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第一章
04「全く、昔とちっとも変わっておらんな」



――閉ざした力がある 失った過去がある


決して何があっても、その力をもう使ってはいけないと父に言われた
無理に思い出そうとしなくて良いと母に言われた


ただ最後に念を押すように父と母は柊の手を握り


例え目の前で何が起きても、決してその力を使ってはいけない

お前がお前でありたいのなら――と、一言告げた。








「うー・・・ん」


早朝。城の者が起きだした頃、柊はひとり離なれの中庭に立ち体を伸ばしていた。
ひんやりとした朝の空気は非常に心地良かった。
そういえば最近は忙しく、めっきり鍛錬をしていなかったことを思い出す。
今度道場での鍛錬に私も混ぜてもらおうか、そんなことをぼんやり考えていると人のくる気配がした。


「・・・柊じゃねぇか。Good morning」
「おはようございます、政宗様」


柊は政宗に向き合い一礼した。


「お前、もう体調はいいのか?」
「はい、いろいろご迷惑おかけしてすみませんでした」
「Ha! そう思うなら今日からたっぷり働くことだな」
「政宗様」


行こうとした政宗を柊が呼び止める。


「あの、セイキョウありがとうございました」


柊が微笑んだ。それをみて、政宗は密かにため息をつく。


(――ちっ、やっぱ似てやがる・・・)







朝餉で小十郎と顔を合わせた時、セイキョウのお礼を言うと


「いや、柊殿が体調を崩していたのに気づけず本当にすまなかった。
セイキョウが治療に役立つならいくらでも採っていってくれてかまわない」


なんとも心優しい返答に柊はつい感動してしまった。
米沢城の人は優しい人ばかりだが、小十郎の優しさはなんだか格好いい。一瞬ドキっとしたのは内緒だ。
ちなみに今度小十郎自慢の畑を見せてもらえる約束をとりつけた柊だった。







朝餉を食べ終えさっそく医務室に行くと中に誰かがいる気配がした。
患者かと思い襖を開けると、そこには少々長い白髪を一本に結び垂らしている60歳にいくかいかないかほどの男が、机に向かい書物を漁っていた。
その男は顔を上げ柊の方を見ると、驚いた顔をして見た。
少々生えた口ひげが動く。


「なんじゃ、もう治ったのか?」


開口一番でそう言われ、一瞬なんのことを言われているかわからなかったが、すぐに昨日の風邪の事だろうと思い肯定した。
なんで知っているのだろう、というかこの人は誰だろう。
柊は頭の中を疑問符でいっぱいにしていると男は手招きし、向き合い座らせた
・・・と思ったら


「この、大馬鹿者が! 医師が無茶をするとはなんたる失態!!
 自分の立場というのをわきまえておるのかお前さんは!!」


突然怒鳴られ、柊は驚き呆然としてしまった。
しかし構わず男は喋り続ける。


「昨日頼んだ仕事な、あれはお前さんが風邪を引く前提で作ったものじゃ。
引かなかったのならそれで結構だが、風邪を引いた自分の立場をいかに視野にいれられるか試させてもらった。
結果お前さんは無理して二つ終え、成実殿に無理に寝かされたそうだな。」


そこでようやく、柊はこの人は成実が昨日教えてくれた鄭その人だと気づいた。


「・・・あの、私が風邪を引く前提って」
「あの雨に数刻打たれておったのじゃろ?風邪を引く可能性の方が高いにきまっとるだろう。
いいか、お前さんは医師だ。
医師であるお前さんが無茶をして倒れちゃ、怪我や病を抱えて来た者の面倒は一体誰が見るんじゃ。
ようく覚えておけ、医師はなによりも自分の健康に気を使い、無茶をしてはいけない」
「はい・・・」


「――全く、昔とちっとも変わっておらんな、お前さんは」


柊は最後の言葉に驚き、俯き気味だった顔を勢いよく上げ鄭の顔を凝視したのだった。






―――――――

ヒロイン、小十郎のダンディさにときめくの巻き
(決して小十郎相手ではないw)





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あきゅろす。
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