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●楼座と戦人と魔女
●少しだけ戦人×楼座
●長編
●微鬱








「ハンデをやろう」

いきなりの魔女の言葉に戦人は首を傾げた。
「ハンデ?・・・・・・いっひっひ、そんなもんいらねーから俺の勝ちにしてほしいものだぜ」

そう言いながら首につけたままになっていた首輪を外す。
首輪の後側には『右代宮戦人』と丁寧に名前が彫られていた。
『小学生かよ???!!』
と胸糞悪い心中を表すかのように思いっきり投げ飛ばしておいた。
乾いた音が床に響いた。ベアトリーチェは「そなたによく似合っていたというのに」と言葉を落とした。
酷い皮肉を、と思ったがその顔が少しも笑っていなかったので本気の言葉と知り、首輪の似合う男ってどうだよ、と泣きたくなった。

「・・・・それで、ハンデってのは?」
なんとか話を誤魔化す為に言葉を紡ぐ。
「選べるというのはどうだ?最初の6人をな」
「は?」
戦人の口から疑問の声が漏れた。
ベアトリーチェは楽しそうに顔を引き攣らせていく。

「なぁぁああに、一番最初に6人も無差別で死ぬのだ、そなたもさぞかし苦しかったであろう?悲しかったであろう??そこから残りで生還など確かに難しい話であったなぁ。だから最初の6人はお前に選ばせてやるよぉおお・・・右代宮戦人ぁ。優秀な人間を選べよ。そしたらひょっとしたら残りの人間で妾が打ち破れるかもしれぬぞぉお・・・・」

妖艶に笑いながら魔女は楽しそうに名案だ!と言わんばかりに説明する。
戦人は「おいおい」と焦りを顔に出さないようにベアトリーチェを睨む。
「そんな事、出来るかよ。殺される人間を6人も俺が選べるわけがない・・・・!!」

第一の晩に殺される6人。
その6人はいずれも似通っており必ずと言っていいほどそういう状況でこそ必要な大人達が選ばれている。確かに、もし、ここで最初の6人が選べる事が出来たなら何かの解決策にはなるかもしれないが。
そこまで考えてその考えを打ち消すように首を振る。

何を馬鹿な。

まず誰かが死ぬなんて事自体、あってはいけない。

戦人の葛藤を見抜いてかベアトリーチェは実に楽しそうに笑った。
「・・・・実際見てゆっくり選んでみては如何か?」
ベアトリーチェはそう言い戦人の額にそっと手を乗せた。







戦人は勢いよく体を起こした。
「うわぁ」
横に座っていた譲治は驚いたように声をあげた。
「戦人君、起きた・・・ってどうしたんだい、凄い汗だけど、怖い夢でも見たのかい???」
話しかける譲治の横で真里亞が「怖い夢、戦人、怖い夢見た?」と鸚鵡返しに聞いてくる。
戦人はきょろきょろと回りを見直して「あー・・・」と声をあげる。
「怖い夢だったぜ。牛に無理矢理に乳を押し付けられて窒息死するところだった」
そう答えると譲治は「また・・・凄い夢だね」と戦人が跳ね除けたタオルケットを拾ってソファーにかけていた。




「俺は、選ばないからな」

その様子を自分も含めて何処か遠くで眺めながら戦人は呟いた。
魔女は横でくっくっくと声を押し殺して笑っている。

「勿体無いではないか?折角のチャンスだ、有効に使え」

魔女が言った言葉に戦人は何も返せなかった。
分っているのだ。これがチャンスだという事は。
「ところで、牛というのは・・・妾のことか?」
「褒め言葉じゃねーか」
「?そうなのか」
「そうだよ」
適当に言葉を返しつつ戦人は前を見る。




「戦人君、起きている?」
霧江が覗き込むかのように部屋に顔を出した。
戦人は答えるように霧江の方へ目線を向ける。
「少し暇が出たの。久しぶりにチェスの相手でもしてくれないかしら」
凛々しい顔で苦笑しながら告げる。本人曰く親族会議の途中で追い出されたらしい。
こういう事はあの兄弟の揉め事の中ではよくある。六年前などは秀吉が廊下でおろおろとしていたのをよく見ていた。
戦人は「いいっすよ」と笑いながら立ち上がった。
譲治がじゃあ昼食にまた、と言葉をかけたので手を振って出ていく。

空いている部屋で机に座りチェス盤を広げる。
コツン、と小気味のいい音をチェス盤の上に響かせていく。
暫く二人で談笑を交えてゲームを楽しんでいた。
そこでふと戦人は霧江の方を見る。
霧江の長い睫が影を作っている、凛々しいが美しい表情が考え込むようにチェス盤を見入っている姿に見惚れていた。

「はい、チェックメイト」

霧江のクスクスという笑い声にはっと我に返った。
「まじかよ〜・・・・また負けちまったぜ」
「あら、今回はとても惜しかったのよ?」
戦人の苦笑いに霧江が勝敗の決め手となった原因を簡単に説明しはじめる。
思っても見ない考えと相手の出方を見計らい心理をついてくるその策。
それを聞きながらやはりこの人は恐ろしく頭が回る人なのだと改めて認識させられる。
『俺が、探偵紛いの事をするよりも霧江さんが生きていてくれたらもっと確実な事が分かるような気がするぜ』
しみじみと思う。
この人なら自分と違ってちゃんと敵を見極め、人間も疑ってくれそうだ。
『大体、なんで二回とも霧江さんは第一の晩に選ばれたんだ?ベアトリーチェのやつ、霧江さんを恐れてたんじゃねーか』
声に出せば魔女に聞こえてしまいそうだったので心中でのみ思い考える。
彼女には、霧江には残ってもらいたい。
だとしたら、やはり6人を選ばないといけないのか。
戦人は焦りにも似た気持ちが少しずつ心の中に溜まるのを感じた。

「おい、こんな所にいたのかよ、霧江」

扉が開き留弗夫が顔を出した。戦人と霧江は振り返る。
「ったく・・・探したぞ」
「あら、私を追い出したのは貴方じゃない?」
その冷たい目にたじろぐ留弗夫。
情けねーな、この親父。と戦人は馬鹿にするように笑っていた。
そんな戦人を留弗夫は軽く睨んだが、
留弗夫は大きな息をつき諦めたように両手をあげて降参の意味を表した。

「ぁー・・・悪りぃ。あの場はああするのが一番だと思ったんだ」

素直な言葉に戦人は驚いた。
この男が素直に謝るなんて器用な真似が出来るとは思っていなかったのだ。
6年前、ここに来ていたのが自分の母親だった時。同じように途中で席を外された母にこの男は一言でも謝罪をしていただろうか。

『・・・いや、そもそもお袋の時は探しにすら来なかったじゃねーか、親父よぉ・・・・』

戦人の感情は酷く冷めていく。
『親父は・・・・別に死んでもいいかな・・・・・』
ぽつりと戦人は考えた。

その後、昼食まで家族で時間をすごし揃って食卓の席へと向かった。
金蔵を除く右代宮の一族が椅子に座り順列に並ぶ。
やがて金蔵は来ない事が告げられてから食事が始まる。
戦人は真里亞と一緒に何が美味しいだの、口に合うだのを語り合いながら楽しむ。
『この中で、死んでも支障がない人間』
ふ、と戦人は一族が集まるこの風景を見て考えてしまった。
首を横に振る。そんな人間いるわけがない。
そこで眼の前にケーキが現れる。真里亞がファークに刺してケーキを差し出す。
ぱくりとそれを口に入れて真里亞の頭を撫でながら戦人はそれでも考え続けていた。
「うー、戦人、おいしくない??」
その言葉に戦人は自分の顔の表情が固まっていた事に気がついた。
「い、や美味いぜ!真里亞。真里亞が食べさせてくれたから更に美味いぜ。これはお礼だぜ」
いっひっひと笑いながら自分のケーキを半分わけてやる。
「うーうーケーキ!増えたーーーー!」
戦人の皿を手にして嬉しそうに笑う。
「こら、真里亞。お礼をいうのが先でしょう?」
楼座が呆れたように言葉を落としていた。

『真里亞は絶対助ける』

戦人は二回とも果たせなかった事を思い出す。
自分が何もかもを投げ出して情けなく泣き出した時に守ると言ってくれた幼い少女。
何があっても今回は真里亞だけは守ろうと思っていた。

『そもそも二回も第一の晩に子供達が殺されなかったのは犯人が親のうちの一人だからじゃねーか・・・・??流石に子供に手を出す事が出来なかったって事の証拠にならないか・・・・??
だったらその犯人をあててそいつを第一の晩に殺させたら殺人はもうおこらな・・・』

そこまで戦人は考えて自分の考えに大きな矛盾が起こっている事に気づく。
いやいや、犯人がいるから事件が起こるわけであって、犯人が死んでしまったら第一の晩に殺人なんて起こるわけがないじゃない、というか犯人が自分を殺せるわけないじゃないか。

これはあれか、結局は魔女の存在を認めてしまっているのではないか、俺は。
戦人は憂鬱な気分で唇を軽く噛む。

『ああああ・・・・・・・・・くそ』
したくなかった事をさせられている。

魔女の存在を認めさせられている。
親族を疑わせられている。

それでも、このチャンスは逃すにはあまりにも大きい。

考えすぎて頭が痛い。
誰かを生かしたい。だから誰かを殺すことを考えなくてはいけない。
でも誰も選びたくない。
あれ、これって前の二の舞じゃねぇのか?

・・・そういえば真里亞が手紙を出す事も誰かがベアトリーチェの存在を言う事も今回はなかったなぁ。

あちこちに考えが霧散する中戦人は真里亞をみた。
楼座が真里亞の口が汚れていたので拭いてやろうと真里亞に手を伸ばしていた。
その際にビクっと真里亞が目を大きく開けて大きく体を反応させた。
明らかに、今、真里亞は楼座に怯えた。
戦人が真里亞に視線を落とす、袖の隙間から見えた肌が赤く叩かれた痕がある事に気づいてしまった。

楼座を思わず見たが楼座はそれに気づかずに真里亞の口を拭いていた。

食事が終わった後で気になり楼座と真里亞をつけていったら誰もいなくなったのを確認した後で楼座は真里亞を力一杯殴っていた。

ぞわり、と戦人の背筋が震えた。
『またかよ・・・・・楼座叔母さん・・・・!!!』
皆を守るべき立場であったのにその守るべき相手に銃を突きつけていたり死人を罵り勝手に犯人と決め付けていたり、なにより必死に自分と使用人達の無実を訴えていた紗音を疑い人生を捧げていた彼らを家具と罵っていた姿が思い出される。
結託しなければならなかったあの状況で残りの人間達を分散させた根源。
そして、これは自分の目で見届けたわけではないが、黄金を転んで見失うまで真里亞の手を引く事をしなかった彼女。
それら全てを鮮明に戦人は思い出していた。

少しでもこの牢獄から逃げられる可能性。
真里亞を守る。

その二つが戦人の中でぐるぐると回っていた。
考えているうちに足が二人の前に出ていた。
戦人の存在に気づいた楼座は驚いたように手を止めて戦人を見ている。

魔女の声が聞こえる。
『さぁて、そろそろ一人ぐらいはきめたかのぉおおおお・・・・・戦人ぁあああ????ほら、決めたならそろそろその名前を言ってみろよ』
戦人はやけに冷え切った頭でゆっくりと手をあげて楼座を指差した。




「楼座叔母さん」




楼座は小さく「え」と言葉を落とした。
「楼座叔母さん。俺は真里亞に用事があるんですけど、真里亞借りてもいいですか?」
「え・・・ええ」
楼座は見られていなかったのかと思い安堵の息をつき、真里亞の方を向く。
「真里亞、ほら戦人君が呼んでいるわよ」
優しい声で真里亞に呼びかけていた。

戦人はこれでいいと、真里亞の為にもなるとそれをいい訳に自分のした事を正当化させようとしていた。皆が助かる為に。もうこれ以上親族の醜い姿を見なくてすむようにと。
「真里亞」
チェスの盤を動かす戦人ではない、ただの駒である戦人は陽気に笑い真里亞に笑いかけていた。
しかし、真里亞は動かなかった。楼座の服の端を掴んで首を静かに横に振った。
「うー・・・戦人」
「ん、なんだ??」
早く、真里亞を助けなければと手を伸ばした。
しかし、真里亞はその大きな目で戦人を見つめるだけだった。

「戦人、それでも真里亞にとってのママはママ一人なんだよ・・・・・・・・?」

戦人は息を飲んだ。
どうしようもない間違いに気づいてしまった。
思わず、そしてその場から逃げるように背を向けて走り出していた。


戦人は荒い息を吐きながらホールを通りこし玄関から外に飛び出した。
薔薇園の中をがむしゃらに走り抜けた所で足を止めて手で顔を覆い隠した。
『俺はッッッッ!!俺は――――――――ッ!!』
自己嫌悪が胸の中で渦巻く。自分は今、何をしてしまったんだ。

「ベアト、ベアトリーチェ、取り消しだ!!!取り消してくれ!!!頼む、あんなのなしだ!!!」

声に出して叫んだが魔女からの反応はなかった。
チェス盤の前で立ち上がり眼の前を見たが椅子の上には誰もおらずその空間でも戦人は一人だった。


そのうち雨が降り出してきたが戦人はその場から動けずにいた。
酷い後悔が心の中にあった。どうしようもない過ちが渦をまいていた。
『駄目だ、全然・・・・全然駄目だぜ・・・・・!!!!!』
唇を強く噛み、そこから鉄の味が口内を満たしたが戦人は気にも止めない。

そこで、ふ、と戦人に当たる雨が止んだ。
目線を上げるとそこには傘を差し出した楼座が立っていた。

「戦人君、どうしたの?いきなり飛び出すから吃驚したわよ?」


優しく声を掛けられて手を伸ばされる。


頬に触れられて「冷たくなっているわ、早く戻りましょう」と苦笑された。
そうなのだ、楼座という人間は普段はとても優しい。その根本的な所だって。
ただ、あの時は彼女にはそうしなければならない理由があったというのに。
戦人は泣き出したくなる気持ちで楼座に手を伸ばして楼座を抱きしめた。
「きゃ・・・・」
楼座が手にしていた傘が落ちる音がする。
抱きしめた楼座の感触はとても柔らかくその肩はあの重いウインチェスターを持ち続けていたとは思えない程とても細い。
戦人は、その体を更に力を入れて抱きしめ抱き寄せていく。
「ちょ・・・・!ちょっと、戦人・・・くん????」
雨の冷たさと暖かいその温もりを感じながら戦人は口を開く。
「楼座・・・・叔母さん・・・俺から離れるな」
震える声で呟いた。
第一の晩。楼座のずっと傍にいて楼座を守ろうと心に誓う。
それが戦人の償いでありけじめだと思った。

戦人の腕の中でくすくすと笑い声が聞こえた。
視線を落とすと楼座が苦しそうに笑っていた。
「戦人君、それって私を口説いているの??」
「え、あ・・・そういうわけじゃ・・・・」
と、言いかけて思いなおす。
『チェス盤を・・・引っくり返すぜ、』
寧ろそう思っていてもらった方が楼座の傍にいる理由が出来るのではないかと。
「あー・・・そうです、俺は楼座叔母さんが好きです」
あの魔女相手でも言えない言葉に顔から火が出そうな気持ちでなんとかそれだけ絞るような声で告げた。
楼座は暫く戦人の顔をじっと見る。
その顔は流石に親子なだけあって真里亞の面影がある。
真里亞が成長したらこんな感じなのだろうか、でもこの人可愛い系だし、真里亞は美人になりそうだし、ああ、そうだ、この人は可愛い。可愛いんだ。
頭の中でぐるぐると言葉を回しながら戦人は自分の腕の中にいる楼座から目が離せずにいた。
雨に濡れた髪の毛や唇が酷く扇情的。
思わず顔を近づけて吸い込まれるようにその唇に軽く触れる。
その行動で楼座の反応を確かめてみた。

「・・・・おませさん」

楼座はくすくすと笑い。決して抵抗を見せなかった。
戦人の心臓が、大きく高鳴る。
再び口をつけようと戦人が顔を近づけたら楼座は一指し指をその唇に当てて止めた。
そして戦人の腕の中から楼座は静かに離れて落としてしまった傘を拾った。

「戻りましょう?心配されるわよ」

楼座の言葉に戦人は静かに頷いてそのあまり意味がなくなってしまった傘に二人寄りそって入る事しか出来なかった。

屋敷にかえると雨に濡れている事に気がついた紗音がタオルを持ってきてくれた。
真里亞はゲストハウスに預けてきたそうで楼座と戦人だけが部屋の中にいる状態だ。
そのうち紗音が珈琲はどうするかを聞いてきた。
「紗音、マショマロはあるかしら・・・・?もしあったら一緒に持ってきてくれる?」
紗音はその言葉に「はい」と返事を返していい匂いのする珈琲と小皿に積んだマショマロをもってきた。
「はい、戦人君」
笑顔でマショマロを差し出されて戦人は困惑顔になる。
「へ?」
「好きだったでしょう?珈琲にマショマロ浮かべて飲むの」
「え、ああって、それ子供の頃の話っすよ・・・・・」
「でも、今も好きでしょう?だって食後に出された珈琲の回りをきょろきょろ見ていたじゃない」
そこまで言われたら素直に受け取る事しか出来ない。
そもそもそんな昔の事まで覚えられていたなんて。
顔の熱が上昇するのを抑えられずにいた。

「私にとって戦人君は可愛い甥のままよ」
「いっひっひ、それはあんまり嬉しくないですね」

そう笑ったものの同年代の女の子とも違う、勿論あの魔女とも違う。
戦人は楼座の扱い方が分からなくなっていた。
そんな戦人の心境を知って知らずかにこにこと嬉しそうに楼座は戦人を眺めている。
戦人はなんとも言えない遣り辛さと気恥ずかしさで一杯になっていた。
マショマロを浮かべて溶けかけた独特の甘みを楽しむ余裕もない。

「戦人君」
「あ、はい」

楼座は戦人をじっと眺めている。

「大きくなったわね」
空港でも言われた言葉だというのに戦人には恥かしくて仕方がない。
しかし、此処はなんとか説得すべきだ、と戦人は笑みを消した。
「楼座叔母さん、そのさっきの話なんだけど」
「戦人君が私の事を好きって言う話??」
「いや、それもあるけどよ、その俺からなるべく離れないでいてほしいんだ・・・・」
その言葉に楼座は首を傾げる。
「変な事いうのね」
「・・・答えは?」
「ごめんなさい、両方含めて首を横に振るわ。だって私は一児の母よ??」

ここでそれを盾に断られるわけにはいかなかった。

「それでも、俺は!楼座さんが好きだ!!」
戦人は挫けずに顔を赤くさせ睨むように楼座に目をむけて宣言する。

沈黙の間の時計の針の音がやけに大きい。
楼座は息をつく。

「真里亞は?真里亞の事を戦人君はどう思っているの??」
「え、大好きですよ」
これは素直に直ぐに出てきた。
その言葉に楼座は少し表情を和らげた。
「ありがとう。真里亞も戦人君の事、好きだって言っていたわ」
楼座が柔らかく微笑んだので戦人はなんだか照れてしまいそれを誤魔化す為に笑う。


お互い穏やかに笑った後で楼座はゆっくりと手を上げて戦人を指差した。





「決めたわ、ベアトリーチェ。最後の一人は戦人君、右代宮、戦人よ」





楼座が笑顔のままでそう宣言した。
「え?」
戦人の口から乾いた声が出た。

「ねぇ、聞いてるの、ベアトリーチェ???」
魔女という単語でさえあんなにも毛嫌いし、その存在を一切信じていなかった右代宮楼座は何もない空中に向かってベアトリーチェ、その名前を呼び続けていた。

「右代宮金蔵!!右代宮蔵臼!右代宮留弗夫!右代宮絵羽!そして今この目の前にいる右代宮戦人!!!これで貴方が選んでいいと言った5人全てを決めたわ、これでいいのよね、ベアトリーチェ!!!!」

つらつらと連なる名前に戦人は口を金魚のように開け閉めした。
「楼座・・・・おば・・・さん・・・・・・・」
震える口でその名前を呼ぶと楼座は戦人に振り向いた。
「魔女がね、私に言ったの。最初に殺される五人を選ばせてやるって」
楼座は笑いを抑えているように笑っている。
「ごめんなさい、戦人君。私は真里亞が好き、大好きよ、あの子を愛している。ようやくそれに気づけたの、真里亞が傍にいれば他に何もいらないって」

さながら春の暖かさのような柔らかい笑みを零しながら楼座は戦人に近づく。
だからね、と楼座は戦人の目を覗き込んだ。

「戦人君なんかに・・・真里亞は渡さないわよぉ?」


一瞬、凶悪にでも美しく顔を歪めた楼座は戦人の眼の前でくすくすと笑う。

「戦人君は私が好きだっていったでしょう?私も戦人君が好き。だから戦人君が近づくのを許してしまうわ。だとしたら私から真里亞を奪う一番の可能性がある人間になるのよ。それに私が死んでしまった夜も真里亞の傍にいたんでしょう?あの子と直ぐにあんなに仲良くなってくれたわね。ありがとう、母親として礼を言うわ。でもね、私にはやっぱり真里亞しかいないのよ。普通に考えてみてよ、その私から真里亞を奪う戦人君なんていらないでしょう」

優しい笑みのままで楼座は淡々と語っていた。
いつも優しい楼座叔母さん。
そこにいたのは最もよく見てきた見知った顔の楼座叔母さんだった。
戦人はただその様子を見ている事しか出来なかった。

「お父様も兄さんも姉さんもだいっ嫌いだから丁度よかったのよ」

こんなのって、違う、そんなの間違っているだろう、
戦人はよろよろとがんがんと鳴り響く頭の痛みを感じながら足から力が抜けていくのに気がついた。
でもそれも強くいえない、


何故なら彼女を責める権利は今の戦人には決してなかったのだから。

「真里亞、今度はずっと一緒よ・・・・」

眼の前が真っ暗になっていくような錯覚。
押し殺した笑いから少しずつ声を上げていく楼座の姿を見ながら戦人はただ呆然と見ている事しか出来なかった。



















「右代宮金蔵、右代宮蔵臼、右代宮留弗夫、右代宮絵羽、そして戦人と楼座」
ベアトリーチェはつまらなそうに駒を手に取りパラパラと地面に落とす。
音を立てずに駒は物体に当たり床に散ばっていく。そして最後の一つを手に取る。
ベアトリーチェはぼんやりとした目でその駒を空中にぶら下げている。

「だから、有効に使えと言ったのに」

そしてその駒でコツコツと動かなくなった戦人の頭を突きながらベアトリーチェは大きな息をついた。
それが眼の前の戦人に向けてのものだったか、または床で横たわっている右代宮楼座に向けてのものだったのか、その答えは当分聞けそうにない。

















One I love,
two I love

(一つ私愛してる、二つ私愛してる)


題名引用
マザーグースより
自分本位な恋愛占い。







あきゅろす。
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