●ベルンカステル ×戦人















服を着させろ、
は、いベアトリーチェ様
膝まづけ、
は、いベアトリーチェ様
靴をお舐め、
は、いベアトリーチェ様
愛を告げよ
愛…してい、ます。
ベアトリーチェ様








ベルンカステルは酷く冷めたツマらない物を見るかのような目でその光景を只静かに眺めていた。
何を言われても惚けた様な半笑いで片言混じりに答える青年にかつての傲慢さや強い意志をもった瞳はない。
ベルンカステルは苛立ちを含めた息をついた。

ベルンカステルは彼に朧気になった記憶からもがき掴むように懐かしい匂いを嗅ぎわけ懐かしい記憶を形作っていたというのに。
何処か裏切られたような気分だったのだ。

「いかがなさった、ベルンカステル卿…」

優雅に微笑む黄金の魔女に問い掛けられ視線だけを向けた。最近彼女は手に入れた家具のおかげでいつも上機嫌だった。その家具の首は刺がついた首輪のせいで無数の傷跡。反抗するたびにつけられた傷は顔以外の至る所にあるのだろう。
「別に」
小さく呟き返すのだがベアトリーチェは目敏くその心中を察し鎖を引き手元に今最もお気に入りの家具を引き寄せる。
「ベルンカステル卿もこの家具が羨ましいと見た」

目を細め優雅に笑いながら人差し指で彼の首筋をなぞり愛しそうに名前を耳元で呼ぶ。「そうね、貴女がどこにいくにも連れ回しているから最近の評判よ…」
その言葉に満足したのだろう「くくく」と含み笑い。
「目の色も容姿も体格も人の中では一級品であったし連れ回して申し分ないのでな。
人であったときの態度から考えての今の柔順さは背筋を震わす快感ではないか、のう戦人…?」
「は…い、ベアト、リーチェ、さ、ま」
青年は懸命に言葉を紡ぐ。
含み笑いから狂った様に魔女は笑い転げる。
そしてその爪先に唇を触れさせる。
酷く満足した顔でベルンカステルの方へ向き直り笑う。
「ならば暫しベルンカステル卿にこれを貸してもよいがの」
嫌味を含めての言葉にベルンカステルは笑みで答えた。

「あら、ありがとう」

これに少しベアトリーチェは眉を寄せる。魔女にしては珍しくあまりこういう趣向を良しとしないベルンカステルの言葉が想像と違ったからだ。
「どうしたの?黄金の魔女、ベアトリーチェとあろうものが自らの言葉を撤回するの?」
「まさか」
含みのある笑いを落としてベアトリーチェはゆったりと細く細い手から手綱を離す。綱が地面にパサリと落ちた事に戦人の眉がぴくりと動いたが、変化という変化はそれだけだった。

「どうぞごゆるりと」
ベアトリーチェは薄く笑い静かに姿を消した。





さて、困った。

ベルンカステルは息をつく。ああ言った手前借りたはいいがこれをどうしろと言うのだ。
近付けばびくりと必要以上に肩をあげ反射的に怯えた。
ベルンカステルは苛つく心中を胸に人差し指を伸す。
「咥えなさい」
戦人はその命令になんの躊いもなくその細い指を咥える。ベルンカステルは不快そうに眉を歪める。

「…噛みなさい」

次の命令も間を置かずに戦人は聞き入れ歯をたてる。

「…もっと、強、く」

肉を噛む弾力を感じる。戦人はベルンカステルが僅かな痛みに目を寄せても命令に従い顎に力を入れた。
「…ん…ぁ…」
ベルンカステルの口から僅か言葉が漏れる。

ぷつ…

と小さく弾ける音がして戦人の口の中に鉄の味が広がった。
ベルンカステルは戦人の前髪を掴み指を抜き出す。
流れる血を見てベルンカステルは赤い舌で先程まで戦人が咥えていたチロチロと子犬のように指を舐める。
酷く煽情的な光景であったが戦人はぴくりとも動かない。

「以前の貴方ならこうなる前に指を離すわね」

そう言いベルンカステルは戦人の口に口を重ねる。自分の血を奪いかえすように。ねっとりと。
口を離した後で手を伸ばし抱き締めた。
その時の対応として戦人も習って彼女を抱き締めようと手を伸す。

「圭一」

しかしその口から漏れたのは自分の名前でない。

「圭一」
戦人の虚ろな目が僅かに見開いた。
「圭一…」
温かい体温。小さな頭は戦人の肩に埋まる。

「…ぁ」
反射的に動いた手を空中で止めた。
『…れ…俺は』
目の前には小さな女の子。
自分ではない誰かを呼ぶ女の子。戦人は自分の手に目線を向けた。



駄目だ
全然駄目だ



触れてはならないと彼女の為にその小さく細い体を力を軽く入れて突き飛ばした。
ゆっくりと呆気なく地面に倒れ込むベルンカステルの顔は驚きで満ちている。
「な、なに」
戦人の今は整っておらずばらばらに伸びてしまった前髪で隠れていた目は意志を持ち彼女を見ていた。

その口許は笑っている。

「………胸、が、たらない、か、ら、あと十年…たったら、また相手、をしてや…る、よ」




途切れ途切れの言葉。
意地悪そうにそう呟いて口の端を吊り上げた。
その言葉にベルンカステルの顔がかっと火がついたように熱くなる。
「ば、馬鹿にしないで、私はこう見えても貴方より何百年も永劫の時を重ねているのよ…!」

ベルンカステルが叫ぶがもう戦人の目は虚ろになっており虚空を見ていた。

ベルンカステルは重い息をつきその頭に手を乗せる。
魔女らしからぬ行動。
『まるで人ね』
ゆったりとその焔の色をした髪を指に絡ませながら撫でた。

その瞳に
その強い意志に
逆境こそ笑い震える自身を無理に誤魔化してでも立ち上がったその姿を

重ねたのは一体誰だったのか。

遠い昔。
遠い遠い昔。
繰り返しの世界で希望をくれたのは誰だったか。
永劫から抜け出したのちに僅かとは言え人としての生を与えてくれたのは誰だったか。
『りかちゃん』
ベルンカステルはその小さな手で戦人の頭を抱き抱える。戦人のほうが粗野ではあったが、その芯が良く似ていた。だからこそ、彼を期待してしまったのだ。
今度はピクリとも動かずその抱擁を受ける青年にベルンカステルは小さく「ふぁいと…おーなのですよ…」と呟いた。

勝手に落胆しているのは悪魔で自分の中に眠る彼の形状を風化させたくないと願う傲慢な我儘であり彼には酷く関係がない。



とても
迷惑な話だと言うのに。
























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