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“一口でいいから、食べてくれる?そうすればこの子、納得してあなたに迷惑かけないから…”
そう、言われるままビスケットをかじる。
“おいち?”
“うん、美味しいよ…”
小首をかしげ、問う声に自分は答えた。
なぜか少ししょっぱかったが、本当においしかった。
その日から、自分の身のまわりは目まぐるしく変わった。
奥様の手伝いをするようになり、読み書きや計算を教わることとなり…。
気付くと、自分から‐奥様の紹介もあったが‐アシャースト家の私設軍の養成所へ行き、そしていまここにいる。
あの日差し出されたビスケットが、自分を変えた。
差し出した本人は覚えていない。
自分を慕い、今もこうして腕のなかに収まっている。
差し出された自分は覚えている。
自分へ差し出した小さな手の主とその大事なものを守りたいと、世界中を敵にまわしても味方になりたいと思う自分がいる。
すべてはあの日から…。
「私はあなたの味方です。マーシャお嬢様」
そっと手の甲に口づけを…。
これは儀式…。
本当の騎士にはなれないが、彼女の騎士として守っていくための…。
“私はあなたのお陰で変われたのです”
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