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●楼座と真里亞と戦人
●EP2終わった後ぐらいの話





真里亞が母親の手を自分から握らないのはなんでだろう。
とぼんやり考えていた。
「拒絶されるのが怖いのかもね」
譲治が呟いた言葉に彼女のシャツの隙間から赤い痣みえて息を飲んだ。











そうだ。
風が凪いだら彼女を探しにいこうと思っていたんだ。



戦人は目を瞑りその突風を身に受けた。
大きく吹かれた風が去った方向へと顔を向けた。
暫くぼんやりとその風が過ぎ去った方向、落ち葉が回る様、残り風が頬を撫でる感触を感じていたのだが。
ふっとある事を思い出す。
そしてそれが徐々に明確になるにつれて戦人は驚く。

『なんで忘れていたんだ、俺は』

頭の中で思い出した事柄に戦人は愕然とした。
急いで周りを見回す。
やはりいない。
その視線に疑問に思ったのか譲治が心配そうな顔で戦人を見る。
「どうしたんだ?戦人くん」
「・・・兄貴、真里亞・・・・真里亞は何処だ?」
戦人の言葉に譲治は僅か首を傾げる。
「?誰のことだい」
疑問が混じった言葉に戦人は呆然とする。その様子を横で見ていた朱志香も何事かと覗き込んでくる。
「楼座叔母さんの娘だよ!」
「何いってんだよ戦人。伯母さんに子供はいないだろう?」
朱志香が当り前のようにそんな事をいう。
「・・・・真里亞がいるだろうが」
冗談だろう?と苦笑いで二人を見るのだがそれは従兄弟達も同じようだった。
譲治は困り果てた顔で朱志香は呆れた顔で戦人を見ている。

「真里亞って・・・誰だよ」

朱志香の言葉が引き金だった。
戦人は子供部屋として割り当てられていた部屋を飛び出して館の方へと向かう。
薔薇園を通りすぎる際にはちゃんと真里亞の薔薇もあったというのにそこに真里亞がいないのだ。

「楼座伯母さん!!」

館の扉を開けるとそこには自分の親を含んだ大人達が立っていた。
その中心に楼座が頭を抑えて震えていた。

「ん、戦人?おいおい、部屋にいろっていっただろうが」
留弗夫が戦人に近づいたが戦人はその横を通りすぎて楼座の前に向かう。

「真里亞はどこにいるんだ」

楼座は震える瞳で戦人を見た。

「戦人くん・・・真里亞が分かるの?」
「分かるも何も・・・伯母さんの子供だろう?!」

戦人の叫びに楼座は泣くのではないかという程顔を歪ませた。

「貴方もなの?戦人くん、楼座に子供はいないし右代宮家に真里亞という名前の親族はいないわよぉ?」

絵羽が少しうんざりしたように呟いた。
この様子からして自分と同じようなやりとりがここでも行われていたのだろう。
何度もこの人数で諭されたのだろうか。
誰もが右代宮真里亞の存在を忘れてしまっている。
楼座と戦人を除いて。


「私、気づいたのに、黄金なんていらない真里亞さえいてくれたら、私は真里亞を愛してるからあの子さえいてくれたらいいって気づいたのに。私が・・・いらないって、いったから」

楼座の声が震えていた。
戦人は少し狼狽するが直ぐに手を引いて周りの大人達を掻き分けて外に出る。

「とりあえず、探すぜ、伯母さん」
「探す・・・何処を?」
「決まってる、あいつがいそうな所だよ」

戦人は一人楼座を置いて目についたドアから乱暴に開けていく。
部屋を見回しては次の部屋、次の部屋へとその姿を探して。
確証があった、
必ず何処かにいるという。

広い屋敷の中を歩いていく。
その足取りは6年ぶりに来た建物ではなく見慣れ、歩きなれたそれと変わりなく。

部屋を開けて辺りを見回す。
『此処にもいないか』
焦りが生まれる。本当に真里亞はいるのだろうか。
二つの意味での不安が胸が生まれてくる。


後ろを振り返り立ち去ろうとした時だった。

ガタン、と机が揺れた。
戦人はゆったりと振り替える。
西洋の机の下、スカートの端が見えた。



、いた。

戦人は心の其処から安堵の息をつく。
近づき目線を下げると其処に確かにいた。
他の誰もが忘れていようと実在する存在として其処に右代宮真里亞はいた。
震える手でこっちにおいでと意思表示。

しかし真里亞はちらりと視線を向けただけで一向に動こうとしない。

困り果てたのは戦人だ。
無理に引き摺り出していいものだろうか、
本当はそうしたい。
小さな体を抱きしめて震えを止めるかのように強く抱きしめてその体温を感じて存在を実感してもう二度と手放さないと誓いたかった。

「真里亞・・・・」

動かない。動けない。
机の下の影がまるで境界線のように見えた。
深く大きい溝があるように近づく事を躊躇わせた。

「なぁ、真里亞・・・。楼座叔母さん・・・・真里亞のこと愛してるって」


真里亞が顔をあげた。
その大きな瞳の下は赤く腫れていた。

「・・・ママが?真里亞のこと」


「ああ、愛してるって」


そう宣言した後で戦人が自分が彼女に向けた言葉でもないのに少し照れくさそうに笑って手を伸ばした。

「だから、戻るぞ」
「うー・・・でも、ママ、もう帰ってくるなって言った。ママ、私がいるからお父さん帰って来ないって言った、ママ真里亞より出張に行っているお父さんや見知らぬ男の人と一緒にいたいんだよ。帰ってきてほしいんだよ?だから真里亞は真里亞が必要なママを見つけるの。そしてそのママの所にいかないといけないの。戦人が信じないからだよ。だから真里亞また此処に戻ってきてる」

戦人は不思議そうな顔で真里亞を見る。
別の場面にいた自分がどうしてその言葉を知っているかとか彼女が言う別の母親なんの事かは分からないが。
後ろから聞こえてくる足音を耳で聞きながら戦人はゆったりと口を開く。


「真里亞、お前が言ったんだぞ。悪いママでもいいママでも真里亞の母親は一人しかいないって」



真里亞の目が驚きで丸くなった。

「その母親が迎えにきてんだぞ?何処にいくっていうんだお前は」


戦人の後ろで荒い息が聞こえる。
振り返るまでもなかった。
楼座が整わない呼吸のままで叫んだ。


「まりあ!!!!」

叫んで身を屈めて戦人が突破出来なかった境界線を簡単に潜り抜けてその小さな体を無理矢理に机の下から引っ張り出して立たせてその瞳を見て震える唇でもう一度「真里亞〜」と呟いて声をあげてわんわん泣いてごめんなさいをいつものように、いや、いつも以上に大きな声でまるで子供のように繰り返した。
小さな子供が親に怒られて自分の失態を泣いて謝るかのように
もしくは迷子になっていた子供が母親を見つけて安堵から泣き叫ぶかのように。
どちらが子供か分からない程に声をあげて泣いた。
真里亞のその背に震える腕を回して抱きしめてその頭に自分の頭をゆっくりと伏せた。
戦人は此処は二人にしておくべきかと立ち去ろうとしたが真里亞が服の端を握ったので苦笑いをして足を止めた。




「でも皆、真里亞の事忘れてるんだよな。なんて説明するんだ?」
泣き止んだ楼座と真中に真里亞を入れて真里亞が手を伸ばしたので三人で手を繋いでぼんやりと館に戻る為に道を歩いていた。
「何の問題もないわ。普通に私の子供として紹介するんだから」
父親の事はどうするのだろう、ぼんやりと思って楼座の顔を覗きこむとその心中を見透かされたのだろうか楼座が戦人の記憶の中の笑みと変わらぬ微笑を見せた。
「なんなら、戦人くんが真里亞の父親になってくれる?」
「うー?戦人が真里亞のお父さん??」
「計算して俺が9歳の時の子供になっちまうぜ」
「あら・・・留弗夫兄さんの子供である戦人くんなら皆納得するわよ」
「うをー・・・洒落になんねぇ」

戦人が苦笑しつつ真里亞に視線を落とす。
真里亞は答えるかのように邪気のない笑顔を返した。

三人仲良く手を繋いで夕暮道をのんびりと歩いていく。
黄金卿でしか手に入らないと思っていたそれはあまりにも近くにあったのだから驚いて。少し・・・夢が壊された事に拍子抜けして寂しくて。
しかし嬉しくて。



真里亞は強く両手を握った。









さよならを待つ貴方の






ただいまを待つ僕


(そして貴女にお帰りを!!)





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