●戦人×ベアト
●ベアト×戦人
●捏造
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変わった所は多少なりともあったけれど不思議な事など何一つない。
空港について親族達に「大きくなったわね」と言われて気恥ずかしい思いをした後でやけに揺れる船で運ばれて六軒島についた。
しかし、嵐なんて来なかったし、六軒島についたら数年前の記憶と変わらず耳に喧しいくらいのうみねこの声が出迎えてくれていた。
見慣れない数人の使用人や大きく飾られた女の絵には驚いたりはしたけどお祖父様は皆の前に姿を表して食事を共にした。厳格な気難しい人と変わりはなかったがその表情は年をとったからだろうか、少し優しいものになっていた。


特別、変わった事なんてなかった。
数年の時間なんて所詮そんなものだ。
そして此処に来ると改めて戦人は右代宮の人間に戻ったのだと再認識した。
それが少しだけ悔しいと思いはしたが。従兄弟たちに会えたのも親族に会えたのも楽しかった。

ただ、一つだけ、と、戦人は息がつまる思いでその空気の中にいた。

無数の薔薇や花。
花の柵を抜けた所で戦人は人の気配に振り返った。
同時に風が吹き花弁や草で視界が覆われた。
目を細めてゆったりと開けていく際に視界の端にちらちらと黄金色が見えた。
完全に目を開けたと同時に戦人は言葉を失っていた。

宝石のような透き通った青色の目、黄金の髪、陶器のような白い滑らかそうな肌。この世の物とは思えない程の美貌を携えた女が其処にはいた。

「お初、お目にかかります」

女の形の良い唇がゆっくりと開かれて流れるような美しい声を紡ぐ。
「私は、金蔵さまにお仕えしております・・・人間ベアトリーチェと申します」

にっこりと微笑まれた後で細く長い指が自らの短いスカートを掴む
「よろしくお願いいたします、右代宮・・・・戦人様・・・?」
そして礼儀の正しい礼をされた。
上げられた顔は妖艶に微笑まれていた。
戦人は「あ、ああ・・・」と生返事を返す事しか出来なかった。


彼女の名前はベアトリーチェ。
二人の従兄弟曰く、彼女は数年前にいきなり金蔵が連れてきたのらしい。使用人として右代宮に使える事になったらしいが彼女の仕事は家事や庭師の類いではなく錬金術師だという。
祖父は真面目な顔でそう宣言して自分の子供達の異論の声は全て無視。
以来、祖父は彼女の為に彼女だけの離れを作り其処に住まわせているという事だった。





「錬金術師??あんなに正々堂々肖像画まで飾りやがって、一目瞭然じゃねーか。年を考えれないのか?」
愛人類である事は誰の目から見ても明らか。
それを戦人は本人の横で言う。ベアトリーチェは目を細めて戦人を見た。

「それは妾にいっておるのか?」
「いっひっひ・・・あんたにじゃねーよ、あのジジイにいってんだ」
「ふむ、ならばよい」

久しぶりにあった従兄弟達と同じくらい戦人は滞在期間中を眼前のベアトリーチェと話して過ごしていた。
従兄弟達曰く、使用人以外と喋らない、会話をしない離れで引き篭もってばかりだというベアトリーチェという人間はその話は間違いではないのかというくらいに戦人に喋りかけ楽しそうに笑っていた。

ベアトリーチェ、ベアトリーチェ。
戦人は何処かで聞いた事ある名前なんだよな。と考えながら空中で文字を書く。
「【辺後里知恵】って書くんだろう、お前の名前」
「・・・お主らと一緒にするでないわ」
その軽口にベアトリーチェは上目使いで戦人を睨んだ。
戦人はいっひっひといつものように楽しそうに笑った。
最初に挨拶をしてきたのは向こうだ。
喋りかけるぐらいは構わないだろうと何度か喋っているうちにいつの間にかお茶の相手までする仲にまでなっているから不思議なものだ。
紗音が入れてくれた紅茶を持った。いい匂いだと思う。
銘柄は分からないが柑橘系の匂いが漂い暖かい液体が喉をつたっていくのが分かった。
場所は来賓室でいつも会う。彼女の離れにもゲストハウスへも向かわない。
親族達が彼女と擦れ違うと皆が複雑そうな顔をしていたのは仕方ないだろう。
「紗音、お茶を入れるのが上手くなったようだの」
ベアトリーチェが語りかけると紗音の手がぴたりと止まった。
「・・・・ありがとうございます。ベアトリーチェ様」
その声は少し低くその手はかたかたと震えていた。
戦人は不振に思って紗音の方へと顔をあげる。
「おい、大丈夫か、紗音ちゃ・・・」
言葉を言いかけた時に紗音が戦人の方へ向き直る。
「戦人様、気がついてください、これは」
「家具、黙れ、寡黙であれ」
ベアトリーチェが紗音の言葉を遮断させた。紗音はそれに従うように頭をさげて去っていった。
「お・・・・お前な、家具ってなんだよ。大体便宜上とはいえお前も使用人なんだろ」

女はくっくっくと押し殺したような顔をで笑う。
「まぁ間違ってはおらぬな」
「正解だって事だろう。いちいち嫌な言い回し方するんじゃねぇよ」
その言葉にベアトリーチェは軽く笑い戦人の言葉を肯定しない。
「おいおい、あんまり聞き分けがないなら、その胸を揉み倒して無理矢理言う事をきかせるぜ〜〜〜〜?」
にやにやと低俗そうな笑みを作りベアトリーチェの胸の方へと目線を向けて口元を吊り上げる。冗談を含めての笑いだったがベアトリーチェは何処かきょとんとした顔をしていた。
そしてその後戦人の手を取り自分の胸へと押し当てていた。

「したければ、すればよかろう?」
「・・・・・・・っ」

反応に遅れたのはあまりにもその動作が自然で何も可笑しい事などないようだったからだ。
戦人は顔を真赤にさせてその手を払い除けた。
そして驚きの表情でベアトリーチェを見ていれば「ああ、なるほど」とベアトリーチェは楽しそうに目を細めて戦人に詰め寄った。

「女にこのように触れるのは初めてか戦人」
「ばかっ・・ちっげーよ」
顔を背けつつ女を睨む。
「お祖父様と兄弟になるのが嫌なだけだぜ・・・・」
「これはこれは・・・・怒らすのは得意とみた」
ベアトリーチェは冷静に受け答えをした。
「そのようなコミュニケーションがとれるのは年齢や外見。
相手とみるからに釣り合いがとれぬ間だけ、そなたのような年頃の男に言われても真偽を疑うか冗談として分かっていても相手は気になるぞ?」
けっけっけ、と意地悪く笑い声をあげつつ戦人の様子を見ている。
外見では自分とそう大差のないように見えるがその口調とやけに落ち着いた素振りから時折眼の前の女がやけに年をくっているのではないかと戦人は思わざるえなかった。
そう考えていたら必要以上に近くにその顔があった。

ゆったりと唇と唇が重なり離れていく。
戦人は何処か呆けた顔のまま再び離れていった顔を見ていた。


「・・・・・・・・俺、初めてだったんだけど」
「くっく・・・安心しろ、妾もだ」

絶対嘘だろう!!!それ!!!!!


戦人は心の中でだけ叫んだ後で深い溜息をつきその肩に手を伸ばす。

男としてやられっぱなしというのは如何なものだ、と考えたからだ。
猫のよう鋭い目で見た後にベアトリーチェは答えるように猫のように体を摺り寄せてくる。
上半身を重ねてその唇に再び口をつけた。
柔らかいと思った後で隙間からするりと舌をもぐりこませた。
頭に手を回して触り心地のいい髪を指で触れながら舌を絡めて吸う。
後は先程飲んだ紅茶を味わう事に集中。
甘い、なと感じながらも。
頭の芯が痺れるのを感じながらやけに高い心臓の音を聞き、次にどうしたらいいか戸惑いつつも口内の中で舌を動かした。これでいいのだろうか、溶けそうな程の熱さとあがってきた息に耐えれなくなり僅か口を離そうとするとベアトリーチェの方が手を伸ばしてきてろくに息も吸えないままより深く口が重なる。
「ん・・・っ・・・ぁ・・・」
酸素不足となり苦しさから涙が目尻にたまる。
堪らなくなり戦人はその肩を叩いて離れろと合図を送った。
ようやく長いキスの後でベアトリーチェが体を離すと戦人は酷く咳き込みながら酸素を求めた。

「お、まえな〜っ」
「そなたが奥手なのが悪い」

ベアトリーチェは一指し指をネクタイにかけてその首筋をべろりと舐めた。
生暖かいざらざらとした感触が神経が敏感な場所を刺激し戦人の背中を振るわせた。
するすると黒のネクタイが緩み独特の開放感を感じた。
喉がひくりとなるのを感じた。
戦人はその手を握って止めて逆にベアトリーチェを押し倒す。

随分と、温かみに飢えていたような気がした。

上着を脱がしシャツの隙間から手を入れて柔らかな乳房に触れる。
直接肌でその柔らかな感触を感じる。
シャツの下、盛り上がっていた胸部分の布地の下で手を蠢かす。
動きが激しくなるにつれてボタンがとれる音がした。
「・・・っく」
そのたびにベアトリーチェの体がびくりと動いて、そして目を細め、軽く戦人を睨むように見て口元を吊り上げていく。
蠱惑的なその表情に生唾を飲み込んだ。
ベアトリーチェが全体で抱きついてきたのでもう片方の手を太腿に伸ばし支える。スカートの下の布地に触れる。
あ、やばい、と戦人は吸い付いたように離れなくなった手と離れるタイミングを見失ったと流れるまま体を絡めていく。もう一度キスをしようと、目線を女に向けた時だった。
尖った歯が見えた。自分も八重歯が目立つと思うが女のそれは明らかに尖っている。
ぞっと、頭の中でその歯で首筋を噛まれる想像をした。
頭に冷水を浴びせられたように痺れていた脳がクリアになっていく。
手を離してそっと体を椅子に下ろしてから身を離した。
戦人は深呼吸のような息をつき定まらない視界でベアトリーチェを見ていた。

乱れた服装のままベアトリーチェは物足りなさうに戦人を見ている。

「如何した」

その赤い唇が動き言葉を紡ぐ。
それだけなのにびくりと肩が自然にあがった。
歯が尖っている、などという事はない。自分の見間違いだと分かりつつも戦人の心音は高い。

「い・・・・・っひっひ。もう一度言う。お祖父様と兄弟になるのはごめんだ」
戦人は適当な言葉で誤魔化しつつ流れる冷や汗が気づかれないようにと思った。
ベアトリーチェは少し納得がいかなかったようで神妙な顔付きになっていた。
しかし、戦人が「否定はしないんだな」と呟くと楽しそうに笑った。

正直な所、戦人は右代宮をまた出て行くつもりであったしあまり眼の前の女と仲良くなるわけにはいかないと思いなおしていた。
『じゃないと、俺の六年はやっぱり無駄になる』
ベアトリーチェはシャツを寄せた後で戦人に近づき軽く額にキスをした。
額に、キスというその行動が戦人をなんだかくすぐったい気分にした。
「そなたがした事に何一つ無駄はない」
一瞬、心を見抜かれたのかと思いベアトリーチェを驚いたように見た。

「おやすみ、戦人」

しかし彼女はそれ以上は何も言わずに慈しみを持って囁いた。
耳に残る声が何処か暖かった。

安堵を貰った気がした。





カチ、コチ


柱時計がボーンボーンと間抜けな音を12回響かせて時刻を告げる。
戦人はソファーに腰をかけてぼんやりと天井を眺めていた。
あの後も自室に帰る気分ではなかったので大広間のソファーに腰をかけていた。
眠れない。戦人は手を伸ばして豪勢なシャンデリアが灯る光にかざしてみた。
久しぶりに酷く、穏やかな気持ちだった。


「うー!!」

その視界に真里亞が映り込んだ。

「うをっ」
いきなりの事で驚き上半身を起こす。

「こんな時間まで何してんだ」
戦人が戸惑いつつ真里亞の方へ向き直ると彼女は「戦人を探しにきたー」と無邪気そうに笑い戦人の手を握った。

「それでゲストハウスから一人で此処まできたのか」
少し感動を覚えつつその手を握り返す。
「いっひっひ、嬉しいぜ、真里亞」
緩む頬で立ち上がり帰ろうかと真里亞の顔を見た。
「きひひひひ、そうだよ、戦人が道に迷わないようにね」
真里亞が目を細めてあの独特な嫌な笑いを零しながら告げた言葉。

道に迷わないように

心臓が嫌な風にどくりとなった。
「そ うか、ありがとな、」
乾いた声でそう告げて二人手を握ってゲストハウスまで帰る。
外は真っ暗だが空には一面の星が見えた。
体が大きかったり首が長い動物なら届きそうだなと、思いながら星の下を歩いて帰った。

戦人は明日、この六軒島から出る。
親族会議が終わったのだ


次の日、親族が帰宅の準備をしている最中、戦人は来賓室の前に立った。
いつものようにノックをして主からの返事が聞こえた後で扉を開けた。
煙管を吹かせながらベアトリーチェは戦人を見て緩やかに笑った。


「どうした」
「別れを告げにきた」
はっきりと言うと彼女は少し複雑そうな顔をした。
「そうか、寂しくなるの」
煙をとんとんと灰皿に落としてパイプを置いた。
そのパイプから出る煙は灰色。色がついているわけなどない。
ベアトリーチェは手を伸ばし戦人を引き寄せた。
戦人は黙ってその顔を見ている。
魔女はくっくと笑かけてやった。

「わかっておるであろう?そなたからの告白を待っているのだが?」

ベアトリーチェが静かに微笑んだ。
「それは気がついてやれなくて悪かったな」

戦人はぶっきらぼうに答えつつその細い肩に手を乗せてその瞳をゆっくりと見つめる。
吸い込まれそうだなぁ、とか、美人だよなぁとか、色々と思いながらもこの女の思い通り愛の言葉とやらを吐く事は酷く躊躇われた。
何故だろうか、戦人の中の何かがそれは悔しい事だと言うのだ。
戦人はしっかりとその思いを噛み締めた後でベアトリーチェを見た。

「お前は、」
ベアトリーチェは楽しそうに表情を歪めてこちらを見ている。
「お前は・・・・俺が持っているアダルトビデオに出てくる女優に似ていて、素敵だ」
そう一気に告げた。ベアトリーチェは呆けたような顔をした後でくっくっくと大きな声で大きく笑った。
そして暫くして笑いを収めた後で口の端を吊り上げる。
「それはなんとも・・・女を怒らす最低の口説き文句だなぁ、右代宮戦人ぁ・・・〜〜〜?」

戦人はそれでも一泡ふかせてやったような気分になり笑う。
手を伸ばしてその額に口をつけた。

「また、来るから」

自分でも驚くべき言葉だった。
六軒島を、右代宮に自らもう一度赴きたい、そんな気分になるとは。
ベアトリーチェは苦笑して手をひらひらとふった。
それだけで今は十分だと戦人は思った。







戦人は船着き場まで歩くともう一度六軒島を振り返った。そして船の方へと足を伸ばした。


うみねこの声が、何処か近くに聞こえてくる気がした。











一巡世界で・・・










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