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第一章
14「本当に、大丈夫か?」
誰かが笑いかけても
笑顔の裏に何かを垣間見てしまうようで、目を逸らした

そして、私という不安定な存在に
これ以上嫌われないように、自分自身が傷つかないように
辛さを仮面のしたに、押し込めた









「柊殿っ!? いかがされた、その怪我・・・!」


城門で待っていた柊の姿を見つけた小十郎は、とたんに駆け寄った。


「大丈夫です! ただのかすり傷なので・・・。お忙しいところお呼び立てしてしまって申し訳ございません」
「それは構わないが、なんにせよ早く治療するにこしたことはない」
「そうですね。その前に・・・、紹介したい方が」


柊の言葉に、小十郎はやっと慶次の姿を目に留める。
慶次の奇抜な服装に一瞬目を細めた。
いつか、政宗と初めて歌舞伎を観に行ったとき、役者の色とりどりの纏を見て驚いた時の記憶が脳を掠める。
小十郎と目の合った慶次は、快く自己紹介をする。


「俺は前田慶次。そんでこっちが夢吉だ!」


実に簡単な紹介だが、小十郎にとってはそれだけで十分だった。
派手な着物に、大きな刀身が印象的な刀に猿。そして米沢城を目の前にしてのこの余裕さというか、気楽さ。
彼の纏う全てが、彼がそうであると証明する。


「・・・前田の風来坊か。一先ず、何があったのかはあんたから聞くとしよう。柊殿はどうか手当てを」
「はい。ありがとうございます」


慶次は広間のほうへと通され、柊は一旦医務室へ戻った。
慶次をひとり取り残すことに多少の不安はあったが、小十郎も慶次の名前を知っているようだったし、それほど色濃い不穏な気配は感じなかったので、恐らく大丈夫だろう。



医務室に入ると、鄭は柊の姿を見て、それは驚いた顔をした。
簡単に事情を説明し、頼まれていた薬と、土産の団子(少々形は崩れてしまったが)を渡し、包帯と傷薬を借りて自室で手当てすることにした。
なんせ着物もいたる所が裂けてしまっていたため、着替えなければならなかった。
そして何よりも、一刻も早く僅かに露になった刺青を隠したかった。


水に湿した布で、ほぼ乾いて赤黒くなっている血を拭き、傷薬を軽く塗る。
ほとんどはかすり傷だったが、何箇所かは深く食い込んでしまった場所もあり、そういった箇所には包帯を巻いた。


刺青を再び包帯で覆う。
この作業を、もう何回繰り返しただろうか。


この刺青は、柊にとって、己自身という存在を切り捨てられない、呪縛のように感じられた。
目を逸らし続けても、ふと、刺青が疼く。


お前は、逃げることも、立ち向かう勇気もないだろう――?


いつも、そう柊をあざ笑うようで、この存在に縛り付けられていた。



柊が、ぼんやりと思考の渦に飲まれそうになった時。
どたどたと、荒々しい足取りで柊の部屋へ近づいてくるものがあった。
部屋の前で止まったかと思えば問答無用で勢いよく開けられた襖に、同時に柊も顔を上げる。
そこには、いかにも不機嫌そうな政宗が仁王立ちしていた。


「柊! 何余計なことしてやがる!!」


ずかずか入ってくるなり、政宗は座り込んでいた柊の目の前に来て怒鳴る。
眉間にはいつもより二、三本多く皺が刻まれており、彼が隻眼でなかったら今頃どれほど強い覇気に当てられていただろうか。


「! ・・・申し訳ございません」


そう言えば、政宗の姿を見るのは随分久方ぶりに感じる。
政宗とは裏腹な柊は怒られているにも関わらず、悠長にそんなことを考えた。


「いくらお前が武術に優れていても、相手は忍だ!手出してただじゃ済まないことくらい、お前だって分かっていたはずだ!
――これに懲りたら、もう単独で無茶なことはするんじゃねぇ!」


・ ・・これって、もしかして心配してくれたのだろうか?


柊は素直に政宗に謝る。
誤られたほうの政宗は、それが意外だったのか少し呆気にとられる。
曲のある性格の者ほど、時たま思い出したように普通の対応をすれば、それは周りを驚かせる効果絶大である。
気をとりなおし、政宗は折れそうになった話を急いで立て直す。


「下手すりゃ、お前だって連れ去られていたかもしれねぇんだ」
「―――――!」


ドクン、と柊の胸の音が一際大きく鳴る。
・ ・・そうだ。あの時、あの忍は確かに私の刺青を見ていた。
いくら着物の間から僅かに露になっていたとは言え、すぐに気づけるものなのだろうか。


右腕を押さえ黙り込んだ柊の様子に、政宗は気遣わしげに目を向ける。


「・・・おい、柊?また古傷が痛むのか?」
「・・・政宗さま。一体忍は、どのような目的で娘を連れ去ろうとしたのでしょうか?」
「What? それはまだ正直わからねぇ。 ただ、ここんとこ女の連れ去り事件が城下で多発している。
恐らくほとんどは今回の忍・・・徳川の仕業だ」
「・・・徳川?」
「何か思うところでもあるのか?」


柊に目を向けた政宗から、ふいっと顔を逸らし、いいえ、とだけ答えた。
政宗は柊に何かを問いかけたいかのように沈黙していたが、やがて少しばかり緊迫していた糸を切った。


「・・・怪我のほうは、大丈夫なのか?」
「はい。ほぼかすり傷ですので。心配お掛けしてしまい、申し訳ございませんでした。
・・・よろしければこれ、貰ってください。先の争いで少々形崩れしてしまったと思いますが・・・」


そういって笹の葉に包まれた団子を差し出すと、政宗は豆鉄砲でも食らったかのような顔をした。
次いで少し、優しく微笑む。


「・・・Thanks」
「そう言えば、前田慶次さんには会われたのですか?」
「ああ、さっきな。あいつに先の事情を聞いて、あんたを説教しに飛んできた。
まだ小十郎と客間にいるはずだから、あとで顔出すといい」
「そうですか。まだきちんとお礼をしてないので、行ってきます」


立ち上がり、部屋を出ようとする柊とすれ違い座間、政宗は彼女を呼び止める。


「――おい、柊」
「はい?」


突然、右腕をぐいっと捕まれる。柊は一瞬、刺青を見られるのではないかと身を固くした。


「・・・大丈夫なのか?」
「・・・? 大丈夫、ですよ」
「本当に、大丈夫か?」


政宗の問いかける視線が、いつもより深く突き刺さるような気がする。
そんな視線から逃れるために、柊はその時できる精一杯の笑顔を作って答える。


「はい、大丈夫です」


「・・・そうか。団子、ありがたく頂く」
「はい! それでは」


そういって少し足早に廊下を去っていく彼女の後姿を、どこか呼び止めたい気持ちと格闘しながら政宗は見送った。




――大丈夫、が口癖になったのは、いつからか。
上辺で言ったその一言が、結局相手を余計に心配させ、気遣わせるのかを分かってはいた。
政宗が、気づかせてくれた。


しかしだからと言って、急に自分の気持ちに正直に、ましてやそれを相手に伝えることも、それはとても難しい。

まるで、今まで偽り続けた代償のように――。


急に、政宗と話すのが怖くなった。
政宗は柊の、どうしようもなく弱いところに以前気づいて、立たせてくれた。
そんな彼に、今しがたの自分はどう映ったのだろうか。



・ ・・・幻滅、しただろうか。



回る思念に、柊は頭を振って振り払った。















慶次さん、いいなぁww
成実なみに使いやすいですww
※管理人は決して慶次や成実が嫌いなわけではありません。むしろ大好きです
特に慶次はBASARAにハマるきっかけにもなりましたから



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