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●宮牧
●温く大人向け。
●だらだらと続く長い話。
●男二人がすきすきいいあっているだけの話しです。











『  きぶんが たいへん   よろしくない。

 服を着替えながら宮田は荒い息を数回繰り返した。

 手の甲でぬるぬるを拭き取る。この液体は出た瞬間はさらさらなのに、おくのものはぬるぬるどろどろしている。
 びくん、と物体がはねた。驚いてそちらの方向をみたがびくびくんと大きく激しく動いた後にくたーっと動かなくなったので「痙攣」と呟いて宮田は項垂れた。
 ぐちゃーとなった物体に目を向けることなかれ。
 宮田は荒い息を数回繰り返して呼吸を整えた。
 すっかりと、てなれたさぎょう、一回目よりは二回目、二回目よりは三回目。やりかたもコツもわかってきたそうです。
 薄暗い室内の中、ふ、っと見上げた窓から見える景色はどこまでも快晴で、空は高くて高くて高くて高くて高くて高くて高くて気候は気持ちよくて』

 



 あ あぁ

ぁ   あ  


 ぁ  

 唯一見える高い位置にある窓の景色が風を運びその風に若干の涼しさが混じっていたので牧野は夏の終わりを知った。
 苦しみから歯を食い縛り浮くような熱に身体を預けながら自分と同じ体格の男のシャツを掴んで其処に爪をたてた。
 自分を組み敷いて、酷く音が響く地下牢の中の軋む硬いベッドを揺らす男を随分と間近で見た。
「み、やた   さ」
 意識が混濁、重い、痛い、気持ちいい、脳髄がぐにゃぐにゃにと熱で溶解していき溶けていくような気分。

『ああ、なんだって私は、』


 流れた汗が目に入って染みて牧野はぼろぼろと涙と一緒に声を空中に出した。
 もう、自分の事しか考えれない。悲しい、悲しい。

『なんだって、私はこの人の事がこんなに好きなんだろう』













最近、宮田さんが柔らかい。

 物理的な話しではない。勿論態度の話しだ。
 以前は神代の使いだけ済ませたらさっさと帰るような男だったというのに今は世間話の一つ二つをして帰ったりする。
 村内で擦れ違えば他人行儀な礼で頭を下げてあの臓腑が凍るような冷たい目と声でぼそりぼそりと挨拶を返していたのに、今では「ああ、牧野さん、今日はいい天気ですね

」などと言って柔らかく小さくだが笑うのだ。別に明るくなったというわけではない、ただ、穏やかになった、と思う。
 こちらを見る目が酷く優しいものなのだ。
『春みたい、暖かい、嬉しい嬉しい』

 牧野はそう考えながら視線を飲んでいた珈琲から、ちらりと宮田の顔を盗み見るかのように向ける。
 その視線に気がついたのか宮田は少し眉を寄せて「何か?」とぶっきらぼうに言葉を落とす。
「え、いえ・・・・・その」
 ウロウロと視線を泳がす牧野に、宮田は苦笑した。
「貴方は別に何も悪い事をしているわけじゃないのだから・・・いちいち怯えなくてもいいんですよ。私がこういう言い方しか出来ない人間なので」
 そう言い自分の手元の珈琲を飲んでいる。飲んだ後に机の上にあった灰皿を持ってくるくると回し始めた。煙草、吸うのだろうか。彼が吸っているところは見た事がないが


「それで、どうしたのですか」
「いえ・・・・最近の貴方は・・・・・優しいなぁと」
「はぁ・・・・?」
 気のない返事だ。しかし表情はぽかんと口を開けてどこかあどけない。牧野は思わずクスクスと笑ってしまった。
「ここ数十年が嘘のようです。貴方の目が私をしっかりと見てくれているからでしょうか」 
「ああ・・・・それは」
 宮田は手遊びを続けながら、牧野に似た笑みを零した。

「俺が貴方を好きになったからじゃないでしょうか」
「それは、嬉しいです」

 牧野は照れくさそうに微笑んだ。
 宮田も微笑む。

「ああ、好きでは捉えようがいくらでもありましたね。訂正します、俺が貴方を愛したからでしょうか」
 その言葉に牧野はきょとんとした顔を作った。
 作った後に笑顔のままで「家族愛、ですよね?」首を横に傾けて聞いてみる。宮田も同じような笑顔で「愛慕、ですよ?」と同じ仕草で首を横に傾けた。
「貴方と交わりたい」
 柔らかい笑顔でゆっくりと告げられる。

「私、貴方と兄弟です」「そうです ね」「私、貴方と同じ顔をしています」「そうです ね」「性格は違いますけど」「そうです ね」



少し間を持つ。


「それに・・・・・私は貴方に恨まれているはずだ」




「そうです ね」
 宮田は笑顔で先程から持っていた硝子製の灰皿をぐっと力を入れて持ち直してから牧野の頭に振り落とした。
 鈍い音が頭蓋骨に響いた。







『その物体の家の黒電話でぎょーむ連絡を終えた宮田はそのまま蛇口に直行。ばしょばっしゃとお湯を撒き散らしながら手と顔を洗う


ちなまぐさい        』





 かちゃり、かちゃりと金属の食器が重なりあわせながら宮田は階段を下りていた。
 食事を載せたトレイを狭い隙間から入れる。
 その音に中にいる牧野がぴくりと痙攣した。
 宮田は緩みそうになる頬を手で頬杖を付くふりをしながら必死で隠していた。
 病院の地下室、異形の化物になった村人を秘密裏に隔離する、そんな場所。
 その地下牢の一つにあの日訪れた時の求道服を着たままの牧野が横たわっていた。
 牧野は上半身をゆるゆるとあげる。

「・み・・・・・宮田さん」
 呟いた声はかすれていて頬はこけていた。暫くまともな食事を与えていないので当り前だろう。
「はい、なんですか、牧野さん」
 ゆったり。余裕のある笑みで優しく問い掛ける。牧野は睨みつける。
「出して・・・下さい、こんな事・・・・なんで」
 声が震えている。ぐったりとした牧野はそれでも檻に縋りつき宮田を見上げて乞う。
「愛しているからです」
 にっこりと笑う宮田を見て牧野は言葉を失った後で「あなた、可笑しいじゃないですか」と呟いた。
 宮田はにっこりと笑って「正解です」と答えた。
 そして、まだ手についていなかった盆を下げてしまう。

「今日で三日です、牧野さん。食事はとらないと」
 宮田は声に出さずにケラケラと肩を揺らして笑いながら少し離れた所で、牧野が再び意識を失うまでずっと、ずっと笑みを浮かべながら牧野を見ていた。




『 綺麗に着替えて、香水をつける。いぜん、働いている看護婦が「先生はいいにおいがしますね」なんていったが、匂いを拭うためだけだ。
 人はものすごい匂いがする。中々とれない。 
 皮膚と肉で、匂いが漏れないように蓋をしているだけなんだと宮田は思う。準備を終えた宮田はゆっくりと何知らず顔で家を出た。
 教会への用事を思い出したのは、自宅へ帰ってからだった』






「食べます、食べたいです、食べさせて下さい」

 牧野が震える声でそう告げたのはそれからさらに2日たってからだった。水は与えておいたし、簡単なスープなら与えていたが。流石に限界だったのかなぁ
 などと思いながら宮田は「わかりました」と呟いた。
 宮田は牢屋の鍵をがちゃがちゃと開ける。出して貰えるのだろうか?と疑問を含んだ目と目があう。それを打ち砕くように宮田は自分も中に入るとすぐさま鍵を閉めてしめた。
 そして横たわる牧野の横に立つ。細くなった腕を強引に掴んだ。
「な・・・・・なに・・を」
 目を細めて牧野が苦しそうに呟いたので力をこめて、そのまま冷たい床の上に押し倒した。
 背中を転がし、その上に馬乗りになった。
「・・っ」
 床には布切れしか置いていない。この上で何日も過ごしたのだ、身体は当然、悲鳴をあげる。
「牧野さん、貴方は食事をする前に、対価を支払わないといけない」
「た・・・・・対価?」
「黙っていても食事が運ばれるのは、子供のうちだけですよ」
 そう、宮田は呟いて、牧野の髪を掴み、冷たい床の上に叩きつけた。
「・・・・っぁ」
「なに、役立たずの貴方に多くは望みません、ただ、このまま横になっていて下さい」 宮田は優しく耳元で語りかけると牧野の修道服の隙間から手を伸ばした。
「え・・ぁ・・・」
 ゆっくりと手が肌を這う。片方の手が腹筋や胸板をゆっくりと擦った、かと思うと爪を立てられ、牧野は引き攣った悲鳴をあげた。立てられた爪のままで下に下ろされる。
「い・・・ぃ・っ!!!!!!!」
 引っ掻かれた部分の肌が熱い、牧野がじわりと滲んだ痛みに対して口を開く前に宮田の手は下半身に伸びる。
「・・・・ぇ、????ぁ???」
 牧野は、揉まれ愛撫される身体に戸惑いを感じ、宮田を見る。
「あなた、何を・・・考えているんですか・・・・!!!」
 牧野は乾いた唇から掠れた声を出す。宮田は優しく牧野の耳たぶを噛み、息を吹きかけながら囁いた。


「牧野さん、だからいったでしょう。俺は貴方と交わりたい・・・・と」

 牧野の目が大きく開く。
 力なく逃れようとするのだが、身体を身体で縫いとめられて、上にのし掛かられていて、身を返すことももうすでに出来ない状態だった。
「やっ・・・ぁ・・・はっ・・・・あぁ」
 ぐったりと朦朧と霞んでいる瞳など気にもせずに宮田は牧野の身体を蹂躙する。

「私は、聖職者として!!貴方の身内として!!こ・・・・このような行いは・・・っ」
 
 身体を捩りながら必死に訴える牧野を見て宮田は喉奥で笑った。
「聖職者・・・・ですか。しかし、ほら、貴方の神様は貴方を助けてくれませんね」
 宮田の手は下着の中に入り込み、まだ項垂れたままのそれを軽く扱きはじめる。硬直こそしていないものの、熱を帯びてきている。
「・・・・まぁ、この村の神様なら俺にとっても信仰すべき神ではあるんですがね」宮田はそう淡々と呟きながら手を動かしはじめる。
 少しずつ固くなり、粘着質な水音をたてはじめるそれにたいして、必死に声を抑えようとしつつそれが出来ずによがる牧野の顔を見る。
 その様に、自らの背骨の奥に重みをおびて、下半身に熱が篭ってくるのが宮田にはわかった。
「ふだん、」
「・・ぇ・・や・・・」
「普段、の教会にたつ貴方の姿を見ている連中に見せてあげたいぐらい、いい表情をしていますよ」
「・・・・・っっ!!!!!」
 牧野が抗議をしようと口をあけたが、喘ぎ声を止めようと口を閉じているため、言葉にならないのだろう。
 普段、本人でさえあまり触らないであろうそこは、それでも身体は成人男性のものなのだ、感じないはずがない。
 手の中にものはもう随分と固くなってきている。
 親指で先端を引っ掻いた。牧野は悲鳴をあげた。そのあと執拗に脇や村板を弄くったあとに。舌で丁寧に舐め上げた。

「なっ・・ぁっ・・ん・で・・っ・・ こんな っ・・・わたしはっ」

 ぼろぼろと嗚咽に混ざって声が出る頃には先端から白濁が溢れていたので先端を宮田は指でくびれを押さえた。

喉奥でくっくと笑う。
 半脱ぎになっていた下半身のズボンを一気に下着ごと下ろされる、
 外気に肌がふれて、牧野はびくりとその温度差に戸惑った。

 腰を高く抱え上げ、自分の前に臀部をさらけだすような格好にさせる。
 指を奥深くに突っ込む。
「ぁ・・・っひ・・・っ」
 牧野のもので濡れた手で、指先でぬちゅ、と卑猥な音を立てさせながら、奥に入れたりひっこめたり、指の数をふやしたり、中でばらばらな動きをさせたり、牧野ががたが

たと足を揺らして耐え切れず床にへばりついて。。
「いた・・・ぁっ・・・〜・・・やめ・・・お願いです・・宮田さ・・・ん・・・・・」
 ぼろぼろと大粒の涙を流しながら、啜り泣き。力なく言うその声に、嗜虐心が擽られた。
 足を大きく広げ、指を抜き、代わりに自分をあてがる。
 体重をかけて、まだ十分とは言い難いそこに先端をめりこませる。
「ぁ  あ !!!  ぁ あああああ!!!」
 喉奥から引き攣った悲鳴がもれていく。
「牧野さん、大好きです、愛してます、心のそこから」
「はぁ、・・・・ぁ・・・ッッ・・!」
 先端のふくれた部分までめりこませて、きつい痛みとともに宮田は舌で唇を舐めて熱に浮かされながら牧野にそう、優しくつげた。
「ふっ・・!!・・ぁ・・・・っっ・・っ!!!」
 牧野が目からぼろぼろと涙を零しながら首を振るので宮田は身を乗り出して、奥に入れ込んだ自身を、牧野の腹の上から膨らんだそこをゆっくりと撫でた。

「ほら、牧野さん、分かりますか、俺のものが、あなたの中に」
 熱に浮かされたようなそんな声音で優しく囁かれる。牧野は整わない呼吸と意識の中で指差される部分に目を向けて、そして限りない羞恥に顔を青くさせた。
 いやだいやだ、と顔を左右に振ると宮田は牧野にゆっくりと顔を近づけて「これ以上を俺を拒絶しないで下さい」と呟きそのまま更に最奥まで減りこませていった。



 後は快楽を貪るだけで。









『 夕暮  夕暮  夕暮   村人達が遠くで宮田の話しをしているのがわかったが特に気にはしない。 車をのんびりと走らせる。
 ハンドルを切りながらぼんやりと今日の夕飯を何にしようかと思う。
 最近、よく食べ忘れている。人間は必要ないものから忘れていくというが、

宮田司郎にとって生き物が生命活動を維持する為に必要となってくる食事という行為は優先されるべき行為ではないらしい



 では、俺にとって生きるという事の意義は???
 なんの為にここにいる?なんの為に生きている??』






「牧野さん、、ほら」
 ぐちゃぐちゃと精液塗れになっている牧野はそれでも上半身を起こして虚ろな目で口を開けていた。 
「ほら、食事ですよ、牧野さん」
 優しく湿った黒い髪を手に絡めて額に口付けを落とす。
 長いスプーンにぬかるんだ米をのせて鉄牢の隙間から伸ばしてやる。
 牧野は暫く俯いていたがやがて、首を伸ばしてカタカタと身体を震わせながら唇を近づけて赤い舌を出してちろちろとゆっくりと食べる。
「暫く何も胃袋に入れてないですからね、いきなり固形物を入れたらもどしてしまいますから、今はこれで我慢してください」
 宮田は静かに告げた後に鉄格子越しで牧野の額に口をつけた。



 教会の前で車を止めた。 誰もがいつでも入っていいように。
 教会の扉は大きく開放されていた。

 無用心だな、なんと思いながら足を踏み込む。その奥にはあの男がいた。
 こちらに気がついて、男はおどっとした顔をしたあとで、』





「も・・・・やです、」
 何度目になる食事を前に牧野は力なく首を横に振った。顔は項垂らせているため宮田にはその表情は見えない。
 
「ああ、じゃあいらないのですか、食事」
 牧野は答えない。宮田は溜息をつく。仕方なく机の上に置いたカルテに目を通しはじめる。
「牧野さんも俺を好きになればいいのに」
 ぼそりと落とされた言葉に牧野は口と目を大きくあけて金魚のようにパクパクさせた後に彼にしてはきつい目つきで宮田を思いっきり睨んだ。
「こんな事をされて、、、、好きになど、なるわけが」
「早く俺を好きになったらいいんですよ、牧野さん」
 カルテを捲りながらぼんやりと呟かれた。
「そうすれば、全て解決するじゃないですか」

 不思議そうに宮田は首を傾けた。




ゆっくりとごちゃごちゃになっている頭で牧野は深い、息をついた。
 牧野は胸が焼け爛れそうな思いで消化不良の自分の気持ちを押し殺す。

 宮田はカルテから顔を上げて牧野をみる。
「・・・たとえ、私が貴方の事を好きになっても」 
 牧野はゆっくりと鉄格子に近づく。
「でも、ですね。私が貴方を好きになっても、貴方は私を好きにはならないでしょう?」
 寂しそうに告げられた言葉にゆっくりと首を横にふる。
「?こんなに貴方を好きと言っているじゃないですか」
「気づいてください、それは勘違いです」
 牧野は目に涙を貯めて呟いた。
「貴方は私を憎んでいるだけだ、だって、そうじゃないですか。あなたが私を好きになる理由など何処にもない。私は貴方に恨まれて当然の人間だ」
 ゆっくりと吐き出す。ふ、と顔をあげると宮田が顔を歪ませていた。

「俺の言葉が信じられないと、」
「だって、貴方は・・・・・私を恨んでいる」
「・・・・・否定はしませんが、」
「私は悪くないのに。貴方が勝手に私を恨んでいる」
「それも含めて貴方が好きだと、」
「好きになどなるわけがない、私一人貴方が好きなんだ。私一人貴方を思っている。私が可哀想だ」
「・・・・・・牧野さん」
 牧野はゆっくりと顔を上げて宮田を見る。

『だって、今までだってこの人は檻の外から、私を見物していた。可哀想に可哀想に、本来自由に野を歩き回れる動物なのにと、自由を奪われて可哀想にと、でも同情して檻を開けて二度と私が逃げて帰ってこなかったら本当に自分が一人になってしまうから決して檻の蓋には手を出さないんだ
  そんなの!愛しているとか好きだとか言えますか、貴方は結局のところ自分が好きなだけだ』

 哀れみと侮蔑の意味を含めて。その視線を感じて、宮田もゆっくりと牧野を見た。

『今までだってこの人は檻の外から、安全な位置と其処を知りつつ俺を鎖に繋いで見物しいた。可哀想に、可哀想に、あんな鎖で紡がれて可哀想にと、でも自分が食べられるのが嫌だから決して檻に近づいてもその手綱を切ろうとはしない
 そんなの!好きになったなど言えるか。この男は結局のところ自分が好きなだけだ』




『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この卑怯者』』


 宮田も牧野も静かに心の中でそう思いお互い鉄格子の向こうでまさに自分と同じ顔、同じ表情を作っている男の事を冷たい目で同時に罵った。
 




 その日の夜に、牧野は解放された。
 と、いうよりも車の中に押し込められて教会の前で蹴り下ろされた。

『・・・・・・・・・なんて勝手な男だろうか』

 去っていく車を遠くで眺めながら牧野は弱りきった身体を起こしてぼんやりと思った。
 
「ただいま、八尾さん」
 八尾は驚いた顔をして牧野に今まで何処にいたのかとか、色々聞いてきたが
「夏風邪をこじらせて、入院していたのです」
 適当な嘘をついて彼女に心配をかけまいと微笑む。
 そして暫く考えた後で、
「・・・・その、もう少し入院が必要だといわれたので服をまとめにきました、今度は近いうちには帰ってきますから」

 心配しないで下さいね、と牧野は苦笑した。




 宮田は空っぽになった牢屋の前にある机でうつ伏せになり眠っていたのだが、足音が聞こえて薄目だけ開けた。
 ボストンバックを携えて、勝手に牢屋の中に入りこみ寝息を立てずに静かに眠っている。
『馬鹿、なんじゃないだろうか』
 宮田はぼんやりと思う。
『本当に、この人は馬鹿なんじゃないだろうか』
 そう思いながら開けっ放しになっている牢獄の扉から中に入り込んだ。

「貴方は、俺が貴方の事を好きじゃないと」

 牧野はぼんやりと横になったまま口を開いた。
「ええ、貴方は私の事なんて好きじゃありません」
「どうしても信じる気はありませんか」
「ええ。信じられません。・・・・・・でも私は貴方が好きです。だから貴方の傍にいます。でも、貴方は私が好きじゃないので恋愛から発生する気持ちの責任なんて持てません」

 牧野はゆっくりと宮田を見ていた。
 宮田は穏やかに穏やかに手を伸ばして牧野の頬を優しく包んだ。
『なんて、勝手な男なんだろうか』
 牧野はというと、なんだかすっかり寂しくなってしまったので自分の肩に頭を埋めているその人の背に手を回してあやすように撫でて顔をあげた宮田は何か言いたそうにし

ていたので誤魔化すように頭も撫でてみた。










『  ゆうぐれの、 きょうかいは、  
    どこまでも ゆるやかで。
 そこだけ流れる空気が違っていた。
 ゆっくりと夕暮の中で、子供に囲まれた牧野が振り返った。


「お帰りなさい」


 宮田はびっくりして目を丸くさせた。
「おかえりなさい?」
 自分と同じ顔の男もびっくりした顔をしていた。
「あぁ、すみません。今、この教会では村人たちとの交流を深め、その、来られたお客様に「お帰りなさい」という週間を行っていまして」
「お帰りなさい、宮田せんせー」
「あ、宮田せんせーだ」
 子供達が楽しそうに宮田を囲んだ。


『子供は、あまり、好きじゃない』

 宮田は静かに思う。
「、え、っとその、宮田さん????」

 びっくりしすぎてぼろぼろと目から涙が落ちていた。
 あ、なんだこれ。

「ええ??ちょっ、ちょっと、宮田さん??!!い、いかがされたのですか??????」
 いかがされた、なんてこっちが聞きたい。
 無表情でぼろぼろと泣いている宮田におろおろと牧野はあわてる。
「ど、どうしたんですか、宮田さん、何処か痛いのですか」
 何処も痛いわけじゃない。ただ、胸奥が重い、視界が歪む。息がしづらい。どうしようもなく、心臓が早い。頭が痺れている。


「求道師さま・・・・宮田先生どうしたの?どこかいたいの?宮田先生じゃ治せないの???」


その上、この男なんて、嫌悪と嫉みと憎悪の対象だ
「いえ、本当になんでもないので。では、失礼いたします」
 宮田は深く礼をして踵をかえして教会を後にした。ぼろぼろと目から落ちる涙を困ったふうに見ていた。



  『りゆう なんて  たったそれだけで、』






宮田は自分と同じ体格の男の黒い服を掴んで其処に爪をたてた。
『ああ、なんだって俺は、』
 目頭が熱くて宮田はぼろぼろと涙と一緒に声出しそうになる、押し殺したが。
 もう、自分の事しか考えれない。自分の事を考えるとただ悲しい、悲しい。

『なんだって、俺はこの人の事がこんなに好きなんだろう』

 ただ、寂しかっただけ、とはもういえない。















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