novel
それはまるで…
深夜に迄及んだ雑多な執務を終了し、アヤナミが要塞内に設けられている自室に戻ったのは、時計の短針が1の数字を指した頃だった。
本来ならば、己のベグライターであるテイトも同様に残って執務に励んでいる筈だったのだが、数日前からの激務がたたり、体調を崩していたため
気付いたアヤナミが大事を取って、定時に仕事をあがらせたのだが…
その時のテイトの様子を思い出してアヤナミは僅かに苦笑を漏らした。
(――まったく、あれの頑固さも、困ったものだ……。)
体調の悪さを指摘し、定時であがれと命じた時、
テイトは頑なに拒否の意を示してきたのだ。
『アヤナミ様が頑張っていらっしゃるのに、ベグライターであるオレが貴方をおいて休むなんて、…出来ません。』
と……。
結局は、アヤナミの説得に応じ、納得がいかないという顔をしつつもテイトは退室していったのだが……。
きちんと休んでいるかどうか気になるが、今、下手に見舞いに行ってしまえば、……こんな時間だ。休んでいるテイトの邪魔をしてしまう事だろう。
自分が出向けば、
優秀な彼はきっと気配に気付き、
無理をしてでも起き出して、アヤナミに付き合おうとするだろう。
それでは意味が無い。
テイトを見舞うのは、様子見も兼ねて明日の朝にしようと決め、アヤナミは自室の在る区画へと足を進めた。
―――――――
(……まったく……。)
扉の前で、アヤナミは内心、盛大な溜め息をついていた。
重厚な扉越しに、よく知る気配を感じる。
気配を消して、音を立てぬよう部屋に入り、そのまま寝室の扉を開けると
………独りで寝るには広い寝台の上で、幼い恋人がシーツに包まり、すやすやと寝息をたてていた。
起こさぬよう注意を払いつつ、背を丸めて眠るテイトに近寄り、顔を覗き見ると安心しきった寝顔がシーツの波からそろりとのぞいている。
特段、苦しそうな様子を見せていない事に対して僅かに安堵する。
それと同時に閃いた、己の突拍子の無い考えに口の端を笑みの形に引き上げると、
アヤナミはゆっくりと膝を着き、恭しい動作でもって、ベッドに沈んでいるテイトの小さな手を取り、その手の甲に唇を落とした。
end
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