アヴィラ 宰相の呟き キアルーク陛下に初めてお会いしたのは、確か陛下が11歳の頃。 私が入隊した次の年に陛下とその当時の将軍の子息であるマルスが入隊されて来たからだった。 軍の上層部達は、それはそれは大騒ぎしていた。 当たり前と言えば、当たり前か。 自分たちの守る対象のはずの人物が入隊してきたのだから。 その当時殿下であったキアルーク陛下に取り入ろうとする者。 幼い陛下の実力に嫉妬する者。 困惑する者。 観察している分には退屈しなかった。 だが私は自ら近づこうとは思わなかったのだが……。 「本日より、キアルーク殿下の希望でレイス以下6名を殿下と同じ班とする!!」 と言う上司の声に驚く。 見れば同じ班にされたのは、実力はあるが上手く立ち回れずにくすぶっている者が多かった。 (そんな班に入れた言う事は将来有望だと思って貰えたと考えていいのかな?) その班で、色々な戦場に行った。 いつも率先して自ら戦おうとするキアルーク陛下を守る為に、同じ班である周りの者達は更なる上達を余儀なくされ、私も、どうすれば効率よく戦えるのかを必死に考える日々であった。 そして……陛下が城に戻られる日。 「同じ班の人間は全員同行せよ。」との言葉に、班の者達は戸惑っていた。 「どう言う事ですか?殿下。」 「見込みのある人物だけを同じ班にと頼んだ。私への忠誠、働き、頭脳。ここにいる全員は国の中枢を担える人物だと判断した。私は、アヴィラを大きく、強い国にしたい。何者にも怯えず、堂々とした国にしたいのだ。」 その言葉に驚く。 たった14歳の子供の、なんて大きな野望なのだろうと。 「その為の礎になって欲しい。」 同じ班の者達は皆、一斉に「御意。」と言う返事をした。 「レイス、お前の才能は軍師に向いているな。だが、いつまでも戦争をしているわけではない、だから戦が終われば宰相になって欲しい。」 そう言われ、戸惑う。 確かに小狡い知恵を持っているかもしれないが、それだけだ。 それなのに宰相に? 断るかどうかを悩んでいる時に「軍師としても学んで欲しいが、宰相になれば内政にも詳しくないといけないだろう?お前に会わせたい者がいる。」 そう言って紹介して貰った人物を私は前から知っていた。 ラファー・ボドリュ卿。 少し垂れ目が特徴の、優しい……本当に優しい人。 入隊する少し前。 城の近くの川の縁で、優秀なのが気に食わないと級友に嫌がらせされた私を介抱してくれた人。 その瞬間に私は運命を感じた。 「はい、陛下。お話をお受けいたします。」 運命の歯車と言うのは、自分で回すものだと思った。 [*前へ] [戻る] |