彷徨う手の動き一つで神経をすり減らしていた。その手の動きは触れていいものか戸惑うような動きにも似ていて。
 やがて意を決したのか、伸びた手が戦人の頬に触れた。背中が震える。嫌な汗が顎を伝い、シャツは自身の汗でびっしょりだった。
 手が滑り落ちる。ああ、喉が、ひりつくようだ。
 戦人は、唾を飲もうとして、それを抑えた。
 薄皮が捲れてむき出しになった赤黒い筋肉と頚動脈。どくどくと血流の流れが女の青い瞳に写っていた。
 女特有の細く白い人差し指がそこをゆっくりと愛撫している。
 彼女の爪の長さとその指に彩られた控えめな赤色が連想する次の行動に戦人は目を細める。予想とは違い、指はゆっくりと喉下を撫でている。
 その手の動きが愛しそうに、愛しそうに、そして縋るような動きだったため。
 戦人はなんだか無償に悲しくなってきた。  

「なぁ戦人、そなたは、ほんとうは・・・・」


 唇が言葉を作り何かを問いかける。
 極限状態まで追い詰められていた精神で投げかけられた言葉に、頭が回転し上手い答えを返すわけもなく。続いて問い掛けられた言葉を覚えている、という事もなく、
 かけられた言葉に、なんと返事を返したか。
 ただただただ怯えて無様に悲鳴をあげていたのかもしれない。
 恐らくそうなのだろう。
 だから次の魔女の歪んだ泣き笑いのような表情と、手の動きばかりはこの目に焼きついている。




『手を伸ばして、抱きしめてやればよかったのかよ??もうそんな事は二度とできないんだよ』



 暫くの静寂、
 暗闇の中でぽつりぽつりと光が舞っているのを視線が確認。独特の、深い眠りから強制的に引っ張り起こされるようなあの苦痛。
 目をゆっくりと開けておそるおそる 「ああ」 と、声を出したら、案外普通に耳に聞こえたので、なんだ、勘違いだったのかと安堵した。




 意識はあやふや。喉は潰されたとばかり思っていたのだが。
戦人は自分の精神が落ち着くのをまった。
『呆気なく、いきができる、声も出る』
 
あー 
  あーーーー 
ぁーーー

 何度か声を出してもう一度確認、安堵の息を出して「なんだよ」と震える声。
「なんともないじゃねーか・・・・」
「何が、ですか」
 と、真後ろから声が聞こえたので戦人は目を丸くして飛びのいた。
「うぅ、わ」
 後ろに立っていた悪魔と名乗る男は戦人のそんな様子を一つ一つ楽しむように眺めていた。
「ぷっくっくっくっく・・・・・・どうされたんですか、戦人さま」
「いきなり、後ろから現れるな、驚かせ る  な  !!」
 声が途中で詰まる。
 違和感を受けて喉に手を当てたと同時に喉が熱くなってきて思わず膝をついた。
「おや、本当にいかがされたのですか」
 後ろからいきなり声をかけてきた片眼鏡をかけた優雅な仕草の紳士は、そんな戦人の様子をじっくりと見た後で、ちょこん、と首を横に傾げて聞いてきた。

『喉が、焼けているみたいだ』

 空気を求める魚のように、ゆっくりと口をぱくぱくぱくと動かす。
「戦人さま?」
 額を嫌な汗が流れる、流れた汗が目に染みて戦人は目を閉じた。
 ロノウェが膝をついて戦人に近づこうとしたので片手を大きく振って追い払う仕草をする。仕草をすると上から、ため息。
「ああ、なるほど」
 何か戦人の症状で思い当たる節でもあったのかロノウェは優しく戦人の背を摩り、ゆっくりと戦人の目が開かれるのを待った後で指をさした。
「お嬢様の怒りはまだおさまっていないようですね」
 その言葉に顔をあげる。ゲームの盤の横でケタケタと高笑いをあげながらぐりぐりと駒が潰している魔女の姿があった。

「・・・ぅぉおおおおお??!!ちょっ、ちょっ、あいつは何やってんだよ!!」
 戦人が慌てて魔女に近づき、魔女の体に触ろうとしたら通り抜けた。
「え」
 魔女をすり抜けた
 魔女は変わらずに駒を踏み潰し続けている。魔女に触れられない。
「なんだ、こりゃ・・・」
 返答を求めて悪魔に振り返ると悪魔は何処か穏やかな表情で、うっとりと魔女を眺めていた。
 普段の冷静な顔から少し想像がつかなかったその表情に戦人は困惑の顔をする。
「どう、思われますか、戦人さま」
「な・・・なにがだよ」
「実に楽しそうだと思いませんか」
 にこにこと、指を指す先には黄金の魔女の姿。
 ロノウェの先ほどの表情を、愛娘を見守る父親のような顔に似ている、と縁寿を見ていた留弗夫の顔を思い出しながら戦人は表現を当てはめた。
「楽しそう・・・・だな、確かに、俺の駒を甚振りながら」
 げっそりとした表情で告げた後で、戦人はとある事に気づき、不思議そうにロノウェを眺めた。
「そういえば、お前」
「はい、なんでしょう?戦人さま」
「スカートの中が見えるぐらいに足をあげて、品のない笑い声をあげているのに、注意しないのか」
「そうですね・・・・・楽しそうなお嬢様を見るのもまた一興ですが、お嬢様にしっかりとマナーを守って頂くのも、私の仕事ですね」
 ロノウェはゆっくりと微笑み、それからベアトにゆっくりと触れる。
 ベアトは肩にかけられた手を見て荒い息を吐きながらロノウェの顔を呆然と見た後で、ぐにゃりと表情を歪めて泣き笑いのような顔で戦人の駒を呼び指しながら何かよく分からない事を叫んでいる。
 言葉は分からないが、何か責められている、という事は分かった。
「・・・・というか、お前の声が聞こえるのに、どうしてベアトの声はわからないんだ?」
 そう戦人がぼそりと呟くと、ロノウェが優雅に微笑んだ。

「もうすぐゲームが始まるからですよ」









 船が岸についた、戦人の意識もゲーム盤の上に映される。淘汰される感覚に体は重く軋んだ。

 痛む頭を振り、額に手をあてた。
「あああぁあ・・・・・すげぇ速さの船だったぜ・・・まじ気分わりぃ・・・・」
 戦人は叫びつかれた後に顔を青くさせながら呟いた。六軒島に上陸したところだと認識する。

 その横を真里亞がきゃーきゃーと騒いでいる。
 どうせ自分の情けない声色を真似しているのだと、思ったのだが。
「・・・・・・・・・・・・真里亞?」
 どうにも、何か声が聞き取りづらい。真里亞は戦人を見て何度目かになるこの事態に対していつものようにじゃれつく。
 戦人の手を取り、そして、
「  あ     ぅ  あ  ぁ  あ」
 言語ともとれない鼓膜を震わすだけの振動音を唇から紡ぎ出した。
「ま・・・・・真里亞?」
 戦人が首を傾げる。それはなんの新しい遊びだ、と、聞こうとすると楼座が困った顔で近づいてきた。
 そして苦笑いを零して戦人に頭を下げて、真里亞と同様によく分からない振動音を口から零している。
「ぅ あ   あ  あ」
「・・・・え?何いっているんですか、楼座叔母さん・・・・・」
 その戦人の言葉に、驚いた顔をしたのは楼座だった。
 心配そうな顔を作り、ゆっくりと戦人の顔をのぞきこんでいた。
 そこで、奥で絵羽に呼ばれたのか、振り返って苦笑をして絵羽の方へとかけていった。


「く  ぅ く く」
「ぃ  い  え ぁ」

 その横を朱志香と譲治が会話をしながら歩いている。真里亞や楼座と同じように口からよく分からない振動音だけを零しながら。
 島に集まった戦人意外の親族達がみな、そうなっていた。理解できない言語とも呼べない音を口から零し続けるのみ。
 逆に戦人の声は聞こえていないらしい。慌てて話しかけても不思議そうに首を傾げられるだけだった。 



「なんだこれは!!!!」
 精神世界に意識を戻す。目を大きく開けて「おいベアト!!」と叫んだ。
 しかし、目の前にはチェス盤と空席のみでそこに座っているはずの女の姿はどこにもない。
 鼻腔を擽る甘いに匂いに戦人が振り向くと少し離れた所でロノウェが紅茶を煎れていた。
「メープルティーはお飲みになった事はございますか」
「いや、ない・・・・じゃなくて!!!あいつはどこにいるんだ!!」
「お嬢様なら席を外されていますよ」
 ロノウェがゆったりと告げて戦人の前に紅茶を出した。
 戦人はベアトリーチェを探そうと立ち上がったのだが、ジャラリ、と小さく鉄と鉄がすれ違う音が響いて、尚且つ足に重みを感じて目線を下に下げた。
 戦人の足は冷たく重い鉄の拘束具がついている。
「・・・・っな、なんだよ、これ。これはベアトについていたものだろう??なんで俺の足についているんだよ・・・・・」
「ぷっくっくっく・・・・・なんで、でしょうね」
 ロノウェは愉快そうに笑いながら戦人の横に立ち、「クッキーは如何されますか?」と優雅に微笑んだ。
 その後、ロノウェが部屋から立ち去り、一人残された戦人は勝手に進んでいくチェス盤を静かに見ている事しか出来なかった。
 言葉が通じない自分。言葉を理解できない自分。親族達が不思議そうに戦人を見ている。

「・・・くそ・・一体なんのつもりだよ。こんなの、勝負にもならないじゃねーか」
 第一の晩が迫っているというのに。縁寿に帰ると約束したのに。
 戦人が小さく毒づいていると、部屋の扉が開かれた。そこに立っているのはいつものドレスではなく、動きやすそうなベストとスカートを穿いた女の姿。
「おい・・・ベアトリーチェ」
 戦人が声をかけると、その白い喉が動き、薄桃色の唇が静かに開かれた。


「  ぁ    ぅ  あ  ぃ」


 ベアトはゆっくりと紡ぎ終える。
「お前もかよ・・・」
 うんざりとした声音で告げるとベアトリーチェはゆっくりと戦人に近づいてきた。
 拘束されて身動きがとれない戦人の膝の上を白い手が摩る。
「お、おい、」
 戦人が声をかけるがベアトリーチェは無言で首筋に触れる。そしてネクタイを掴みそれを持ち上げる。首が絞まり、頭が強制的に上を向く。ぐっと息を吸い込む暇なく、ベアトリーチェのヒールが戦人の膝を滑り、付け根をゆっくりと押した。
「・・・ちょっ!!!!お、おまえ、っ、」
 戦人が顔を赤くしてベアトリーチェを見る。ベアトリーチェは動きをやめない。ゆるゆると力をこめていき戦人の性感帯を刺激していく。戦人は息を少しずつ乱しながら俯いていく。
「ぁ     ぃ    ぅ  ぃ  あ   ぁ」
 喉が潰されたようなアヒルの鳴き声のような声。を出しながらベアトは反応をしだす下半身を見ている。
 戦人はイラつきから歯を食い縛った後で「いい加減にしろよ?!」と叫んだ。
 ベアトリーチェの動きが一瞬とまる。
「新しい趣向かなんかわからないけどよ、意味がわかんねーーんだよ?!話が進まない、酷く無意がない酷く無意味だ!時間の無駄なんだよ!!俺はまともな勝負がしたいんだ、お前にも承諾させたはずだ!俺にも、俺にだって縁寿がまっていてくれた。俺が此処をでる理由ができた、作ってくれた。だから、無駄はもう、無駄も悪趣味も許さねぇええ!!」
 息を荒くついて戦人はベアトリーチェを見る、ベアトリーチェは叫び終えた戦人を冷めた目で見ている。伸びた手はそれでもベルトにいき、丁寧に留め金を外してズボンを緩めだす。やめさせようとするが、手につけられた拘束具は机の上までしか届かず、ベアトの頭を押しどける距離にまでいかない。
 青い目が少し戦人を見たが、何かをしきりに訴えているその目が直視できずに逸らしたのは戦人だ。
 そんな戦人を見て開かれる口は相変わらず戦人が理解できない言語。動けない戦人を前にベアトリーチェは動きをやめない。脱がされたズボンが床に落ちる。
 先程まで刺激されていた戦人自身が少し立ち上がり下着越しからでもわかる膨らみに戦人は目を細める。
「おま、え、ほんとに、やめ、、」
 戦人がベアトの方を見ると、ベアトはゆっくりとした鈍い動作でシャツのボタンを外していた。ベストはいつの間にか下に落ちている。
「、べ・・・・ベアト・・・・・」
 戦人が言葉を発する前に、シャツから零れ落ちた露出した胸をゆっくりと戦人の胸板に下からすり合わせながらベアトリーチェは戦人の膝上に自分の膝を乗せる。
「・・・・・っひ、いっひっひ、ちょっと、さすがに、それは、サービス・・・・しすぎじゃ・・・・ねーのか???」
 引き攣った笑みで戦人が言う、ベアトは笑みすら浮かべずに彫刻のような無表情さで端麗な表情を崩さない。戦人の赤いシャツのボタンも一つ二つ外されていきお互い露出した肌の部分をベアトはすりよせた。乳白の白さ、柔らかい乳房に感触に戦人の理性はぐらつく。桃色の乳頭が摘み上げたように上を向いている。
 甘い匂いが鼻腔を擽り脳を麻痺させていく。抱きつかれて耳の裏を舐められて、見えたベアトの白い項に顔をうずめたくなった。
 男の性を此処まで恨んだ事もない。それに気がついたのか、ようやくベアトは口の端を吊り上げて笑った。
 短いスカートを捲り上げて立ち上がり立ち上がり始めている戦人のモノを手で摩り、ゆっくりと自分の下半身に押し当てる。グチュ、とすでに濡れていたそこからトロリと白濁が落ちていた。形のいい尻がゆっくりと戦人を呑み込んだ。
「・・・・っ・ぐ・・っ・・!!!!!!!」
 戦人は顔を上にあげ言葉を霧散させた。ベアトリーチェは表情を歪めた後で恍惚の笑みを漏らして、一度奥まで腰を下ろした。その後で咥えた存在を教え込むかのようにゆったりと腰を動かす、深く咥えた後で腰を浮かせてまた落とす。締め付けながらされる行為に戦人は目を見開き、今すぐにでもベアトリーチェに抱きつきたい衝撃にかられたが手も足も動かせずにただベアトが与える快楽に魘されるしかない。ベアトはそんな戦人の様子をおかしそうに笑った後で赤い舌で唇をねっとりとべろりと舐めた。
「  ぅ  あ  ぃ」
 現実に引き戻されるのはその潰れた音声を聞いたからだ。戦人は首を横にふる。
「の、・・・・喉を潰されたのは、お前や親族じゃなくて・・・・俺じゃないか」
 掠れた声で呟く。



「その通りだ、戦人」



 性交の途中だというのに少しも情が混ざっていない極めて冷静な声が落ちた。
 気がつけば、戦人の手は自由になっていたし、また、足枷もなく、座っているという事もない。ただ、乱れた服はそのままで、自分が今、貫いている女が魔女と名乗る極悪非道の化物である事だけかわりがなかった。
「ラムダ卿の怒りをかってしまい、椅子に縛り付けられて永遠に勝てないゲームをやらされているのは妾だ」
 やれやれ、とベアトはわざとらしい溜息をつく。きょとんとしている戦人を見る。ベアトは椅子に拘束されていた。戦人はその上に乗っかり、ベアトを犯している。
「あ、あれ」
 戦人が結合した下半身を見てゆっくりと言葉を落とす。
「そして喉が潰れて使えないのはそなただ」
 ベアトは声に笑いを含ませて告げた。
 その、とたん、戦人の喉は強烈に痛みを覚え、ひりつく熱と頭の芯がぶっとぶような痛みに戦人はベアトリーチェの上に倒れこんだ。
「っかは・・・・」
 ベアトは戦人のその様子を面白そうに眺めている。
「なぁに、全ては簡単なこと、そなたが認識すればいいだけの話なのだから」
 白濁を絡ませた金色の産毛を摩らせながらベアトは苦しみ呻いている戦人に口をつける。
 薄い唇と唇を触れ合わせただけのそれは今やっている行為に対して酷く幼稚で陳腐な行為な気がした。
 戦人は喉の痛みを無視して反論の声をあげようとしたが、 「ぁ  え ぁ」 と言葉は言語にならずに落ちただけだった。
 ベアトが下から体を動かして、ぐちゅぐちゅと泡だった音をさせた。
「そなたが其処にあるものを認識するからこそ、物は物の意味や存在を思い出し、その形を作る事が出来る。別にそなたに限った話でもない。物事、出来事においてもそれは誰であろうと同じであろう?今見ている現実を証明する手立ては何処にある。まるで生きる事の心配をせずに親に養ってもらっている子供が考えそうな事ではあるな。それでも此処で言う魔法とは思考遊びだ。つまりそういうものなのだからなぁ」
 そなたの妹だって使えたぞ?とベアトは呟き、戦人の腰を引き寄せた。
「だから、これが現実だ。わかるか、のう。戦人、妾はこんなにもそなたを受け入れてやっているのだ。全身をもって、な、健気じゃないか、」
「ひっ・・・は・・・っ」
「そなたの母のように、胎内に入れる事は無理でもこうやって内側へ混じり交わっておるのだぞ」
 膨張した自分の腹を優しそうに撫でながらベアトリーチェは恍惚に息を弾ませて笑った。
「だから、そなたも思い出せ、妾にそれに見合うだけの見返りを」
 戦人はベアトリーチェの声に答えるだけの余裕がない。ベアトは首をちょこんと横に傾けて不安そうな顔をする。
「それとも、母や妹の方がいいのか戦人??」
 ベアトの言葉に『なに』と声を落として顔をあげると両目いっぱいに会いたくて焦がれていた少女の顔がうつった。
 意思の強そうな自分と同じ色の目が戦人を見ていた。赤い髪の上で揺れる髪飾りに胸が焼け爛れそうになった。
「戦人、おにい、ちゃっ」
 掠れた声が紡ぐ自分と彼女の間柄を示す単語に、頭がどうにかなるのではないかと思った。慌てて身を離そうとすると妹が手を伸ばして抱きついてきた。鼻にかかる甘い声が耳に届いた。やめろ、やめろ、やめてくれ、と泣きそうな出ない声で懸命に叫ぶ。
「ん?どうした戦人、そんなに嬉しいか?妹の中は気持ちよいか???はっきり言わないと妾はわからないぞ???」
 いつの間にか横で膝を可愛らしく折り曲げてこちらをにこにこと見ている魔女。頬を手に当てて見物している。
「・・・やだ、なんで、おにいちゃ・・・・ッ」
 縁寿の混乱した顔が泣きそうに歪む。戦人は首を振る。違うんだ、何が、と聞かれれば答えられない。今、戦人の体は自由であるし、椅子に縛られて身動きがとれないのは縁寿である。
『いい加減にしてくれ!』
 戦人が目を細めて睨むと目の前の少女は魔女に戻っていた。
 ベアトリーチェはゆるりと腰を打ち付けてやり、限界に近い戦人に熱を己の中に吐き出させてやった。
 ぐったりとした戦人を両手で押しどける。ずるりずるりと自身を引き抜く戦人。ベアトは動けない我が身の腹を撫でながら満足そうに笑む。
「熱いの、そなたは」
『この・・・・!!強姦魔・・・・!!』
 出せない声で精一杯睨む。伝わったのだろうかベアトは鎖をつけた手をあげる。
「襲ったのはそなただ。妾はこの通り動けぬ」
「・・・・・・・・・・」
 何もいえない戦人に魔女は仕方なさそうに息をつく。
「戦人、では、頑な、そなたに妾がもっとも譲歩した一言をくれてやろう」
 ゆっくりと手を伸ばしてまだ近くにいる戦人を引き寄せる。耳元でふぅっと息を吹きかけた。

「私は貴方を愛しています。どうかお願いです、思い出せないというのなら代わりに貴方を下さい、貴方が傍にいれば私は永劫だって虚無だって何も恐れる必要も怯える必要もなく夜をすごせるのだから」

 戦人が目を見開き、ベアトリーチェを見るとベアトは泣きそうな顔でゆっくりと首を傾げる仕草をまた一つ行う。

「のぉ、戦人。あとは、妾は何をすればよい??」
 その言葉が愛しそうに、愛しそうに、そして最後の何かに縋るような声音だったため、
 


 戦人はなんだか無償に悲しくなってきた。  

 脱力しきった体で地面に座り込みつつ、動けないベアトにもたれこむ。
「だから・・・・・あああ、俺にどうしろっていうんだよ、」


 声は思ったよりも簡単に出た。喉が潰れた事など現実ではない、と静かに理解しただけの事であった。
 戦人は、ベアトリーチェにもたれつつ、その手にはしっかりと縁寿の髪ゴムが握られていたりするのだから、もう、どうしようもない、低く声を出してただ、自分を呪った。



帰りたい、
帰れない、
帰りたい、



でも、帰らない。







今夜貴方はラクダに会う。
ラクダのくせに、水を下さいと言う。
手元の水は自分の分も危ういというのに。









第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!