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●従兄弟達ののんびり会議話














【魔女に抗い隊】





「なんだこれ」




扉の前に貼ってあった張り紙に戦人はぼんやりと呟いた。
扉を開けるとそこには見慣れた従兄弟達がなにやら考え事をしているらしく誰もが難しそうな顔をしている。

「おい、皆して何してんだ」
「あ、戦人くん、いいとこに来てくれたね」

譲治が温和な顔で戦人に微笑みかける。
その横を真里亞も手を上げて戦人を迎えいれようとする。

「今、皆でねどうやったら魔女に勝てるかアイディアを出していた所なんだよ」
のんびりと語る口調は柔らかく、まるで世間話でもしているみただった。
「だ、駄目だぜー!!譲治兄さん!」
朱志香は急いで譲治の口を手で塞ぐ。
もがもがと譲治の言葉が飲み込まれる。

「こいつはベアトリーチェ様の下についてるんだぜ!だからばらしちゃ駄目だ!!」
朱志香が叫んだ所で戦人が「はぁ?!」と心外と言えば心外な言葉に驚く。

「いつ!俺があいつの下についてる事になってんだよ!!」
朱志香は目を細める。
「私は知っているんだぜ!夜中の来賓室でお前がベアトリーチェ様と会ってる事とかお前がベアトリーチェ様の事を『ベアト』って呼んでる事をな!!!!」

意義あり!!
・・・ではなく復唱要求!!!のポーズで朱志香は戦人を指差す。

「あ?・・・・・え、ちが、あれは」
戦人は一瞬答えにつまる。そこを朱志香は見逃さない。
「動揺している事が揺るがない事実じゃねーか!この人間側の裏切り者ぉおお!!!」
「ちっげーーーよ、あれは全部あいつが無理やり・・・」
「戦人、男なら潔く認めたらどうだ!」
「・・・お前、俺が信じられないのかよ!!」
戦人が朱志香の目をじっと見た為、朱志香は言葉に詰まる。
「はい、そこまで二人とも落ち着いて。ほら流石に朱志香ちゃんが悪いよ」
仲裁に入った譲治の言葉に二人は言葉を沈める。
「・・・悪かったよ戦人」
「いひひ、まぁいいぜ・・・。いや、なんていうか、俺も疑われる原因があったわけだしな」
お互い苦笑しあって仲直り。
譲治も笑顔で頷く。

「・・・って!疑われる原因ってなんだよ!!お前やっぱり魔女と通じてんじゃねーのか!!」
「お前な!!人がさ折角許してやるっていってんのになんだよその態度!!胸もむぞこら!!!」

と、また喧嘩が始まる。
真里亞が横で応援をするかのように手を突き出してうーうーと笑っている。
どうこうも人間側のチームワークが悪いと譲治は溜息をつく。




「チェス盤をひっくり返すぜ」

しきり直しと言わんばかりに戦人が喚く朱志香を落ち着かせて説得に試みている。

「俺が魔女のスパイだと思われている、これを覆すぞ」
「どうするんだい、戦人くん」
「簡単だ、俺があいつの弱点を見つけるんだよ。そしたら疑いもはれるだろう」

朱志香は納得したように頷く。
「でも具体的にどうするんだ」
その言葉に戦人はつまらなそうな顔をする。


「直接聞けばいいだろう、あいつに」









「ベアト、お前の弱点ってなんだ」
ベアトリーチェは彼女専用の椅子に座ったまま珍しく間の抜けたような理解不明な者を見る目でそう聞いてきた戦人を見た。


それは直接すぎだぁああああ!!!!!


他の従兄弟が心中で突っ込みながら扉の影から隠れて二人を見ていた。

「なにをいっておる、お主」
酷く冷めた目で戦人を見る。

「だから弱点は何だよ」
「痴れ者が、言うわけなかろう」
煙を噴かせて呆れたように息をつく。
「妾は今機嫌が悪い立ち去るがいい」
手をひらひらと振り追い出すポーズ。

「うー・・・ベアトリーチェは蠍が苦手ぇ〜」
と、いつの間にか二人の間に入ってきた真里亞が手にブレスレッドを持って掲げる。
一瞬ベアトリーチェがびくりと体を強張らせたが直ぐに余裕のある笑みを見せてそのブレスレッドを取り上げる。

「今は力も戻っておる、このようなものは聞かんぞ〜真里亞、修行のし直しが必要だなぁ〜」
「うー!ベアトじゃあ新しい魔法陣教えて〜」
楽しそうに笑う真里亞の頭を撫でながら戦人の顔を凶悪に見つめる。

「残念そうな顔をしているな戦人」
「そりゃあ・・・お前が苦い顔をしていたもんだからな、それ」
「くく・・妾も随分と舐められたものよのぉ・・・こんなにも気安く喋りかけられるとは、妾に何をされてきたか忘れたわけではあるまい・・・・?」


場の空気が悪くなる、譲治はこのままでは戦人が危ないと部屋に乗り込むべきかと考える。


「別に、俺はお前を信じてないからな、何をされても所詮なかった事になる、だから怖くねーよ」
戦人は淡々と喋りかけながら腕を組む。
その目は怒りの色が宿っており何所までも冷たい。

そこで一瞬ベアトリーチェの顔が歪む。
まるで、悲しみが混じっているかのような。

『あれ、ひょっとしてあの魔女は』

譲治が驚いているとその横を朱志香が飛び出していった。

「もういい!戦人!わかったからよ、もういい!」

ベアトリーチェと戦人との間に入り戦人を庇うように前に出る。

「お前が魔女の手下じゃないってわかったから、そういう危険を冒す事までしなくていいぜ!私は嫌だ、お前や、嘉音くんがベアトリーチェ様に何かされるのは、弄ばれるのはもう嫌だ、沢山だ」

朱志香が目に涙をためて叫んだ。
その際、感情が高まってひくっと喉がなっている。
喘息が出る悪い兆候だ。
慌てて譲治も飛び出て必要な物をその手に渡す。

「くっくっくっ・・・そうやって自分達の悲劇に嘆いておれば、お前らはそれでよい」

悔しい、と朱志香は思う、何でもいいこいつの弱点を知りたいと。
「だから見つければいいんだよ、こいつの弱点を」
戦人は一歩足を前に出す。
「でも弱点なんて・・・」

はぁ、
と戦人は仕方ないな、と重い息をつく。
「ベアト」
戦人はベアトリーチェの肩を掴みその目を覗き込むように見つめる。
ベアトリーチェは突然の事に僅か驚き手にもっている煙菅をぽとりと床に落とす。



「好きだ」



口をパクパクとまるで金魚のようにベアトリーチェは上下させた。その目は大きく見開いている。

「ベアトリーチェ、愛してるぜ」

続けて言いながらその髪を一房手にとり恭しく口をつける。
ベアトリーチェは目を彷徨わせながら事態を飲み込めずにいる。

他の従兄弟達もいきなりの戦人のその行動に皆一様に驚いている。

ようやく頭が追いついたのかベアトリーチェは戦人を見返す。

その顔はいつも上から人を見下す笑みではなく悪魔で対等な者に対する真摯な表情。

「・・・・戦人ついにお前の口からその言葉が聞く事が出来るとはな」

ベアトリーチェは感激に目を細める。
そこで朱志香も気づく、あれ、この魔女ってひょっとして・・・と。
魔女は手を伸ばしその頬に触れながら口付けをしようと近づける。







「なぁーーんちゃって」



戦人が両手を離して冗談、というポーズをとる。

場が固まる。

「そんな事あるわけねーっての、首輪つけられて家具にされて喜ぶかよ、どんな特殊な趣向の持ち主だよ、それ。俺はいたってノーマルだっての、千年を生きる悪趣味婆の特殊プレイに付き合ってられるかよ」

無表情で淡々とそこまで語った後に従兄弟達の方向へと振り返る。

「と、まぁなんだ、俺的にはこんな感じで精神攻撃とか出来たらいいと思ってたんだけどよ。なんかこいつが傷つくような言葉ってあるかな。なぁどう思う?」

従兄弟達は皆足を後ろに後退させている。
「ん、なんだよ」
不思議そうに戦人が首を傾げる。
従兄弟達は『近づくな』オーラを出しながら戦人から距離をとる。
その後ろでベアトリーチェがゆっくりと微笑んでいる。

「戦人」
「ん?」

「・・・・千年を生きる悪趣味婆の特殊プレイとやらに・・・付き合ってもらうぞ?」

黄金の魔女はその後ろに無数の光り輝く蝶を連れて腕を組み微笑んだ。
「きゃああああ!!!らめぇえええええ!!!!!」という戦人の悲鳴があがる頃には譲治は脇に真里亞を抱えて朱志香はひたすら全力疾走で逃げていた。



「なぁ譲治兄さん!戦人ってひょっとして!!」
「うん、意外だけどかなり鈍いみたいだね・・・!」
「うーうー!戦人鈍い!戦人鈍いーーー!!」


真里亞が楽しそうに声を出しながら手をばたつかせる。
譲治は落とさないように持ち直してとりあえず自分達の身の安全の為に逃げる事にした。




とりあえず魔女をほんのちょっぴり傷つける事には成功したので今回は人間勝利という事でいいのではないだろうか。














僕ら正義の名の下に!









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