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●18禁
●留戦
どこにいくんだろう。
幼い時に手をひかれて少し早足で歩く親の背中はどこか見知らぬ他人のようで怖かった。いつもはなんだかんだ言ってこちらにあわせてくれる歩調なのに。その時は身勝手で、こちらが何度も転びそうになっているというのにお構いなし。黙々とただ手を引張られて歩いた。
「なぁ」「おい」「どこに」「聞いてるのかよ」
親父、と戦人は不安そうに声を出した。
さぁ、最初で最後の復讐のはじまりだ。
「戦人兄さん、」
腹違いの妹の声が自分の名前を呼ぶ。
ぼーっとしていた戦人はそちらに顔を向けた。幼い妹の顔を見ていると自然と頬が緩んだ。
「そういえば最近、お兄ちゃんって言ってくれなくなったな、縁寿」
聞けば縁寿は少し沈んだ顔をした。
「クラスの子がお兄ちゃんって言い方は子供っぽいって言ってたから」
「いっひっひ、そっかそっか、縁寿ももう小学生だもんな。もう立派なレディーってわけか」
戦人は口の端を吊り上げてにやにやと笑った。
縁寿がその戦人の顔を見て自分がからかわれているのだと悟ったのだろう、ぽかりと戦人の足を叩いた。
戦人は笑いながら縁寿を宥めようとした、その時に、ぽつり、と再び雨が降りはじめた。
「縁寿、スベリ台下に避難だ!」
手を引いて慌ててスベリ台の下まで駆け込む。
二人がスベリ台の下に入ったと同時に雨は勢いをました。
「雨、すごいね」
「・・・・ああ」
暫く、地面に雨が落ちる様を見ていた。
外には誰もいない。雨音が全ての音を吸い込んでしまい灰色の空のもと静寂が訪れていた。戦人は縁寿を冷やさないようと引き寄せた。僅かに湿った縁寿の髪に手を絡ませて頭をゆっくりと撫でると霧江がつけていた控えめだか上品な香水の匂いが鼻腔を擽った。
雨の音の中、戦人は、昔、子供の頃に絵羽と父から聞いた六軒島の森に住む魔女の話を思い出していた。
気候が乱れやすい時期に親族会議は行われていたので数年に一度はこのような大雨に見舞われたのを覚えている。
窓から写りこむ森のシルエットはどれも不気味で雷がちかちかと遠く方で海に落ちる様は綺麗だったけど怖かった。
そんな時に限って絵羽と留弗夫の二人は森の魔女の話をしたものだから、森の魔女を思い出すのと同時に窓枠を叩く強い風の音と木々のざわめき雷音が共に蘇る。
ついでに朱志香と一緒に丸くなって震えた記憶も。今考えれば朱志香はあそこに住んでいたのだから自分が日常に戻ってもあの非現実離れした空間で怯えていたのではないだろうか。
「あなた、絵羽姉さん、二人とも戦人も朱志香ちゃんも本気で怖がっているから、その辺で・・・・・」
宥めるような声と困ったような笑顔。
ああ。そうだ、あの時はおふくろもあそこにいた。
だから、恐ろしい魔女の話を終わらせるのはいつもおふくろの役目だった。悪い魔女を退治してくれたのはおふくろってわけか。愛されてた。可愛がられていた。厳しい所もあったけど、あの人は。
「・・・お兄ちゃん?どうしたの」
戦人は縁寿の声ではっと我に返った。
「あ、わりぃ。ちょっとぼーっとしてたみたいだ」
心配そうにこちらを見る縁寿の頭を撫でた。子供の頃に父親に抱きついた時に漂っていた匂いと同じだと、今更ながら気づいて苦笑した。
暫く雨宿りをしていると霧江が傘を二本持ってやってきた。
時間的に軽くお茶を飲んで話しただけだろうが留弗夫も久しぶりに霧江に会えてよかっただろう、と戦人は思った。
霧江は一本傘を渡して縁寿と二人で傘に入り、戦人に礼を言った。そのまま二人とはそこで別れた。
縁寿が最後まで振り続ける手に最後まで答えていた。
さて、適当に時間でも潰して帰るかな、などと思っていたらその帰り道に留弗夫にあった。
霧江の送り迎えにでも来ていたのだろうか。ぼんやりと思いながら声をかけると肩をあげて留弗夫は戦人の姿に驚いた。
「お前こんなところにいたのか??」
「いたら悪いのかよ?・・・・さっさと帰ろうぜ」
そういえば、俺、こいつと険悪なムードになっていたんだっけ?
などと思い返しながらも二人で並んで歩き出す。
「そういえば、霧江さんとどうだった?」
留弗夫の動きが僅かだが止まった。
「折角、人が気をきかせて二人っきりにさせてやったんだから感謝しろよ」
くだらなさそうに呟きながら戦人は欠伸を噛み殺した。
「・・・お前、霧江がいるって・・・知ってたのか」
「?知ってる何も、出る前に擦れ違ったし。縁寿の面倒見てたの俺だぜ??」
まぁ、むさ苦しい親父様とよりも可愛い妹と一緒にいる方が数倍、有意義だったけどな、と戦人は笑った。
留弗夫からの返事はない。
戦人は不思議に思い、傘の隙間から留弗夫を見る。雨音は相変わらず激しい。
「親父?」
どうしたのだろう?霧江から何か言われてしまったのだろうか、この甲斐性なしは。などと思いながら留弗夫に近づく。留弗夫はゆっくりと顔をあげて、戦人の腕を掴んだ。
傘が、地面に落ちた。
「・・・・・・・お前、なんとも思わないのか?」
声が、低い。
戦人には、その目が怖い。
背筋を少し震わせながら手を振り払い、距離をとる。
「何がだよ」
怒っているのか?
ならば、検討がつかない。久方ぶりに霧江に会えて嬉しかっただろうに。何を怒っているというのだ。戦人はただ、混乱した。
「お前、俺の事が好きだって言ったよな」
「え、はぁ?・・・・・ああ、言ったけど」
「俺は、霧江と会ってたんだぞ」
「だから知ってるって言ってるだろう、」
一歩、距離を置く。留弗夫の顔がこちらを責めるようで怖いと思った。
「・・・その顔、やめろよ」
苦笑いで問いかけるが留弗夫は表情を崩さない。再び戦人の手を掴んだ。
「俺は、霧江が好きだ。あいつは最高にいい女だよ。俺のことを理解してるし賢いし、俺の支えになってくれている」
「なんだ、自慢かよ?そりゃあの人はあんたには勿体無いって事ぐらいしってる・・・・・・・あ」
戦人はそこで留弗夫が怒っている理由に検討がついた。
留弗夫は呆れたように息を吐き出した。
「お前は俺のことが好きなんだろう?」
戦人はそこで答えにつまってしまった。
流石にこのやりとりの内容に戦人も留弗夫が何を促しているのか分かっている。
この男は、なぜ自分が怒っていないのか、それを聞きたいのだ。
嫉妬してほしい、と、いうのはおかしいと思うが。
好きだという言葉の証明を見せろといわれているわけか。
自分が出すべき答えは簡単だ。
好きだから、と言えばいいらしい。
霧江と留弗夫が一緒にいたことに対して、僅かでも不機嫌そうな顔をすればよかったのだ。
自分がとった行動は少し、おかしい。
だけど、仕方がない。これは全て本心なのだから。
戦人が次に出す言葉が出てこなかったために、いつまでも無言だった。
雨の音だけがやたら耳につく。
留弗夫はやがて決心したように戦人の手をひいたままゆっくりと歩き出した。
アパートとは逆の方向だ。
どこにいくんだろう。
少し早足で歩く親の背中はどこか見知らぬ他人のようで怖かった。いつもはなんだかんだ言ってこちらにあわせてくれる歩調なのに。その時は身勝手で、こちらが何度も転びそうになっているというのにお構いなし。黙々とただ手を引張られて歩いた。
「なぁ」「おい」「どこに」「聞いてるのかよ」
親父、と戦人は不安そうに声を出した。
暫く歩き、足が止まった場所に、戦人はぞっとした。
建物の入り口付近の照明は暗く、その正面には壁や植木などで目隠しされている。安そうな薄汚れたホテルだ。店の前に掲げられた看板からそこが用途に使われるだけの場所だと一目でわかった。
「・・・ッ、な、、ちょっと・・・、親父」
目を丸くして驚いている戦人の手を引いてそのまま中に連れ込まれる。
小さな窓口にそのまま料金を置いて留弗夫は中に入った。
男二人で、顔は似ていないが背丈や一部分や、親子である事は分かるかもしれない。戦人は死にたくなる心境で手を引かれる、顔を隠したかった、知り合いがもし近くを通っていたらどうしよう、あの窓口からこちらの顔は見えるのだろうか、ぐるぐると思考が渦巻く。
そのまま部屋に連れ込まれた。
ベッドの上に突き飛ばされた。
久方ぶりのベッドの感触だというのに、頭の中は真っ白。
、古びたスプリングが軋む音と外からの激しい雨音だけが混乱を埋めていく。
「好きだったら・・・・・・抵抗できねーよなぁ・・・・ああ?戦人」
じめじめとした空気はあのアパートと変わりなく、泥の中にいるような不快な空気は肌につく。そんな中でピリピリと静電気のように絡みつく視線に心底吐き気がした。
留弗夫の手が伸びた。
もう、あんなことあるわけがない。身を硬くする。
『だって、ただ・・・・・だから、明らかに、あれは』
やりすぎだった、
考えながらも抵抗が頭に思い浮かばない。
どうしようもない、と目を閉じた時に留弗夫の手が体のどこにも触れられずに、自分の頭を抱え込んだのが分かった。
「・・・・・・・・・・親父?」
戦人が混乱した声で父の名前を呼んだ。その時、僅かにその手が震えているような気がしたのは、流石に気のせいだ。
その後にすぐに離れてその手が服を脱がしにかかる。
濡れて体に張り付いたシャツを脱がされて裸体に手が這う。背筋が震える。脳がようやく動き出して、純粋に嫌だという感情がわいてでた。
「やめろって!!!もう、こんなことあるわけないって言っただろう??!!普通、考えられねぇだろうが??!!」
その体を突き飛ばそうとしたが体格も力もまだ親の方が強いのだ。押さえ込まれる。代わりに戦人は留弗夫を睨む。
「てめぇ、おかしいんだよ!!普通少しは躊躇らうだろうが??!!実の子供に、しかも息子相手に何で起つんだよ??!!」
叫びながら暴れる、ベッドのスプリングがぎぃぎぃと男二人の体重に耐えかねて悲鳴をあげている。手が留弗夫の顎下に入る。流石に痛かったのか顔を顰めながら、留弗夫は戦人の前髪を強く掴み、ベッドに押し付ける。
「戦人、」
と、名前を呼ばれたら体から力が抜けて抵抗が出来なくなる。
あ、と過呼吸の患者のようにぜーっと涙目で息を吐いた。目の前が暗くなる。
なんの、呪いだ。
戦人は自分を罵った。そんな自分を見透かした上でそういう行動に出る留弗夫を恨んだ。
知ってる。この男に常識などないのだ。
偉大なる右代宮家の頂点にたつ祖父様がどのような曲がった教育をこの男や他の兄弟たちにしてきたか、それは幼かった戦人でさえ伝わってくるほどに。自分の母に対する仕打ちや、親族同士の争い。その隙間からいくらでも見えた。
そう、この男の神経は少しおかしいのだ。どんなに普通を繕おうとも。
母が死んでも、自分の人生であった会社が潰れても、霧江や縁寿が出て行っても、
この男は
泣きも悲しんでもなかったじゃないか。
強く、感情を揺さぶられた事すらなかったんだろう、今をのけて。
留弗夫はズボンを緩めてそこから手を入れて陰毛を指に絡めて引張る。
戦人がびくりと体を浮かせると、もう片方の手をその背中の隙間にいれて腰を抱きかかえた。
「離せ、よ・・・・・・ちくしょー・・・、、」
消え入りそうな声で呟くと、一瞬手の動きが止まったが、すぐにまた、再開された。
しつこいぐらいに中をホテルの備え付けのローションなどで掻き混ぜられて何度目かになるという異物に窪を押し広げられる苦痛を味わう。
こればかりは慣れるものではなかった。
体全体で違和感を受け入れながら涙目で首を振る。
白く染まっていく視界に脳が勝手に数回の経験からそれがいつかしか快楽に変わるのだと思い出させて嫌悪と正常な思考を殺していく。
かわりに、自ら腰を振るなどと自分のプライドを打ち壊す行為をさせる。
陸に打ち上げられた魚のような呼吸を繰り返しながらぐいぐいと自分の中で質量を増す男の感触を受けた。
「痛・・・・っ・・っつ・・・ぁっ・・親父・・・・」
目を細めて声を出した。その後で留弗夫が腹部に付着した精液を塗りたくり、再び腰を押し付ける。
「うっ・・・ひっ・・・・ぐっ・・・・」
そのうち、内壁が緩んできたのか、律動とした動きに変わり、スムーズに出し入れが出来るようなってくると向こうのペースで動かされた。
結合部分からはぐちゃぐちゃと白い泡が伝い落ちているのが見えた。
「いっ・・あっ・・・」
そのうち、頭の中は何も考えられなくなってきて、
感情も道徳もプライドも過去も今もぐっちゃぐっちゃになって体と脳髄を一緒にかきまぜられた。
体から体内器官を引張られるような気持ち悪さと心地よさと異様な熱を感じる体。犯されながら耳元で何度も聞く自分の名前と共に戦人はゆっくりと意識を手放した。
その間が、僅か数分だったのか、それとも数時間はたったのか、
意識を取り戻した戦人に時間の経過は分からなかった。
わからなかったが、意識を失う前と変わらない立ち居地で怖い顔で留弗夫が戦人を見ているのには気がついた。
『あーーーーあーーーーー・・・・・・・・・ざまーねぇなぁ。泣きも悲しみもしなかった、少し感情が可笑しい右代宮の次男様が、なんて顔で俺なんかをみてやがる』
父がそのような顔をしているのを初めて見たな。などと思うとおかしかった。
「・・・・質問を変えるぞ?」
留弗夫の口が開いた。
「お前、なんで俺の所に残ったんだ」
留弗夫が、あのアパートに身を寄せると決めた時に、なぜ、今まで一緒に過ごした事もなかった父親の元に帰ったのか。
その真意は?
好きだから?
あんたを一人にしておけないと思ったから?
そんなわけねーーーーーよ。
ばーーーーーか。
「おふくろ、かあさんが」
長年の復讐をはたす時だと思った。しかし、それは勿論、自分の復讐などではない。可哀想に、あの薄暗い病室で一人の男を思って死んだ可哀想な女の復讐だ。
「母さんが、あんたと生きろってあんたと傍にいろって、母さんが最後にそう言ったから」
だから、きっとこれは、俺の感情じゃなかった。
最初から、右代宮明日夢の遺言なんだから。
戦人は言い終えた後に留弗夫の顔を見て笑ってみせた。
「・・・・だから、俺はお前、なんて、好きでもなんでもねーよ」
だから、最初から言っただろう?
『俺が必要だってわからせてやるんだよ』って。
「俺だけを見てくれてありがとう、親父」
くだらない事でそんなに腹を立てるほど、自分が留弗夫にとって大事な存在になれたのだな、と思うと戦人は嬉しくてたまらなかった。
体を起こして笑う、また戦人は笑う。
「あんたが、今度はちゃんと悲しんで苦しんでくれる事だけを願ってたよ、あんたの世話をしてたのも、あんたを見下したかっただけだ」
息をしっかりと吸い込んだ。最後に残ったのが自分なら、それを取り上げてやろうと思った。この男に残るものなんて何もあっていいはずがないのだから。
「そう、俺はただ、あんたに苦しんでほしかったんだよ、親父」
笑いながら戦人は留弗夫を見下ろす。留弗夫の表情は見えなかった。
くれてやる視線は心底嫌悪の混じったものだった。
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