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novel
傷雨

激しく降り注ぐ雨粒が、容赦無く躯を打ち付け熱を奪う。
だが、テイトは其所から動こうとしなかった。
ーーー雨によって霞む視界の向こうには黒衣の一群が、黒檀の柩を先頭に、軍部の共同墓地に向かって粛々と歩を進めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


薄暗い室内で、テイトはアヤナミの膝に乗り上げ、首に細腕を回し、紫銀の髪に指を埋め、がむしゃらに口付けていた。
足りない、と。
求める様に舌を伸ばせば直ぐ様肉厚な舌が絡まり唾液毎吸い上げられる。

「ん…ふっ……」
そのまま暫く口腔内を優しく慰撫されて、思考が甘く蕩けたところで銀の尾を曳いて唐突に舌が引き抜かれた。
「あっ……」
離れていく唇を追おうと顔を寄せると、聞き慣れた低音が耳朶を打った。
「テイト。」
ついで、あやす様に大きな掌で頬を包まれ擽られる。
見上げた深紫の瞳は、何時に無く優しい色を灯していた。
「どうした?……何があった。」


ーーーーーーーーー「………。」

………思い出すのは、黒衣の葬列。
白い墓石の立ち並ぶ墓地。
黒檀の柩に取り縋って啜り泣く女性。

「……っ」
言い表せない感情が暴れ回り、頭の中がぐちゃぐちゃに掻き乱される。
瞳の裏から込み上げてくる熱い物を感じ、堪えようと目蓋を堅く閉ざしたが間に合わず、
透明な雫が頬を伝った。
「……っ分かりません。」
嗚咽混じりに答えにならない返事を返せばそのまま強く抱き締められた。
軍服越しに伝わってくる温もりは、アヤナミが此処に居るのだと実感させ、
何故だか益々涙が溢れて止まらなくなる。
大切な人は、アヤナミは
確かに今、自分の傍らに存在しているというのに、あの光景を思い出す度
根拠の無い、漠然とした不安が沸き上がり心を黒く塗り潰し苛んでいく。

嗚咽を噛み殺しながら、広い背中に爪を立てて縋りつく。

「ーー何処にも、行かないで…。」


ーーーー
降り頻る雨の音を遠くに聞きながら、
温かい腕の中でテイトは祈るようにそっと、囁いた。



end

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あきゅろす。
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