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第一章
01「お初にお目にかかります」


春がくる、少し前のこと。その日は雨が降っていた。
奥州の春は他の地域よりも少しばかり遅い。雫は冷たく、肌に触れれば寒気がした。
こんな、家に篭っていたくなるような憂鬱な日に彼女――柊は少量の荷物を抱え馬に跨る。
長い漆黒の髪は簪で綺麗にまとめ、馬に跨りやすいよう膝丈の着物姿の彼女の瞳は凛としていた。
彼女が行く前に、後ろに控えている家人たちが声をかけた。


「どうか、道中お気をつけて。雨で道がぬかるんでおりますゆえ」


柊は彼らを振り返り、惜しむように微笑んだ。


「・・・今までこの邸に仕えてくれて本当にありがとう、こんな私にまで・・・。本当に感謝しています。
父上が邸と財産はすべてあなた方にとのこと。感謝の気持ちの半分にも満たないですが、どうか使ってください。
父上も母上も喜びます」
「・・・柊様」


一番前にいた初老の男が静かに彼女の瞳を見つめた。


「あなた様がこれから向かわれる場所はこの奥州を治める筆頭が住まわれている城。
歯がゆく感じることもあるでしょう。戦にだって、関わるやもしれませぬ。
・・・どうか、ご無理をなさらずに。いつまでも柊様らしくいてくだされ」
「・・・ありがとう」


柊は涙の代わりに笑顔をみせた。
そうして馬の踵を返し、もう恐らく戻ってくることのない我が家を一度振り返り勢いよく駆け出した。









世は戦国乱世。
日本各地で名だたる武将が天下統一を夢見て各地で戦を繰り返していた。
奥州筆頭、伊達政宗ももちろんそのひとりであった。日々政務をこなし(合間に脱走は欠かせない)鍛錬を積み、天下統一にむけ着々と準備を進めていた
・・・が、今日は少しばかり様子が違った。


「政宗様、恐らくもう半時で柊殿が城に着く頃かと思われます」


政務もほどほどに午後の鍛錬に勤しんでいた政宗のもとに小十郎がやってきた。


「AH? 義俊(ぎしゅん)殿の娘か。そういえば今日だったな。もう準備はできたのか?」
「はい、ただ部屋が生憎政宗様の離れの部屋しか空いてなかったゆえ、暫くそこを使わせていただいてよろしいですか?」
「Of course. ただ場合によっちゃ成実あたりが五月蝿そうだがな」
「え、なになに?かわい子ちゃんでも来んの?」


人懐っこそうな笑顔を振りまいてふたりの間に入ってきたのは噂のその人だった。政宗は虫をはらうようにため息をつき、


「HA,気になるなら自分の目で確かめるんだな」


と言い残し、さっさと鍛錬に戻っていった。
成実はそんな政宗を横目に小十郎に話をふった。


「ああ、例の子・・・えぇっと、柊ちゃんだっけ?今日来るのか。てかなんでそうゆう話になったの?」
「・・・先日話したのにテメェは何聞いてやがった。義俊殿は知っているだろう?
その方が先日亡くなられた際、遺言状に娘を政宗様に預かってほしいとの旨が書かれていてな。先代の良き友人であった方の頼みを断る理由もない。
聞けば義俊殿に医学を学んでいたそうだ」
「へェー。専属の医師がいなくなっちゃったとこだし丁度良いね。ちなみに何歳?」
「政宗様と同い年だ。・・・成実テメェよけいな手出しはするなよ?」


元々強面の小十郎にギンっと睨まれ成実はアハハハと苦笑いをするのが精一杯だった。
小十郎といえば、段々と強くなる雨だけが気がかりだった。







小十郎が危惧していた通り、到着予定時刻をいくばかりか過ぎても柊が城に来る気配はなかった。
柊の家から米沢城までそれほど距離はない。馬でなら数刻で着く距離だった。ならばやはり、この雨のせいで足止めを食らっているのかもしれない。


「Hey, 小十郎。柊はまだこねぇのか?もう日が沈むぞ」


さすがに政宗も未だに姿を見せない彼女を気にし始めた。
先代の良き友人である人の娘は政宗にとってはもちろん、城の者にとっても大切な客人に違いなかった。
文を交わした際、使いの者を送ると申し出たが断られてしまい、それほど距離もないから小十郎も特に問題はないと踏んだが、どうやら間違いだったようだ。


「この雨で何処かで足止めを食っているのかもしれませぬ。――少し城の周りを探して来ます」
「OK, 俺も行く」
「あなたは大人しく城で待っていてください」
「Ladyがこの土砂降りの中困ってんだ。男手はあったほうがいいだろ?」
「だからってなんであなたが行くのです。それをおっしゃるなら他の者を連れて行きます」
「俺が行くっつったら行くんだ」


そう言うと政宗はさっさと行ってしまった。こうなると政宗を説得するのは難しい。
小十郎はため息をついて諦めた。


「・・・全く、しょうがないお人だ」









その頃柊は強さを増してきた雨に進むことを諦め、森で見つけた小さな洞窟に身を寄せていた。


「・・・参ったな、もう日が暮れる・・・」


元々馬にあまり乗りなれていなかったこともあり、柊はかなりの体力を消耗していた。
いっそのこと今日はここで野宿して、明日雨が上がってから出発しようか、そんな事をぼんやり考えながら、寒さのせいで幾度も柊は身震いをした。
そのうち、疲れのせいもありまぶたが重たくなってきた。
寝まいと努力した柊だったが、やがて気を失うようにまぶたが落ちるのを許してしまった。










「――い、おい・・・・んた!」


暫くして呼びかける声に柊は目を覚ました。


「よう、やっと起きたか」
「――え・・・」


声を掛けられ前をよく見るとそこには右目を覆った隻眼の男が柊の顔を覗き込んでいた。
男は安心したように笑い、立ち上がると洞窟から外の様子を伺った。


「雨、随分小降りになってきたな。日はすっかり沈んじまったがこれなら城に帰れるな」


この人は一体誰だろう?
・・・城?ていうか ――隻眼・・・


「・・・独眼竜・・・」
「奥州筆頭伊達政宗のことを言っているのならそれは俺のことだな。――もしかして、あんた柊か?」
「――っ!?」


どこか意地悪そうな笑みを浮かべ政宗は振り返った・・・が。


「・・・? ―――」


柊の顔を見た政宗は急に彼女の顔を凝視した。
柊からしてみればわけがわからなかったし、正直隻眼に見つめられ最大限に緊張して自然と顔に熱が帯びていくのがわかった。


「――あのっ! 私の顔に何かついていますか!?」


耐え切れなくなった柊は顔を逸らしながら問うた。


「――いや、・・・悪りぃ。 そういえばあんた、馬が見あたらねぇがどうした?」
「え。」


驚きあたりを見回すと確かに政宗の乗ってきた馬ともう一頭いるはずの柊の馬がいなかった。


「・・・逃げた」
「どんだけ馬に馬鹿にされてんだテメェは」


呆れたように言う政宗に返す言葉もなかったため柊はがっくりと肩を落とした。
しかしもっと重要なことに柊は気づき勢いよく顔を上げた。


「今更なのですがなぜ政宗様がこのようなところに・・・?」
「Ah? あんたを探しにきたんだよ」


柊はみるみる顔が青ざめていった。


「申し訳ございません!私は大丈夫ですのでどうかお先にお城へお戻りください。
後から私も行きますので」
「HA! なに言ってんだ」


政宗はまたもや呆れたように柊を見つめた。




「一緒に帰るんだよ」




政宗の口から思わぬ言葉が出てきて柊は暫くなにも言えなかった。


「・・・一緒に、ですか?」
「ああ、何か不満でもあるのか?」
「い、いえそんなことは・・・。

ただ・・・」
「ただ?」


「――嬉しいです」


そこで初めて笑顔を見せた柊に、政宗は変な感覚を覚えた。
不快感ではない。ただ、頭の奥底が何か知らせるように震えていた。


柊は政宗の後ろに跨り、あまり失礼のないよう政宗の腰の着物の裾を軽く握ったが
政宗に「そんなんじゃ振り落とされるぞ」と手を掴まれ無理やり腰に両腕を回された。
柊は政宗とかなり密着する形になってしまい恐れ多く感じるばかりだったが、実際走り出してみるとそんなことも忘れただ必死にしがみ付いていた。
乗馬にはあまり慣れていないことを伝えるべきだったと後で後悔した。







城に着くと先に戻っていた小十郎と、なぜか成実が政宗の帰りを城門の前で待っていた。


「政宗様、ご無事で。・・・後ろにおられるのは柊殿か?」
「Yeah. 土砂降りの中洞窟で寝てやがった」


柊は政宗の乗馬の荒さにうめき声を上げていたが、小十郎に声を掛けられるとすぐ馬から飛び降り、よろめきながらも小十郎と向き合った。


「お初にお目にかかります。この度こちらでお世話になります、柊と申します。
ご迷惑をおかけしますがどうぞ宜しくお願いします」
「俺が小十郎だ。今日からここはあなたの家になる。まずはゆっくり休むといい」
「俺成実―!よろしく、柊ちゃん」


温かく迎えてくれた小十郎と成実に、柊は安堵した。
小十郎は柊の荷物を持ち手招きした。


「湯を沸かさせている、この雨ですっかり体が冷えてしまっているだろうからな。ゆっくり浸かるといい」
「ありがとうございます」
「政宗様もどうぞ」
「しょーがねぇ、一緒に入ってやるか」
「えっ!?」
「何を言っておられる。政宗様にはご自分用の湯殿があるでしょう」
「・・・ああ、よかった」
「Hey,聞き捨てならねぇな柊」
「・・・(いやいやいや、当たり前でしょう)」
「じゃあ柊ちゃんは俺とだなー」
「ええっ!!」
「・・・(小十郎、成実にゲンコツを食らわす)」
「いてー!! 冗談だよ、じょーくじょーく!」



その時堪らなくなり笑い出した柊の笑顔が、今にも泣きそうにみえた政宗には、なぜか強く記憶に響いた。








―――――――――

初めてしまいましたよBASARA夢
みんなの口調がわからない成実のキャラがわからない(なぜか女好きみたいなキャラになってしまったごめんなさい)
そして何よりヒロインのキャラがわからないい・・・!!
一応ヒロインの立場は、先代の大切な友人のひとりの子供なので官医としてきてるとは言え、ほぼ客人扱いです。

わからない事だらけですがとりあえず長編になる予定です
糖度低め、若干シリアスになるかもかも
気長にお付き合いくださいな!



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あきゅろす。
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