childhood
メガネの奥の碧い瞳が困ったように微笑むと、彼は私を抱きかかえ、片手で枕元の水指から水を汲み、私の口元にそのコップを運ぶ。
「私どもは貴方様達の味方ですから、離れたりしませんよ」
差し出されたコップの水を飲む私をやさしく抱き上げながら、彼は私達姉弟にいつも言っている言葉をやさしい声で囁いてくれると、私をあやすようにユラユラ体を揺らす。
アベルの心臓の音がして、私を抱き上げる大きくて、優しい手でできた揺りかごに寝かされているような安心感に満たされ、眠りについた。
眠っても、あの嫌な光景が消えるわけではないのはわかっていた。
でも、このときは私を守ってくれるアベルの腕のなかで安らぎたかった。
翌朝には熱が下がっていた。
ベッドに運ばれた朝食は、さすがに配慮したのか消化のよい物が並んでいた。
ゆっくりそれをとっていると、弟のレイがトレスの押す車椅子に乗り、見舞いにやって来た。
「ねえちゃま、お加減だいじょーぶ?」
「うん、大丈夫よ。心配させてごめんね」
弟は、五歳児なりに私を気遣ってきた。
たくさん持って来た自分の絵本をベッドの上に置き、そのなかの一冊をひろげる。
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