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novel
苺畑で捕まえて(アヤテイ+帝国兵)
午前の事務作業を終え、要塞内の食堂に足を運んだテイトは、珍しいモノを見つけて目を見開いた。
「――苺?」

食事を受け取るカウンターの横には、
【特別メニュー・苺の練乳がけ】
と、大きく書かれた紙が貼り付けられている。

女性もいるとはいえ、比較的男所帯の軍の食堂では、こういった可愛らしい
〈デザート〉の類いが単体のメニューとして登場する事は非常に珍しい。

「…苺かぁ…」

暫く悩んだ後、
テイトはカウンターへ行き、【特別メニュー】を注文する事にした。

―――夏バテ気味だったテイトには、冷たい練乳の甘さとさっぱりとした苺の酸味はとても魅力的に考えられたのだった。


――――――――

カウンターで受け取り、テーブルにトレイを置いて、改めて見てみると、苺は大振りで形も良く、艶々と輝いている。
たっぷりとかけられた練乳との紅白のコントラストはテイトの目に、とても鮮やかに写った。

「ぅわぁ〜、美味しそう!……いただきま―す。」

フォークを突き刺し、口に運ぶ。

「ん……、」

  果肉を口に含むと、爽やかな苺の甘さと濃厚な練乳の味が絡み合ってなんとも言えない。

(……美味しい…。)

あまりの美味しさにニコニコしながら二粒、三粒と口に運んだテイトだったが
―――ふと、周囲の視線が自分に注がれているのに気が付いた。

(……?なんだろ…?)

不思議に思い、食事の手を止め辺りを見渡す。

―――何故だか食堂にいる帝国兵達は、全員頬を赤く染め、此方をじぃ、と凝視している。
そして、テイトの視線を感じると慌てて顔背けて掻き込む様に食事を再開し出す。

(………???なんなんだ…?)

訳が分からない。

…………もしかすると、自分では自覚が無かっただけで、よほどがっついて苺を食べていたのだろうか。
それで、周囲の視線を集めてしまったのかも知れない。

そう思い至ると恥ずかしく、
また、アヤナミのベグライターとして、醜態を晒してしまったで在ろう事が情けなくなって、テイトは急いで食事を終え足早に参謀部へ戻っていったのだった。


――――――――

「――と、いう事が有ったんです。」

執務室に戻るなり小休止していたアヤナミに事の次第を報告すると、
彼は、たちまちその眉間にくっきりと皺を寄せて黙り込んだ。

アヤナミの反応を受けて、テイトは己の軽率な行動が、彼を不快にさせてしまったのだと判断し、泣きそうな心地になった。

「……―す、すみませんでした…。」

掌をきゅ、と握り締め、謝罪の言葉を口にする。

―――だが、アヤナミから発せられたのは、叱責の言葉では無かった。

「……何を謝る必要がある…。」

「…えっ!?」


ぽふり、と。

何時の間にか側に来ていたアヤナミは、テイトの頭に手を乗せ、優しい手付きで髪をすいている。

「あの……、アヤナミ様、………怒って…無いんですか?」
「……怒る…?何故だ…。」

「………え…?」

思いがけないアヤナミの言葉に呆けていると、頭の上から手が退かれた。

「テイト…。」

「はい!……?、アヤナミ様、どちらへ?」

「…………たいした用事では無い。………直ぐに戻る。」

そう言ってアヤナミは、執務室の扉をくぐって出ていってしまった。
――――口元に、うっすらと背筋が寒くなる様な、凍える微笑を称えながら。


「………????―――変なアヤナミ様……。」

アヤナミが何をしに行ったのか気にならないでは無かったが、
テイトは出ていった己の上官の負担を少しでも軽くする方が先決だと思い直し、卓上の書類に手を伸ばした。



end

おまけ。↓↓





――――――――



両手にしなる鞭を持ちながら、黒い怒気を漂わせつつ、アヤナミは足音高く要塞の廊下を突き進んでいく。

「………私のテイトに淫らな視線を注ぐとは―――許しがたい塵灰共め…。」


――己の恋人を脅かす不埒者を、どうやって始末してやろうか―――。


嫉妬深く冷酷な参謀長官殿は、口元に冷たい笑みを敷いたまま、昼食時の和やかな雰囲気に包まれているであろう食堂の扉に手を掛けた。

「直接の抹殺、及び情報収集は此処からだな。」




――――アヤナミが姿を現した直後、昼下がりの和やかな食堂は、戦場さながらの阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈する事となった。


end

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