●魔女×戦人
●微グロ










土の中では窒息してしまう。生きたまま葬られないように、身体を外に出しっぱなしにしておいて下さい。







「けほ…」
強烈な甘い匂いに戦人は噎せた。うっすらと目を開けると視界一杯に鮮やかな赤や黄色が見えた。瞬きを二度三度繰り返して歪む視界が定まるのを待つ。
青の空が陰り自分の頬に僅かな重み。黒猫が自分の上を優雅に通り過ぎていったのだ。
横目でそれを見届けた後で戦人は上半身を起こした。
体に積もっていた花びらが落ちて行く。虚ろな目で辺りを見回す。

『薔薇園か、ここ』

肺一杯に甘い匂いが満たされ頭が揺らぐ。
『、なんでこんな所で寝てるんだ』

立ち上がる。気温は寒くないとは言え上のスーツも着ずにベストとシャツのみ。外で寝るようなポカポカ陽気というわけでもない。

「げっ…ポケットにまで詰ってるじゃねーか…」

ズボンのポッケをひっくり返すとひらひらと落ちていく。花びらを目で追った。


『あ、れ、なんだ…?』


今の花びらどこから落ちた?
疑問を感じつつその花びらに触れようとした。
そこでクスクスと笑い声が響いたので戦人は振り返った。
いつの間にか薔薇園のテラスに机と椅子が並べられており其処にお茶とお菓子が並べられている。
座っているのは長い黒髪の少女。
と、判断したのは背丈と顔立ちからだったがその細められた蠱惑的とも言える目を見ていると自信はなかった。
「俺と、何処かで会った事あるか?」
声が我知らず低いものとなった。口調も幼い者に対するものではない。
頭が警戒を呼びかけている。
「あるわ。忘れたの?」
微笑みながらティーポットを傾けてお茶を自分で注ぐ。
戦人は眼前の少女がそういうならきっと会っているのだろうと変な納得をする。
年は真里亞と同じくらいか年下だろうか。
それを思ったらふと思い出した。
こんな所でのんびりしている暇はなかった。

戦人は屋敷に戻ろうと足を上げる。
しかしいつの間にか横にいた少女がその服の端を掴む。
「何処に行くの?」
「何処って、戻るんだよ!なんかしらねーけど大変な事になってんだよ」
少しずつ記憶を取り戻す。
部屋で霧江と話し込んでいる時だっただろうか。真里亞の叫び声のようなものがあがった。
ふざけてあげているような声ではない。
戦人が驚いて霧江を残して部屋から出て楼座達の部屋のノブに手を掛けた、その後に頭に鈍い衝撃を受けた。
そこかの記憶はない。
そのままこの薔薇園につれてこられて放置されていたのだろうか。
「後ろから誰かに殴られたんだ、くそ、一体誰だ!」
そう思いながら後頭部に触れる。
痛みはあるが特に傷といった傷にはなっていないようだ。
「いいじゃない、別に」
「いいわけねーだろ!霧江さんだって置いてきたままなんだよ!」
そこで戦人は咽て咳を出す。いつもにまして強い華の香りが言葉を出すたびに肺に満たされるようで気分が悪かった。

「・・・じゃあ、別にどうでもよくなるような事でもしましょうか?」

何?
戦人が聞く前に幼い少女の体が戦人に飛びついてきてその肩にぶら下がる。
バランスを崩した戦人は驚いた顔のまま地面に倒れこむ。
その最にとっさに傷つけまいと彼女を抱きしめ衝撃に耐えた。
地面に押し倒された戦人混乱する頭で黒髪の少女が自分の上に乗ってそのまま長い髪と共に顔を下げたのに気がついた。
息を呑んだのと同時に彼女の舌が自分の鼻を猫のように舐めた。
「な、」
驚きの声を出す前に少女は戦人の耳に息を吹きかけつつ軽く噛んだ。
甘い痺れのようなものが駆け抜けて戦人は身震いをした。
焦った目で彼女を睨む。戦人の苛立った顔を見て少女は仕方なさそうに息をつく。
手を伸ばして頬を掴む。

「戦人は此処で僕と一緒にいるのですよ!」
そう言って「にぱーっ」と急に年相応の笑顔を向けられた。

毒気を抜かれた。


自然と怒りが抜けていく。
軽く笑いが込みあがってきて思わず笑う。
笑い終わった後でその肩を静かにのけて自分から落とす。


「ん・・・本当に悪いけど、俺はいかないといけねーんだよ。
また今度、時間がある時にならいくらでも相手してやるからよ」
もてる男も辛いぜ、などと戦人は笑いながら呟く。
「・・・そう?今回の貴方は今までにないくらい暇そうだけど」
戦人はその言葉に不思議そうな顔をする。
彼女はもうこれ以上誤魔化す事は無理かと溜め息を落とし細い指で戦人を指す。

「ならみてみるといいわ」

正確には戦人の後ろ。
戦人が先程まで倒れていた薔薇園を。
戦人は怪訝に眉を寄せつつも少女に促されるまま薔薇や花を掻き分けつつそこに目を落とした。
その際にまだ側にいた黒猫がびくりと震えて逃げて行く。

戦人の目が少しずつ見開いた。


「理解した?」


そこで初めて戦人は何故こんなにも肺の奥にまで薔薇の匂いに満たされているか、とか痛む頭痛のわけとかそれらの原因に気付く。


「おいおい…これは…反則…だろ」


戦人が今は此所にいない魔女について我知らず呟いた。
そして今眼の前にいる少女が誰だったかも自分が何度この屋敷でこういう出来事を何度か繰り返しているのかもゆっくりと思い出していく。
そうだ、この黒髪の少女の名前はベルンカステル。
ぼんやりと思い出した後でもう一度眼の前の光景を見る。
それにしたってこれはない。戦人は重い息をついた。


「運命のルーレットは平等よ。それとも貴方、自分は特別だとでも思ってた?」

黒髪の魔女は外見にそぐわない妖艶な笑みで馬鹿にするように笑った。
「これで貴方も魔女を信じざるえれないわね」、と。


「…いや、特別とか、そうじゃねーよ。ただ…俺はあいつに、ベアトリーチェに」
少しばつの悪そうに戦人は頭を掻く。


「特別、好かれてる自信はある」


真面目な顔でやけに自信を持って言い切る戦人にベルンカステルはきょとんとした顔になる。

「だから俺が早くこんな風になるのはおかしいんだよ。あの魔女も楽しみは最後にのけておくだろう?」

戦人は言いながら自分で言葉を確認しつつ頷く。
まるでよく知っている知人を語るかのように恐怖の対象の事を語るのだ。

「だからこそ俺がこうなってるのは魔女の仕業じゃない。誰かの理由、俺が邪魔になった人間の仕業だ」

戦人はにやりと笑った。

「だから魔女なんてものはいない」

ベルンカステルは呆れた様に溜め息をつく。その理論で言えば魔女を認めた上での否定。
「…むちゃくちゃね」
言い切った後に魔女のその顔を見て少し戦人は満足する。
しかし酷い虚無感だ。気力を失われている事に変わりはなかった。
そこで気づく。
そうか、この魔女は自分にこれを見せさせない為に止めてくれたのだな。
ぼんやりと感謝の意味を込めてベルンの頭を軽く撫でた。

「何・・・?」
「おっ、誘ってきたわりには可愛くない反応だな」
「・・・悪かったわね」

顔を逸らされ手を払いのけられてしまった。
頭を撫でられるのは嫌いだったのだろうか?


その言葉の後に戦人は彼女が今まで座っていたお茶会の席を見て薔薇園を交互に見る。

「まぁ、そうだな、確かに今回は…もう休むしかなさそうだしな。
付き合ってやるよ」

諦めた様に仕方なさそうに息をついた。


「梅干紅茶でも…飲む?」

ベルンカステルがこちらの様子を伺うように促したお茶を見て上品なティーカップにこれはないだろうと苦笑。
名残惜しそう後ろに目を向けつつも踵をかえした。




後には突き破る様に自身を花壇に埋められた花、湧き上がるように満面の花びらで満たされた肺は園芸の作品のようで。
頭から流している血に庭は染まっている。
自分の体。
優雅にそして静かに朽ち果てていた。













金髪の魔女は二人のお茶会が終えた後の薔薇園の中をとぼとぼと歩いていた。
儚げな横顔は美しく、長い睫毛は伏せて影をつくっている。
布と布の擦りあう音が止む。魔女は口許を軟らかく吊り上げて優しく微笑み膝を折る。
探していた物を見つけたのだ。その頭を抱き寄せ朝露で湿った前髪をわけて彼女の好きなその瞳に口をつけた。
「………だ…っ…た…ぞ」
その目はまるで宝物を見つけた子供のように輝いており愛おしげに細められる。
ぐにゃりとした肉の感触を抱き抱える。
「酷く退屈だったぞ・・・・・愚か者が・・・・」
者から物になった体。
虚ろな瞳が空の色を映していつもころころと変わる表情が消えて特徴的な髪が朝露で降りてしまい大人しそうな印象に変わっている。
中性的な元来の整った顔が酷く美しく引き立っていた。

その体になだれ込むかのように抱き締めたなら彼女のドレスは赤く染まっていく。

しかし気にも止めない。首もとを緩め力ない体の衣服を乱していく。
露出した肌に口付けを落とし自分の肌と密着し擦りあわせていく。
冷たい体温と暖かいベアトリーチェの体温が混ざる。
「冷たい」
呟きながら反応のない口に齧りつき歯を立てる。濁って腐った鉄の味を舌で音を立てながらまるで極上のワインを呑むかのように味わう。
うっとりとした表情で柔らかな抱擁を続け胸元を緩め肩まで露出させ重ねあう。
荒くなる息と鼓動を除けば静かではある。安らかである
しかし声が足りないと感じた。
苦痛に耐える声が足りない、悲痛に嘆く声が足りない
たかが人間のくせに魔女に挑もうとするあの傲慢な声が足りない。

物足りなさを感じつつも彼女は目を閉じてまるであどけない少女のように顔を緩め大好きなぬいぐるみに抱きつくかのように目を閉じぎゅー・・・っとその体を抱きしめた。


















蓋も閉めずに何処に行くの?

(貴方の棺桶はここでしょうに)







冒頭文引用
ショパン【死の前日の言葉】





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