novel
2009年クリスマス記念 アヤテイ小説
12月24日。
世間はクリスマスという年に一度のイベントにわきたっているというのに、此処、バルスブルグ帝国第一区ホーブルグ要塞は違った。
――忙殺。
そう評するに相応しい状況が、ここ暫く続いている。
この時期は帝国内で催しも非常に多く、要人の出席するものに関しては、警備の為の兵の配置やそれに伴う膨大かつ煩雑な事務手続き、書類の作成が発生し、要塞に勤務する帝国兵達を苦しめていた。
――――
「ぁああ〜っ!もうイヤだ〜!!」
絶叫しつつ机を拳で叩き、駄々っ子の様に地団駄を踏むヒュウガに構う人間は、現在、このブラックホーク執務室には一人として居なかった。
何時もならヒュウガを叱り飛ばして仕事をさせようと躍起になるコナツでさえ、構っていられないと言う様に完全無視を決め込み黙々と書類を作成している。
それほどに、忙しいのだ。
そんなヒュウガを横目に見ながら、テイトは小さく溜め息を吐き出した。
(――、この分じゃ、今日明日中に仕事終わらせるなんて―――無理だよな…。)
心の中でそっと呟く。
――本当は、仕事などさっさと終わらせて、アヤナミと共に――二人だけで、上司と部下としてでは無く恋人として――過ごしたかったというのに…。
上層部が煩雑化させた余計な書類の山に邪魔され、残念ながらその思いは叶いそうに無い。
(……アヤナミ様……。)
かといって、職務を放り出す等アヤナミが許す筈が無いし、するとも思え無い。テイトは心の中で一度だけ愛しい人に呼び掛けると、モヤモヤとした思考を振り切り、目の前を埋め尽くそうとしている書類に取り掛かった。
―――――
テイトが書類提出を終え、長い廊下をふらふらと歩き、やっと辿り着いた参謀部の扉を軽くノックすると中からは予想通りの上官の声が応え入室を促した。
「報告書の提出は終わりました。後は…」
「テイト。」
「……アヤナミ様?」
報告を途中で遮られたテイトが、いぶかし気に問うと、目線で此方に来るよう促される。
とりあえず素直に従い執務机を回って椅子に座るアヤナミの隣へと移動すると、「ぅわっ!」
腰に腕を回され、そのまま膝上へと抱上げられてしまった。「アヤナミ様!?」一気に近づく紫紺の瞳にテイトは頬が熱くなるのを感じて、羞恥に顔を俯けようとしたが、アヤナミの手によって頷を捕らわれ、持上げられた為叶わなかった。「―テイト。」
「…っん、…ふ…。」
名を呼ばれると共に口接けられる。
情事の時のような激しさは無いが、子供がするような戯れよりも甘い口接け。
優しく口内を探る仕草は何時ものアヤナミらしくは無かったが、それが疲れている己をアヤナミなりに気遣っての事だと理解しているテイトには、堪らなく嬉しくて仕方がなかった。
――――――
「此れ位の褒美が無ければ、割りに合わん。」
暫くしてお互いの唇を離した後、アヤナミがぽつりと呟いた言葉に、そうですね、と笑みを浮かべつつ同意して、テイトは広い胸板に頭を預けて幸せそうに瞳を閉じた。
美味しそうな御馳走も。
綺麗に飾られたプレゼントも。
ロマンチックな言葉も無いけれど、
貴方が居れば、
それで幸せ。
end
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