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novel
小麦色に輝いて(アヤテイ+ヒュウコナ)
バルスブルグ帝国、8月某日――。

帝国領内において、温暖な気候で知られる帝国南部、―――その最南端に位置する基地の1つにテイトとコナツは派遣され、一週間を照り付ける日射しの元で過ごし、昨日、やっと任務を終えて、出立から数えて2週間ぶりに帝国一区のホーブルグ要塞に帰着したのだ。

――――――――


「ぁ〜…つ…疲れた……。ホーブルグ要塞がホント、懐かしく感じる…。」

軍用車から降り立ったコナツが、些か普段の精彩さを欠いた調子で珍しく愚痴を零す。

「ホントですよね…。……なんていうか、今回の任務は…」
「あ〜…解る。解るぞ、テイト…。もう暑くて暑くて……」
「で…ですね…日射しは強いし、気温は高いしで…」

「なぁ……。」

「「はぁ〜〜…」」
テイトも覇気の無い調子で返し、お互い、任務中の悲惨な体験を思い出して
重い溜め息を吐き出す。



基地に居る間、陸軍士官学校兵に付き添う形で同行した軍事演習―――
そこで突発的なテロが起こり、テイトとコナツは砂漠のど真ん中で訓練生を庇いながらテロリストと戦闘するハメになったのだ。
しかも―――

「庇いながら戦うから、軍服はズタズタになるし…」

「そうですね…おかげで日に焼けちゃって。暫く肌がヒリヒリして……痛かったです!」

げんなりと吐き捨てるコナツに、テイトも同調して、半ば叫ぶ様に言い捨てた。そして、おもむろに襟元を緩め、こんがりと――綺麗に焼けてしまった、まさに小麦色と云うに相応しい肌を晒すと、ちらりと横目にコナツを見て、もう一度深く溜め息を吐いた。
「あ〜ぁ〜…でもいいなぁ、コナツさんは。」

「?どういうことだ…?」

不思議そうに聴いてくるコナツに、
テイトは視線を彼の頭部――金色に輝く髪に向けた。

「だって―、コナツさんの金髪に、日焼けした肌の色、とっても似合ってるじゃないですか。」

「えっ!?…そ…そうか?」

何にせよ、褒められた事が嬉しかったのだろうコナツは、頬を笑みの形に弛ませる。

「それに比べて、……オレの黒髪には、この肌の色ってあんまり合わない感じだし……。」

肩を落としつつ、ぽつりと呟くテイトにコナツは驚いた。

「えぇっ!?…イヤイヤ、そんな事無いぞ!テイトの黒髪に焼けた肌も、ミステリアスな雰囲気、…ていうのかな。似合ってるぞ!凄く!」
げんに、健康的に焼けた肌と、漆黒の髪に翡翠の瞳は良く合っており、とても魅力的にコナツの目には映っていた。

「そう…ですか?変じゃ…無いですか?」

「全然!」

控え目に訊ねてくるテイトに、キッパリとコナツが言い切ると、テイトは安心した様に笑みを浮かべた。

「…良かったぁ。
……アヤナミ様も、コナツさんみたいに言ってくれると良いな…。あっ!コナツさんも、ヒュウガ少佐に『似合ってるよ。』って言って欲しいですよね?」

テイトの質問に、コナツは頬を紅く染めつつ、
「……そうだな…。」と小さな声で返事を返し、己の上司の待つ要塞へと足を向けた。


――――――――


ホーブルグ要塞内、参謀部執務室――。
日頃から穏やかとは言い難いブラックホークの執務室内の雰囲気は、今現在、最悪だった。
カツラギはアヤナミの代理として上層部の会議に赴いており、不在。
クロユリは不穏な空気を察知するやいなや、ハルセを連れて別の区画に在る資料室へと逃げてしまった。

―――よって、現在執務室に居るのは
山と積まれた書類を放置して、カチカチと、今にも斬りかからんばかりの不機嫌さを漂わせながら愛刀の鍔を弾くヒュウガと――――
視線を合わせた者全てが凍死しそうな程の恐ろしい眼光と、冷気を纏うアヤナミの二人だけであった。

「ぁ〜…コナツ、まだかなぁ〜〜。」

もう何度口にしたか分からない言葉を、ヒュウガはぼやく。
「……報告どおりならば、間もなく帰還する筈だ。無駄口を叩かず、仕事をしろ。」

アヤナミはそれに素っ気なく返し、会話を打ち切ろうとする。
だが、当然、そんな事にめげるヒュウガでは無く、一方的にぐちぐちと文句を言い始めた。

「そもそもさ〜、あの基地の連中がヘマするからテロリストが逃げ出しちゃってさ〜、その尻拭いさせられたおかげで、コナツとテイト君の帰りも遅くなっちゃうしさ〜…。」

「………。」

「あ〜…、最後にコナツに触ったの、もう2週間も前だよ〜…コナツぅ〜〜〜。」

「……………。」

「コナツに触りたい〜!コナツ〜コナツ〜!コナ…「黙れ。」」

駄々っ子の様に喚き立てるヒュウガに、アヤナミは声と同時に鞭を叩き付けた。
ばしぃっ!!!

「いぃったぁぁぁあ―――!」

余りの痛さに打たれた顔面を押さえて机に突っ伏すヒュウガの前に、何時の間にか移動したアヤナミが立ち、温度の低い声音で告げる。

「――愚か者。…未だ気付かんのか?」
「っつぅ〜…って………あっ!」

鬱々として、纏まらない思考状態では気付かなかったが、神経を研ぎ澄ませば、愛しい者の気配を、この要塞内に感知する事が出来る。

「あっ!あぁ――!…こ…コナツ!」

「…テイトも居るな。」

「やったぁ〜∨じゃ、早速迎えに…「待て。」……え…?」
コナツの気配を察知するやいなや、早速執務室を飛び出そうとするヒュウガをアヤナミの冷えた―――だが、若干嬉しそうな声が押し留めた。

「えぇ〜!!ちょ、何なの、アヤたん!俺はこれからコナツを迎えに「貴様、まさかその書類の山を放置して行くつもりでは無いだろうな。」………あっ!」

室内に再び、沈黙が降りる。

「そっ、そういうアヤたん……は……?」

最後の抵抗を試みるヒュウガは、アヤナミの執務机へと視線を滑らせた。
―――が。

「あれっ!?……ウソ!……書類……一枚も…………無い!?」

飛び込んで来たのは、綺麗に片付けられた執務机と、椅子だけだった。

「…そういう事だ。……では、私はテイトを迎えに行ってくる。……貴様は仕事を片付けておけ。」
「……………そんなぁ……コナツぅぅ〜〜〜(泣)!!」

がっくりと肩を落とし、悲嘆にくれるヒュウガの目の前で、参謀部執務室の重厚な扉は、閉ざされた。



―――――――――
参謀部執務室へと続く廊下を、コナツと二人並んで歩いていると、廊下の向こうから慣れ親しんだ気配と共に、テイトが今一番会いたいと思っていた己の上官が姿を現した。

嬉しくなって側まで駆け寄ると、常と変わらず無表情ながらも、穏やかな雰囲気を纏ったアヤナミが声を掛けてきた。

「任務、御苦労だったな。……コナツ、ヒュウガは執務室で未決書類と遊んでいる。――行ってこい。……テイトは、私と共に来い。」

「はい!解りました!…それじゃ、テイト。また。」

「はい!……あっ、コナツさん!……行っちゃった……。」
アヤナミに敬礼を返すと、パタパタと執務室の方向へ走り去って行くコナツを見送ったテイトは、
アヤナミへと視線を合わせた。

「アヤナミ様、それで、これからどちらへ…?」

アヤナミ自身が態々足を運ぶのだ。
何か重要な会議でも有るのだろうかと
テイトが訊ねると、………アヤナミから返ってきた答えは、意外なモノであった。

「私の私室だ。」

「………え…?」

おもわずぽかん、と呆けていると、もう一度、今度は説明を足してアヤナミが言葉を紡ぐ。

「私が果すべき職責は、既に終えている。――お前も任務で疲れているだろう。………行くぞ。」

そう言うやいなや踵を返す己の上官の後を、テイトは慌てて追いかける。
アヤナミの心遣いが嬉しくて、頬が弛むのを止められない。
後ろでにこにこと笑っていると、前を行くアヤナミが、思い出した様に声を掛けてきた。

「…それにしても、よく焼けたな。」

「あっ!…はい。戦闘時に軍服が、破けてしまって……。」
「…ほう……。」

それきり沈黙してしまったアヤナミに、テイトは眉尻を僅かに下げる。

(――コナツさんは、『似合ってる。』って言ってくれたけど……。アヤナミ様、オレの白い肌、気に入ってる。って言ってたし………。)
やはり、気に入らなかったのだろうかと、軍服に包まれている己の焼けた肌へと意識を向ける。

「………テイト。」
「…!?あっ、はい!」

不意に名前を呼ばれ、慌てて返事をしてアヤナミを窺うと、――常と違わぬ冷悧な躑躅色の瞳に
―――ほんの少し、……寝台の上でのみ彼が見せる、熱の篭った情欲の焔が揺らめいていた。

「っ――…。」

どくり、と。
鼓動が跳ねて、躯の裡が熱を孕んで熱くなる。

「テイト。……良く、似合っている。」
振り向いたアヤナミは、掌でテイトの頬を包み込むと、そのままするりと手を滑らせ、可愛らしく震える下唇を親指の腹で煽る様になぞりながら、紅く色付いた耳元に、甘く、囁いた。

「…そんなお前も中々に魅力的だ。……部屋に行ったら、たっぷり可愛いがってやる。」


―――――――


翌日、昨日帰還したにも拘わらず、アヤナミ参謀長官付きベグライター、テイト=クラインと、
ヒュウガ少佐付きベグライター、コナツが、体調不良を理由に職務を休むハメになったのは、
また別の噺である。


end



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