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●戦人×真里亞
●温く15禁ぐらいで
●微鬱っぽいです。
●閲覧注意







 にゃぁ
    にゃぁ

 今日も海猫の鳴き声が騒がしくて、頭を揺らす。
 思考回路が鈍る。考えないといけないことがあったような気がするんだけど。





ぼくをみたか?





にゃぁーにゃぁーにゃぁーーーーーーーーーーー

 騒がしい海猫の声に戦人は身を乗り出して窓の外を見た。
 ぼんやりとした頭はまだ覚醒には程遠い。
 頭をかきながら、窓を開ける。
 冷たい湿り気がある風と、海の匂いが鼻腔を擽った。
『ぇー・・・・・・っと』
 空は灰色。それに伴い、海も荒れている。
 そういえば昨日のニュースで台風が接近しているとか言っていたなぁ。
 戦人は本館のベランダの手すりが少し腐っていたのを思い出す。
「・・・・・・直しとかねぇーとな・・・・・・・・・」
 ぼそりぼそりと呟いて本館にいくために、ベッドから立ち上がろうとした。

 すると、するりと重力を感じて、戦人は動きを止めた。
 小さな手が自分の腰に巻きついている。


「・・・・・・・・・・」

 戦人が視線をずらすと布団のシーツの中からその手は延びている。
 細くて白くて小さな肩がこちらを覗いている。

「まーーーーーーりーーーーあーーーーーーーー」

 戦人は声をかけながら片手で真里亞の背中を揺らした。

「真里亞ぁー起きてくれないと、俺がうごけねぇーぜ??」
「うー・・・・・・・・ぅーーーーーー」

 小動物のようにくりくりとした目は今は眠り眼。
 戦人は赤い髪を手に掬い、口に触れる。

「真里亞ぁ、ほら、起きろ」

 二度目の揺さぶりで真里亞はぴくりと動いた。
 大きな瞳が薄く開く、睫が長いなぁなどと観察しながら戦人は真里亞の目が完全に開くのを待った。
『寝ている人間が起きる、この夢と現実の間を彷徨っているような、その瞬間が俺は少し好きかもしんねぇ』
 戦人はゆっくりと真里亞を観察しながらそんな事を思っていた。
「うー・・・・・戦人ぁ????」
「おー・・・・戦人だぜ」
「ごはん・・・・・・?」

 問われる。本館は後回しにするか、と思い息をつく。
「これから作る。真里亞はまだ寝てていいぞ」
「うー・・・・・真里亞も起きる・・・・・・・・・」
 そういい、腰に回された手が離れる、拘束がとかれた。
 戦人は真里亞に向き直り体を持って床に立たせてやる。

 真里亞は上半身は何も身に纏っていなかった。
 大きな子供用の熊の絵がプリントされた下着だけの格好。
 戦人は暫く困ったように見てベッドのシーツを剥がして真里亞の体に巻きつけた。
 首筋辺りで布の端と端をリボン結びにしてやるとちょっとした民族衣装のようになった。
「ほうら、真里亞、洗面所にいって顔を洗ってこい」
 戦人はその小さな背中を押しながらちょこちょこと前へ進む。
 真里亞はぼんやりとした目で足を動かした。
 洗面所に辿りつくと、寒くない程度のお湯に出るまで戦人は手を伸ばして温度を確かめた後で真里亞に手を伸ばすように促し顔を洗わせた。
 
 その後椅子に座らせる。
 戦人は厨房へと行く。朝が弱いのか、朝の真里亞は食器運び自体満足に出来ない状態なので朝ごはんは基本的に戦人が作る。
『・・・・・・・ってもな、』
 巨大な冷蔵庫を開けると虫の羽音のような電気音が響き、中がほとんど空っぽなのを見せ付けられる。
 戦人は溜息をついてドアを閉める。
 戸棚をあさって缶詰を手にして溜息をつく。
『俺はともかく・・・・・・・真里亞にこれだけってのは申し訳ないよな』
溜息をついて諦めて鍋を見る。コトコトと揺れる鍋の中身は薄いスープ。具はじゃが芋と豆類しか入れていない。
「郷田さん・・・・・・・・買い込むタイプの人じゃなかったんだなぁ」
 ぽりぽりと困ったように頭をかく。
 まぁ仕方ないか、と溜息をついて缶詰の蓋を開けた。綺麗に盛り付けをしたらそれなりに食欲もわくだろう、
 と、言ったのは・・・・誰だっただろうか。本館の台所に行けばそれなりにあるような気はするのだが・・・・。

「戦人ぁ」
 名前を呼ばれて振り返る。
「お。準備できたか??手は洗ったかぁ???」
「うーーーうーーー洗った!」
「いっひっひっひ、よろしい!!」

 真里亞はそういって両手をこちらに見せながら無邪気に笑った。
 戦人は食事を前に手を合わせる。

『いただきます』

 二人で声を出してからスプーンを握った。
 透明色に近いスープの下に沈むジャガイモを掬って真里亞は口に含む。戦人も自分の分の食事を始める。
「うー・・・・戦人ぁ・・・・・」
「ん?どうした??」
「このパン、端っこの方、色が違う」
 真里亞が掲げたパンと指さした所を見て戦人は「あ」と短く声を落とす。
「わりぃ・・・・真里亞、そのパン食べちゃ駄目だぜ」
 そういい真里亞の手からそのままパンを取り上げる。
『黴がはえてる・・・・・』
 最近、雨が続いた。湿気が酷かったんだなぁ。と戦人は静かに思いパンをそのままゴミ箱の中に捨てようとする。が、その前に真里亞が席を立って、戦人に手を伸ばしてくる。
「うーーーー!うーー!!」
 真里亞が声をあげたので戦人はびくりと肩をあげて振り返る。
「食べる!それ、食べるの!!!」
 戦人は片手で真里亞を抑えながら困った顔をする。
「・・・・・・駄目だ、腹壊すぞ、」
「真里亞は食べるの!!」
「・・・・真里亞、我侭をいうなよ・・・。お前はもう9歳なんだろう??」
 分別ぐらいつくだろう、これぐらいの。戦人は改めて真里亞の常識のなさに息をつく。
『俺が9歳のころは・・・・・どうだったっけ』
 そんなの昔すぎて覚えてもないが。
 戦人が考えていると真里亞はついに泣き出してしまった。戦人は若干の苛つきを覚えて思わず声を荒げて真里亞は嗜めようとした時だった。

「真里亞は、そのパン食べるの!・・・・・・・戦人が真里亞のために用意してくれたご飯だから、食べるの!!!!」

 そう叫んだ。
 戦人は、喉から出そうになっていた言葉を飲み込む。
 代わりに、真里亞の小さな体を抱きしめた。

『楼座さんなんかも、叩いたりするよりこうすればよかったのにな』
 真里亞の小さなでもあったかい温度に縋り目を閉じる。

 子供ってなんでこんなに甘い匂いがして抱き心地が良くて体温が高いんだろう。


 簡素な食事を終えて本館に向かおうかとも考えたが、真里亞が遊んでほしそうな顔をしていたので、二人で居間のソファーでテレビの前で寛ぐ。

「うー、9歳の戦人ぁ??」
「そう、なんか思い出せないんだよなぁ・・・・・」
 膝の上にちょこんと乗った真里亞は猫の子のように軽い。
 大きな瞳と赤い髪、笑った顔は楼座に似ているような気がするが長い睫が頬に影を作る、その横顔は、楼座のものとは少し違う。真里亞は父親似なのだろうか。

『俺の知らない誰かの遺伝子』

 真里亞はテレビの体操お姉さんと一緒にみんなの歌を歌いはじめた。
『9歳の子にしては、確かに・・・・・あれだよな』
 真里亞がゆっくりと振り返りにんまりと笑う。整った顔立ち。将来は美人になる顔だろうなぁとか思う。
「戦人、絵本読んで」
「おう、いいぜ」
 戦人はそう答えると真里亞の持ってきた本を受け取る。
 狼と羊の絵が描かれたそれは絵本というよりもゲームブックのようなものだった。
 戦人と真里亞はソファーの上で寝転びながら一緒にそれを考えていく。
 その後にお絵かきをした。
 真里亞は相変わらず魔女の絵ばかりを描いている。
「戦人、魔女はいるの」
「はいはい、真里亞がそういうなら魔女はいるなぁー」
 などと笑いながら答えると真里亞は戦人がもうすっかり魔女の存在を信じたと思い満面の笑みを作った。

「うー ♪ うー ♪」
「真里亞、その口癖は可愛いけどなおさねーとなぁー」

「戦人の口癖はいっひっひっひ」
「お?真里亞にしては珍しく反撃にきたな。いっひっひっひ・・・・って、あ・・・・」
「あ?」
「口調で思い出したけどさ俺が九歳ぐらいっていったら・・・・・」






 戦人は昔の事を思い出す。
 本家の庭で千切ってきた白い一輪の薔薇。親族会議が終わって帰り支度をしている時。
 すーーーはぁーーーーーと息を吸い込み、花の手入れをしている紗音の前に飛び出す。
「ば・・・戦人さま?驚いたぁ。どうされたんですか?」
 おぼつかない敬語で紗音は戦人に向き直る。
「これを紗音ちゃんに」
 そう言い薔薇を渡す。
「私に・・・・ですか??」
「そう、いいか、紗音ちゃん・・・白馬に乗って必ず君を迎えにいくぜ、シーユーアゲーン!」
 紗音は驚いたように目を丸くした後でくすくすと可愛らしく笑った。
「わ、笑い所じゃねーぜ??俺は結構真剣に、」
「あ・・・はい、すみません・・・でも、その・・・戦人様が白馬に跨った姿というのが・・・なんだか可笑しくて」
「・・・お、女は皆好きじゃねーか。その王子様」
「あ・・・・そうですね。好きですよ・・・・・王子様」
 戦人はなんだかあれほど緊張していたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「まぁ、いいけどよ。別に」
 そう言い、紗音に後姿を向けた時だった。
「戦人様」
 紗音が柔らかく笑っている姿が、背中越しでも容易に想像できた。

「また、来年・・・・・・・お待ちしておりますね」


 戦人は恐らく真赤になっているであろう顔を見られたくないが為に首だけ縦に振ってそのまま駆け足で去っていった。






『その後、あの薔薇が蔵臼叔父さんの大切に育ててた薔薇だったてことを知り、花壇の管理を任されていた紗音ちゃんが咎められた、ってのは後から聞いた話だ』
 こう振り返ると子供ながらの浅はかさや、自分勝手な言動が身に染みる。
 今更ながら、ごめんな、紗音ちゃん。と謝ってみせた。

「うー・・・戦人は紗音が好きだった?」
 真里亞が話しが終わった時に聞いてきたので戦人は無表情で「さぁ?」と答えた。
「昔の話しだからさ、忘れちまったな・・・・・。それにな、男子ってのは優しくて可愛い女の子が好きなもんなんだよ。だかれ、俺が紗音ちゃんに抱いてたのが、恋だったのか憧れだったのは・・・覚えてねーなぁ・・・・・・・・」

 そう言葉を下げながら戦人は欠伸を出す。とても眠い。
「戦人、眠い?」
「おうよ、戦人は眠い」
 真里亞をぬいぐるみのように抱き寄せた。
 

 甘い匂いがする。
 いつのものように抱きしめるだけだと、布生地の下の素肌に手を伸ばす。
 小さな白足をなぞっていき、太腿辺りを擦る。
 真里亞が擽ったそうに笑い、身動ぎをするので戦人はその額に口付けをした。
 ・・・・・・・枯渇していたものが埋まらない。余計に喉は乾きだしている。
 その原因がなんなのか戦人は自分の事なのにわからなかった。
 ただ、無償に焦燥感に襲われて対処のない感情を誤魔化すように真里亞を抱きしめる。その手にすっぽりと収まってしまう肌が、抱く感触がそれらを吸い取ってくれるような錯覚をする。
「真里亞・・・・・・・真里亞・・・・・・・」
 下着を捲りあげ、足の付け根に指を這わせた。下着の上から敏感な箇所に触れてみると真里亞が驚いたように、びくりと身体を動かした。
 ここまでだってまだ大丈夫だろう。
 そう思い、もう片方の手で平らな胸板を自分の大きな手で揉みながら真里亞をソファーの上にゆっくりと転がす。
「うー・・・戦人、10年、まだたってないよ??」
「10先に備えて、な?」
 ソファーの上に散ばった赤い髪。戦人は赤いシャツのボタンを一つ二つ外しながらその上に押し潰さない程度に重ねる。
 人肌に縋るように眠り目と意識の下で真里亞の身体に触れていく。
 朝に舐めてもらった指をまた口の中に入れて今度は少し無理に舐めてもらう。その手を下着の下にもぐりこませる。人差し指の先端を潜りこませていく。
「ばと・・・・ら・・・・」
唾液でぬるぬるになっている指をくちゅ、くちゅと音をたてさせながら前後に動かし指の根元まで突っ込む。
「・・・ぅ・〜〜・・うーーー・・ばとら・・痛い・・・・」
 その後に折り曲げたり内壁を引っ掻いたりすると真里亞が小さな身体を硬くして背を丸くする。
 自分の服の袖を噛ませて声を押し殺させた。
 暫く、真里亞がぐったりしてきたので、戦人は指を抜いた。
 熱に浮かされているように荒い息を吐いて涙目。高揚感がふつふつと湧き上がる。
 真里亞が「戦人・・・・・・」と怯えた声で名前を呼んだので戦人の中で罪悪感が生まれて動きを止めた。
「真里亞、ごめんな、その・・・・ごめんな・・・・・・・」
 そう誤魔化すように名前を呟きまた額に口付けを落とした。
 本館にいくのは、明日でいいか。そう思いながら何日ここに留まっているのだろうか。戦人はそのまま真里亞を自分の腕の中に閉じ込めたまま眠ってしまった。






「戦人、魔女はいるよ」


 眠った戦人の横で真里亞が口を動かしているが戦人の頭の中はぼんやりとしていてそれが夢か現実の声かよく分からなかった。

「ああ、だから信じてるって」
 適当に返す。
 その後で考える。

「・・・・・・・真里亞が信じるなら、信じてもいいぜ、お前が夢見る世界だって信じてもいい」


真里亞はその答えに満足そうに口を開いて続ける。
 そして無数の途切れ途切れの言葉を落としてくる。


「アレイスター・クロウリー」「近代西洋儀式魔術」「間的順序と逆向きに振りかえるんだよ、きひひひ・・・・」「瞑想修行法偽りの自我、とも言われるけど、・・・戦人がこうである、って思い込めば魔女は存在するし魔法の力は有限とはいえこの世にあるものとみなされ使えるようになる」

結果、

「逆向き瞑想だよ・・・・・・・・戦人」

 意味の分からない単語の羅列は雑音でしかない。
 俺にはだからそういう専門知識はないんだって。
 そう思っていると真里亞は全てを理解した上で口を開く。

「真里亞はもうすぐ魔法が使えるようになるよ、」


 へー・・・・・それは、凄いなぁ。
 そう戦人は呟いて、意識を閉ざした。









ああ、明日こそ手摺を直しにいかないと。




 硝子が割れる乾いた破裂音と轟音と、後に続く音で目が覚めた。
「な、なんだ、」
 戦人は飛び起きるとそのまま廊下に出た。
 窓硝子が割れて欠片が廊下に散乱している。窓から木の枝が覗く。
 見ると屋敷の横に立っていた木がこの轟音で倒れてきていた。

「うー戦人ぁー・・・・?」
「真里亞、危ないから近づくなよー」

 眠り眼の真里亞が部屋から顔を覗かせて戦人に近づこうとしたので戦人はそれを軽く静止の声を出す。
「ええっと、箒と塵取りはどこだったっけ・・・・・」
「・・・・・用具小屋だよ」
「ああ、あのバラ園の横にある小屋か?」

 戦人は窓の外を見てその小屋を確認する。
「戦人、箒と塵取り、とりにいくの」
「このままにしてたら危ないだろう」

 真里亞はどこか考えるように黙りこんだあとで、

「そう・・・・・・きひひひひひひひひひひ・・・・」

 と、短く笑って部屋の中に入っていった。


「なんだよ、不気味なやつ・・・・・・・」
 戦人はぼそりと呟いた後で玄関へと向かった。
 レインコートをフードまでしっかりと被り雨の中に飛び出る。

 雨もだが、何より風が強かった。木は斜めになっているし強風は色々なものを空へと巻き上げている。
 地面は跳ね返る粒で白い。世界は灰色、海は荒れていて波は高い。

 彼女と思い出のバラ園は見る影もない。
 戦人は早足で小屋まで辿りつくと、一息おいてシャッターまで歩く。

「・・・・・・・なんだこれ」

 シャッターにはよく分からない模様があった。真里亞が時々ノートにかいているような不気味なマークだ。

『お祖父様の趣味か?』
 気にはなったがそのままシャッターを開ける事に専念。手をかける。
 そしてガラガラと音を立てて扉を開いた。

 薄暗く、埃っぽく・・・・・そして、
 とてつもない異臭が鼻についた。思わず戦人はシャッターから手を離した。音が響く。その場でうずくまり、咽る。咽ながら・・・・・・・・・静かに自分の中の記憶が蘇ってくるのを待った。待った後で全てを理解する。

 息を吸い込み、再びシャッターを開けると中に踏み込んだ。




「・・・・・・・・・・・・・・・よぉ、紗音ちゃん」
 声をかけると彼女は痩せ細った酷い顔でゆっくりとこちらを見た。
「・・・・戦・・ら・・・さま」
 彼女の足は縄で拘束している。手も前で縛っており最低限の食事だけ体を倒したら食べれる位置にはおいといたが。
「・・・・・・・助けはまだ来ないみたいだな。ごめんな、紗音ちゃんを、どうこうするつもりはなかったんだけどよ・・・あああ、その様子じゃ助かりそうにないなぁ?」
 戦人は小さく笑う。紗音は無言で戦人を睨んだ。
「・・・・人殺し」
「ああ、人殺しだ」
 戦人が辺りを見回すとそこには紗音と死体が三体。
「俺は、右代宮やあの時に関係がなかった嘉音くんや紗音ちゃんとか・・・あと郷田さんと南條先生には手を出さないつもりだったんだぜ???それをよ、変な抵抗するからさ・・・・・・」
 戦人は呟きながら箒と塵取りを手についでに策を直しにいこうかとトンカチなどを探している。
「譲治さまは!!!!朱志香さまだって・・・・・関係がなかったんじゃないですか・・・??!」
 紗音が悲痛に叫んだ。譲治の死体を前に紗音が泣き叫んでいたのを思い出す。
 ああ、さよなら俺の初恋。実は恋仲だった二人に今更ながら失恋したんだなぁとか思ったりする。 
 
 そうだよ、いつだって、残された者は悲しい。苦しい、どうしようもない。

「・・・・兄貴達は駄目だぜ・・・・・・ぜーんぜーん・・・・・だめだ」

 顔を近づけてにやにやと凶悪に笑う。
 
 その後で必要な物をナイロンの袋に入れて口をしっかりと縛る。
 そして紗音の方へと振り返る。

「右代宮の苗字を名乗っている時点で、同類なんだよ」

 小さく吐きすてて倉庫からでようとする。
「あんなに戦人さまに懐いていた真里亞さままで・・・・・・」
 その言葉に戦人は「ああ」と答える。この自らを家具と名乗る使用人たちは本当に主人思いだ。反吐がでるぐらいに。

「俺は、真里亞には手を出してない」

 そう言い背を向ける。
「なんでだろうな、やるなら徹底的に、なのにな」
 不思議そうに首をかしげてみせる。
「なぁ、なんでか分かるか?紗音ちゃん」
 意地悪くからかうように紗音に聞いてみた。その背中に紗音がゆっくりと乾いた唇を開く。
「戦人さまは・・・・・・・」
 
 小さな声が息を吸い込むのが分かった。


「戦人さまは海を見ましたか?」



 戦人は振り返り紗音を見た。質問の意味がわからない。
「来る時に見たけど相変らず灰色で荒れてたぜ」
 そう言い、シャッターを閉めた。もう二度と此処には来ないようにしよう。


 戦人はその足で本館へと向かう。
『それにしても、俺は何故、紗音ちゃんや俺がした事を忘れていたんだろう』
 思いながら雨の中を走る。
 夢現で聞いた真里亞の言葉を思い出す。


・・・戦人がこうであると思い込めば魔女は存在するし魔法の力は有限とはいえこの世にあるものとみなされ使えるようになる


 魔法の力。
 背筋が寒くなった。これが魔法の力というならば、思い込めば人間の脳がそれを本当だと認識してしまうのならば、

『俺は本当に真里亞を殺さなかったのか?????』
 不安が胸に押し寄せてきた。
 そして、ようやく本館へ向かう決心がついた。
 もしかしたら、そこには、本館に必要と真里亞が行くのを邪魔したわけは・・・・・・・・・・・。









 真っ青な顔をした戦人がゲストハウスに戻ると玄関で待っていた真里亞が顔をあげた。
「戦人」
「・・・・・・真里亞は、ここにいるよな」
「うー?真里亞、ずっとここにいるよ?」
 そう言った真里亞の言葉に安堵の息をついた。



 真里亞はお茶の準備なんてできないから、(そもそも危なくて台所には立たせないようにしている)自分で台所に立つ。そしてココアを見つけたので真里亞と自分の分をコップにいれてお湯をいれて溶かす。
 真里亞にはミルクと砂糖をたっぷりと入れて。

 近くにあった毛布をもってきて後ろから真里亞を包みながら一緒にくるまる。
 ココアを渡しながら、やってきた台風を建物の中からぼーっと眺めていた。

 窓枠がガタガタと揺れる。
 本館の手摺はこれはもう駄目だろうなぁなどと考える。
 

『俺が忘れたかったのは、真里亞が魔法をかけて忘れさせてくれていたのは・・・・・・・』

 戦人は愛しさをこめて真里亞を抱きしめた。

「・・・・今日、ついでに本館にいってきたぜ」
「うー?」
「そこで、俺はお前の死体があるんじゃないかと思ったんだ」
「うー!!!真里亞しんでない!!」
「ああ、いや、ごめんな・・・・そこにあったのは、クソ親父の死体だけだったよ」
「留弗夫??」
「ああ・・・・・・・・あいつな、俺に、刃物突きつけられて、口から血をどばどばと吐きながら・・・・それでも俺を見て最後になんていったと思う?」
「うー?」
「『ごめんな』だってよ」
「戦人に命乞い?」
「・・・・・・・違う、『明日夢、ごめんな』だってさ」

 戦人は「いまさら!!!」と叫んだ後にもう一度真里亞を抱きしめた。

「全部・・・・・・・・・・・もう遅いんだって、」

 忘れてしまいたかったのか、念願を成し遂げたのにさっぱりとしないわけはこれなのか。
 窓枠がカタカタとゆれている。風は先ほどより風力を弱めているもののまだ、強い。



「なぁ・・・・真里亞、魔女・・・まだこないなぁ」
 そんな外を見ながら戦人はゆっくりと真里亞に話し掛けた。






「俺たち・・・・こんなに、いいこにしてるのにな」









きみをみたか?









●前作 →「いいこにしてますから
●戦人犯人話




あきゅろす。
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